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tenth  作者: 大友 鎬
第8章 やがて伝説へ
224/874

約束

 2


 ワームの巨体が倒れる。

 かつて多くの冒険者が数人がかりで倒すそれを今回倒したのはたったの3人の冒険者。

 正確に言うならば3人の冒険者と一匹の魔物。

 しかもここまでなら最速記録だった。

「ムィ」

 と喜びに満ちた鳴き声が洞窟内に響く。

MY(まだ喜ぶ)のは(早い)ですわ、ムィ」

「そうだね、気を引き締めていかないと」

 ムィに油断大敵を教え込むアテシアの言葉にクレインが反応する。

 アテシアとそう短くはない時間を過ごすことでクレインはなんとなくだがアテシアの言葉が分かるようになっていた。

「でももうすぐボスだ。試練の前にした約束は覚えてる?」

 確認するようにデデビビはふたりに問いかける。

「大丈夫だよ」

(大丈夫)ですわ」

「でも無理はしない」

「それも分かってる。でもそれはボクの台詞だよ。そっちこそ無理はしないでよ、デビ」

「確かに……僕が一番不安だよ、でもやるって決めたのは僕だ。このくらいやらなきゃね」

(それでは)、行きますわよ」

 ワームを倒した三人は、道中を軽々と突破し、ボスゴブリンの部屋へと飛び込む。

 そこは【単独戦闘】の結界が発生する部屋。

 三人(と一匹)は散り散りになるが、それでも約束を果たすためボスゴブリンへと挑んでいく。


 ***


「遅いですねえ」

 リンゼットはそうぼやきながら、三人の帰りを待つ。

 投球士だったデデビビが札術士になったことをきっかけに、もともと投球士の師匠をしていたリンゼットが札術士の師匠にもなってからいろいろなことがあり、リンゼットは投球士の師匠を別の人へと引継ぎ、デデビビやアテシアという、いわばはぐれた冒険者の師匠になっていた。

 三人はすでにランク0のレベル上限に達しており、リンゼットは何も心配なんてしていなかった。

 それでも万が一を考えてボスゴブリンの弱点を教えておいたから、何の憂いもないはずだった。

 なのに、一位が表示され、三人の名前が表示されなかったときリンゼットは少しイヤな予感を覚える。

 もしかしたら三人のうち誰かが落第者になってしまうのか。そんな予感。

 そんなことはない、とリンゼットは否定。

 今年の挑戦者は100人。一位からすでに30位までは表示されていた。

 そこに三人の名前はない。

 次々と冒険者がクリアしていき、すでに80位まで表示されている。

 そこにも三人の名前はない。

「どうなっているんでしょうか?」

 三人のレベルであれば十分に上位でクリアできるはずだ。

 今年は賭博を行ってないが、一位から三位までには賞金を出すようにしている。

 それ目的で、妨害工作をする冒険者も少なからずいるだろう。

 それに巻き込まれた可能性がある。

 リンゼットの不安の芽が芽生えていく。

 81位の欄にようやくアテシアの名前が、91位の欄にクレインの名前が表示される。

 やっぱり何かあったのかもしれない。

 99位の欄にアーケロス・グリダシーズという、魔法が使えないクレインの次に落第者になる可能性を秘めていた少年の名前が表示される。

 クリアしてないのはあとひとり、デデビビだけだった。

 札術士という特別職の恩恵を授かったといえば聞こえがいいが、それまで投球士として積んでいた経験を一切合財摘まれ、短い鍛錬期間しか得られなかったのは大いなる痛手だ。

 リンゼットも師匠を引き受けたものの、それば手探りで当たり障りのないことしか教えられていないのは確かだ。

 どうか落第者にならないでくださいね。

 それは保身のための祈りではなかった。

 デデビビの努力を無駄にはしたくなかった、否定したくなかった。

 99位の表示から、30分経ってようやく100位の表示がされ、デデビビの名前が表示される。

 リンゼットは何があったのか、不安で仕方がなく、柄にもなく走り出していた。

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