空中庭園編-37 転削
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「改めて行くぞ!」
ここからが本番だろう。サイトウは超高速で周囲を回り始めた。
目で捉えられているとはいえ、さすがに体が追いつかない。
僕だって必死。
どのタイミングで仕掛けてくるか。【収納】に鷹嘴鎚〔白熱せしヴァーレンタイト〕を収め、球をふたつ握る。
来い! 念じた途端、背後に気配。
背面からの不意打ち。
そう見定める前に疑念。そんな常套な手段を今更使ってくるのか?
いや、今更だからこそ使うのか。
確信じみたものを感じ、僕は振り返る。
やはりサイトウは不意打ちを狙っていたようで、こちらに向かってきているようだった。
と思っている頃には眼前。
瞬間、投球。
サイトウの攻撃のほうが速いが僕が放ったひとつは【転移球】。
転移限界ぎりぎりの距離へと転移。
けれどサイトウはすでに数歩の距離。案の定、転移場所へと先回りしていた。けれど、距離がわずかにあればいい。
手元にあった素材球を下に叩きつけ、急いで鉄球を【造型】。すかさず【剛速球】を繰り出す。
超速度で迫っていたサイトウと【剛速球】は刹那に距離を詰める。サイトウは後ろへと大きく跳躍。距離を広げて【剛速球】を待ち構える。
「これで終わりだっ!」
サイトウが【投手倍返弾】を放つ構えで僕を見る。
僕は距離を詰めるべく前進していた。
それを見てサイトウはどう思ったのだろうか。
無謀? 悪足掻き?
だとしたらやっぱりまだキミは集中し切れてない。
素材球が不要だったから下に投げつけた、と思っていたのならサイトウはどこかにまだ、甘さが残ってる。
素材球を投げつけた地面にはぽっかりと球と同じ大きさの穴が空いていた。
それに気づいていればまだなんとかなっていたかもしれない。
サイトウの足元から胸元めがけて【転削球】が襲いかかる。
【投手倍返弾】しようとしていたサイトウには不可避の球がサイトウの胸へと襲撃。
これには堪らず【緊急回避】。【剛速球】ごと避けようと画策する。
素材球を地面に叩きつけた勢いがなくなる前、サイトウが【剛速球】に対処しようとする隙を狙って、僕は素材球を【掘削球】に変化させていた。
それだけじゃない、叩きつけるときに【変化球・急上昇】として僕は投げている。
つまり、地面を掘って進む【転削球】は途中からその道筋を上へと変化し、サイトウへと向かったのだ。
すかさず僕は鷹嘴鎚を振りかぶる。
【緊急回避】中のサイトウに避ける術はない。
直撃したサイトウの体がよろめく。
数瞬前に投げていた【麻痺球】が命中し、わずかに弛緩。
その隙に連続四投。
セイテンのときにも使った【変化球・利手曲】に【変化球・急落下】【変化球・逆手曲】【変化球・急上昇】による球の猛襲。
弛緩した身体では対処しきれないサイトウに全て命中し、さらに【剛速球】がサイトウへとダメ押しのように当たる。
「俺は……負け、ない……」
わずかに言葉を残し、サイトウは倒れた。
「しょ……勝者……冒険者ぎゃわ……冒険者側……」
震える声で今まで存在感を完全に消していた司会者が宣言する。
僕の、僕たちの勝利だった。
「よっしゃああああああああああ!」
シッタが人一倍、恥ずかしいぐらいに叫ぶ。
「うるさいじゃんよ」
少し疲れたようにシッタが言い、フィスレが呆れていた。
「あんたにしては、よくやったわ」
近づいてきたアリーが嬉しい言葉を投げかけてくれる。
「うん」
「でも、一騎討ちしはじめるとか大いに呆れたけどね」
「それは……まあ……」
「まあそれがあんただし、止めるつもりはなかったわよ。負けるとも思ってなかったし」
照れたようにそう言ってくれるアリーに僕は少しだけ微笑む。
「のん気に話してる場合ではないようでござるよ」
「それは分かってるよ」
少し現実逃避したかった、と言えば嘘になる。
戦闘の技場に勝った僕たちに起こった現象とよく似ている。
デジャヴのような気がして、分かっていたけど頭痛が襲う。
僕たちが勝ったことで、生贄を捧げるのは禁止になった。
でもそれをおいそれと認めれるわけがない。
勝負した闘球専士はともかく、見ていただけの観客は。
「ふざけるな」だの「果し合いは無効だ」だの、そんな言葉がたくさん飛んでいる。
一騎討ちすれば納得してくれると思っていたけれど、損な簡単な話ではなかったようだ。
脱出するのは簡単だけれど、まずは事実を認めさせないと果し合いした意味すらなくなってしまう。
「静まれ!」
そんななか、現れたのはアカサカさんだった。




