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tenth  作者: 大友 鎬
第7章 放浪の旅
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空中庭園編-34 有利

 34


 コジロウが芹沢鴨に近づくと、距離の近かったデュセとジジビュデも合流してくる。

 視線だけで、手伝うとデュセがメッセージを送ると、コジロウが頷く。

 芹沢は近寄られてもなお、鉄錐棒を出さない。

 【魔球】主体で戦うと決めた以上、武器はむしろ邪魔だった。

 コジロウが忍者刀〔仇討ちムサシ〕で一閃。

 それを芹沢が避けると、流れるようにジジビュデ、デュセと続く。

 芹沢はその連続攻撃を大跳躍で後退。

 瞬間、球を投げる。【速球】なみの速度でジジビュデへと飛んでいく。

 ジジビュデが【空蝉】を使用した瞬間、芹沢の投げた球が消失する。

【空蝉】だけが虚しくその場に残り、そうなると上空へと退避したジジビュデも虚しく映る。

 ジジビュデの前で消失した球は、後ろに続いていたデュセの前に出現。

 慌てて防御姿勢をとろうとするが、間に合わない。

 かなりの速度を残したまま、球がデュセを強襲。

 芹沢鴨が使ったのは【魔球・消失(ステルス)】。対象に届くまでに何度か球を消失させることができる。

 いわゆる転移中と似ている。

 転移の際、移動するまでの間は世界のどこにもいない。

 それと同じ現象が球に起こっている。

 【魔球・消失】はこの世界から球を一時的に消失させる。

 しかも消失している際、球は減速しない。

 【転移球】とは違い、消えている間に向きを変えることはできないため、消えた球は、球の進行方向に出現する。

 そのため使いどころは限られてしまうが、球が減速しないため、威力が減衰しないのが利点だろう。

 ほぼトップスピートの球にデュセは顎を打ち抜かれる。

 顎でなければまだ挽回できたのかもしれない。

 デュセは何もできぬまま、気を失う。

 それでも顔にはうっすらと笑み。

 痛みに喜んでいる、というわけではない。

 彼の【逆境】が働いていない。

 ということは今の状況は圧倒的ではないにしろ有利だと才覚が判断しているのだ。

 そう思っていたデュセの眼前で、ジジビュデが墜落していた。

 デュセが倒されても怯まず攻めてくるコジロウを牽制し、回避技能が不発に終わったジジビュデを追撃するために芹沢が取った判断は好判断だった。

 芹沢はすぐさま、ジジビュデへ向かって【魔球・大回転】を投げる。回避したばかりのジジビュデは防御するものの、剛速球を緩和しきれず、墜落。

 まともに受身を取ることも敵わず、そのまま倒れる。

 一方で、一撃を食らわせようとしていたコジロウは体を高速回転させる芹沢に近づけずにいた。

 途端に芹沢は鉄錐棒を取り出し、回転を利用したまま振り回してくる。

 回転が止まるまでの何連撃。

 その場から動けはしないが近寄れもしない。

 収まるまで待つのは愚の骨頂だが、試しに投げた【苦無】も回転に弾かれてしまう。

 芹沢とコジロウの視線が合う。

 芹沢は回転のなかでもしっかりとコジロウの位置を把握しているのだ。

「これならどうでござるか」

【影分身】で数を四人ほど増やしたコジロウは回転中の芹沢へと襲いかかる。

 一人目のコジロウが芹沢へと向かうと芹沢は回転の勢いを使って【大撃打】を繰り出す。

 イエロウほどの飛距離はでなかったが、大きく飛ばされる。

 二人目のコジロウはそれに合わせて後ろから強襲。

 芹沢はその間際に一回転。コジロウの姿を把握していた。

 【魔球・大回転】でコジロウを打ち抜くと三人目のコジロウが土の中から芹沢の足を掴む。

 芹沢は捻りの力だけでそれを脱し、少しだけ宙に跳ぶ。

 位置を若干ながら横にずらした頃には、三人目のコジロウが空中に出現。芹沢は【転移球】を放ち、地中から空中へと三人目を移動させていた。

「「はあああああああ!」」

 三人目にトドメを刺そうとした瞬間、左右から同じ声。

 芹沢めがけて、四人目と五人目が【伝火】で突撃。

 芹沢はこの時点で三人目が本物だろうと目をつけていた。

 【影分身】は複雑な命令ができず、しかも短時間しか存在できない。そもそも敵の目を欺くのが主体の技能だ。

 芹沢が四人目と五人目を偽者と決めつけたのは、その性質を知っていて、その動きがいかにも単調だと思ったからだ。

「詰めを見誤ったな」

 芹沢はにんまりと笑う。

 三人目(本物)がピンチになったから、四人目、五人目を咄嗟に自分へと向けたのだと芹沢は推測する。

 四人目と五人目を無視して三人目へと回転したままの鉄錐棒を当てる。

 直後に三人目が消える。

 続いて四人目、五人目も消えていた。

 振り向いて二人目のほうを見るとそこにも形跡はなかった。

「一人目が本物!? なんのために?」

「このためでござるよ!」

 瞬間、【転移球】で戻ってきたコジロウが二人目の確認で余所見をするかたちとなった芹沢の正面へと出現。

「甘いっ!」

 それでも芹沢は瞬時に反応する。

 鉄錐棒が忍者刀を弾く。思わぬ反撃にコジロウの体勢が怯んだ。

 なのに、コジロウは言った。

「拙者の勝ちでござる」

 直後、芹沢の頭が揺れる。脳震盪どころではない衝撃。そのまま気絶して倒れた。

 それは鍛えられた筋肉の一撃。

 それを繰り出した人物は、すかさずポーズを取る。

 その正体はモッコス。モッコスは【転移球】で遠くに飛ばされてしまったが、その結果、他の9人の闘球専士と離れていた芹沢との距離を縮めた。

 縮めたとはいえ、すぐに近寄れる距離でもなかったが、コジロウは飛ばされたモッコスを目敏く見つけていたのだ。

 【影分身】で隙を作るという闘い方は古来から使われ続けてきたために、まさか本人自体が最初に突撃してくるとはあまり考えられてはいない。

 その心理を突いてコジロウはわざと攻撃をくらい、吹き飛ばされることでモッコスとの距離を縮め、【転移球】を使ってモッコスを上空へと飛ばした。

 そうして自らも【転移球】で芹沢に近づいたのだ。囮として。

 コジロウ、デュセ、ジジビュデの三人しかいない、そう思い込んでしまった芹沢は最初から負けていたのだ。

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