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tenth  作者: 大友 鎬
第8章 やがて伝説へ
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宿屋


 4


「いやー、ジェニファーがこなかったら正直どうしようと思ったよ」

 ジョバンニさんとともにやってきたジェニファーに安堵を漏らす。

 空中庭園で修行していたもうひとつの理由が間抜すぎてごまかしていたけれど、そもそもジェニファーがジョバンニのところへ帰ってしまって、僕が自力では大陸へ戻れないという事態に陥っていたのだった。

 発着場の存在はもちろん知っていたけれど、大陸を繋ぐ便は生贄禁止の混乱下でうまく機能していなかった。

「首尾は?」

「ジョウジョウデス」

「一晩で出力をそれなりに上げたよ」

「それじゃあ僕のところへすぐに戻れたんじゃあ……」

「ジェニファーが撮影した記録媒体で見たけど、すごい激闘だっただろう。もうほとぼりは冷めつつあるけれど、半月前はすごい熱狂だった。キミが町へ行けばきっと修行どころじゃあなかったよ。空中庭園なら、大陸の冒険者は行きづらいし、集配社の接触も少ないだろうと思ってね」

「そうだったのか……」

 人知れずジョバンニが配慮していてくれていたことに僕は驚く。

 確かにこの半月間、誰かが接触してくることは少なかった。

 空中庭園の人々は戸惑いも多くて、熱狂どころではなく、ジョーはうるさかったけれど、思い当たるのはそのぐらいだ。

「ソレデハ、マスター。シュッパツシマスカ?」

「そうだね。酒場の親父さんにも挨拶は済ませたし。コエンマやジョーに監視はお願いしたしね」

 コエンマたちにはヤマタノオロチの復活の予兆があったら、連絡するように言っておいた。

 これで僕も安心して原点回帰の島に戻れる。

 スキーズブラズニルに乗って僕はジェニファーに伝えた。

「とりあえずジョバンニさんをユグドラ・シィルに送ってから、原点回帰の島に向かおう」

「ゲンテンカイキノシマハ、ハッチャクジョウがアリマセンガ……」

「そっか。だから祭りの日はみんな船で来るんだね」

 飛空艇を持って初めて知る真実だった。

「近くで泊めれる場所は?」

「マンズソウルになら、泊めれるんじゃないかい?」

「マンズソウル?」

「ランク1になった冒険者なら立ち寄るはずだけど……知らないかい?」

「もしかして利き手に曲がったら辿り着く場所だったりします?」

「そうだよ。ああ、なるほど。キミの場合、利き手に曲がると大草原に辿り着くね」

「ええ……それで大変な目に遭いましたけど……でもそれがなかったらアリーに会えてなかったかもしれません」

「とにかくマンズソウルになら、泊めれると思うよ。そうだろう、ジェニファー」

「コウテイシマス」

「じゃあ、そこに向かおう」


 ***


 ジョバンニさんをユグドラ・シィルに降ろしたあと、僕はマンズソウルに向かった。

 マンズソウル自体、初耳でどんな街なのか少し楽しみだった。

「アソコガ、マンズソウルノヨウデス」

 ジェニファーの声に、飛空艇から顔を覗かせる。

 下を向いて見えたのは、一軒屋だった。豪邸のような大きさはないが、一般的な建物よりは大きい。

「あそこが……?」

「エエ、ヤドヤマンズソウルデス」

「宿屋……マンズソウル……」

 ジェニファーの声を復唱する。

 マンズソウルって街じゃなかったのか。

 確かにジョバンニさんはそこが街だと告げてはいない。

 ちょっとだけ拍子抜けしてしまう。

「降りよう」

 なんであれ、発着場があるのならばここで降りて、原点回帰の島に向かうほかない。

 着陸して改めて、マンズソウルを見上げる。4階建ての建物。

 宿屋として見れば意外と大きい。

「やっと来たわね」

 外観を眺めているとそんな声が聞こえてきた。

 その声を僕が間違うはずもない。

「待たせて、ごめん」

 振り向いてアリーに謝る。

「アリー殿こそ、さっき来たばかりではござらぬか」

 隣にはコジロウがいた。

「先に来てたら、時間なんて関係ないのよ」

「やれやれ……でござる」

 ふたりのやりとりが妙に懐かしい。半月前にあったばかりだというのに、アリーの姿が、声が、何もかもが愛おしかった。

「他の連中も来てるわよ」

 アリーが視線を送ったほうを見やるとジネーゼや、ルルルカの姿もあった。

 シッタやアロンド、パレコたちの姿もある。全員が弟子を作るために島に向かうのだ。アエイウは無視しておこう。

 弟子。

 弟子。

 重要なことだから2回、つぶやいてみたけれど、僕に弟子ができるだなんてなんだかむずがゆい。

「なに、ぼさっとしてんの。船に乗るわよ」

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