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tenth  作者: 大友 鎬
第7章 放浪の旅
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空中庭園編-33 連攻

 33


「外界の剣士がこれほどまでとはっ……」

 大石内蔵助良雄は嬉しくて笑う。赤穂インフェトリマンズは元剣士系が多く、筆頭たる大石も元剣士系。

 剣技の発祥の地たる空中庭園に住まう者としては現役を退いたとしても剣の使い方は、まだどこかで大陸よりも優れていると思っている節がある。

 伝承者一歩手前、皆伝手前まで到達した剣士の達人である大石もまだまだ大陸の剣士には負けないと思っていた。

 だが劣勢。アルの繰り出す連続攻撃に大石は防戦一方になっている。

「だが、攻める気概が感じられないお主の剣に私は倒しきれないよ」

 一方で、大石はアルが消極的なのを笑う。

 アルとしては若干ながらリアンを守りきれなかったことを悔いている。

 【守鎧】があったとはいえ、その後の速さに対応できず、斉藤一の攻撃を防いでやることができなかった。

 もう二度と傷つけまいと誓った身としては、悔しくあった。

 だが悔いてもいられまい。

 アルは中距離から【円放】を放つと【鎧通】で突進。それらをうまく捌いた大石へと距離をつめて【連撃】。防がれるのを見越して【新月流・二日月(ふつかづき)】へと続ける。

 【新月流・二日月】が避け切れなかった大石へと掠る。むしろそれは大石の狙い。大石はわざと最小限の回避にとどめ、攻めに転じる。

 打ち合いをせずにアルはすぐさま退く。

 それが大石が消極的に感じる理由だ。アルのランクとレベルを大石は知らないが、それでも実力者だとすぐに見抜いた。

 なのに、攻めは消極的。守りに徹している。

 それじゃ何か狙いがある、と言っているようなものだ。

 聡い大石はすぐに勘付く。

 ちらりとアルの視線が動く。

 視線の先にはヴィヴィと武市が戦う姿。メレイナとセリージュが倒れ、ムジカが詠唱していた。

 それだけで大石は狙いに気づく。

 アルはヴィヴィたちをどうにかして助けようとしているのだと。

 だから積極的な攻めに転じず、守り一辺倒なのだと。

「そうやって集中力を欠いていて、私を倒せると思うなよ」

「集中力を欠いたつもりはない」

 手早く大石の攻撃に反応。【新月流・居待の捌】で捌き、一言。

「機を待っていただけですよ」

 瞬間、アルは動き出す。

 柄頭を打ちつける【新月流・小望(こもち)()】で素早く大石の体勢を崩すと続け様に下から上へと切り上げる、逆袈裟の【新月流・上弦(じょうげん)()】を繰り出す。まともに受けた大石へとアルは突きの構えへと転じて【新月流・(さく)(つき)】で喉元を狙う。

 超高速の突きに堪らず大石は【緊急回避】。アルは突き出した剣の勢いを殺さずに体を捻った。繰り出すのは超回転斬り【新月流・眉月(まゆづき)(けん)】。

 回避した方向へと二、三回転して最後に大きく前に踏み出し、横薙ぎの一撃。

 大石も負けてはいなかった。回転に合わせて繰り出された斬撃を【緊急回避】のさなか鉄錐棒で合わせて弾く。

 最後の一撃は、前に踏み出した足に合わせて同じ歩幅ぶん、後ろに跳んでみせた。

 その腕前に感嘆するアルだが、アルも止まらない。

 最後の踏み出した一撃は【新月流・眉月の剣】の最後の一撃ではない。そこから二つのノが交差したような×字の衝撃波が飛ぶ。

 その正体は【新月流・十六夜の斬】。

 大石はその衝撃波を鉄錐棒を前に構えて防ぐ。

 剣を弾いたような衝撃を覚えた大石は、そこでようやく気づく。

 そのまま体勢を崩さずニ撃目を防御。【新月流・十六夜の斬】をニ連発されたわけではない。

 左向きのノに続き、右向きのノの衝撃波を発生させていたのだ。正面から見たときに×のように錯覚してしまったのはアルの動作が一振りだった影響もあるだろう。

 一振りで二発の衝撃波を時間差で発生させる、それが【新月流・十六夜の斬】なのだ。

 そうして接近を許した大石へと繰り出されたのは【新月流・小望の打】。

 体勢を崩した大石の脳裏に嫌な予感。アルが続けざまに繰り出したのは【新月流・上弦の弐】。

 それはアルによる新月流の無限ループだった。

 単純なパターンだからいつかきっと、と淡い期待を抱くことは大石にはできなかった。

 隙のない攻撃は反撃する隙を与えてくれない。

 無理に攻撃に転じれば深手を負うと簡単につく。

 さてどうするべきか。逆転の一手を探そうとするさなか、

 ドンと大石は勢いよく何かにぶつかってしまう。


 ***


 勢いもあり、ぶつかった何かと大石はまるで吹き飛ばされたかのように体勢を崩す。

 何故気づかなかったのか、気づけなかったのか。

 大石にはそれほどまでに自分がアルの猛攻を防ぐのに夢中だったと気づき、悔いる。

 ぶつかった何かの正体は武市だった。

「狙いはこれか……」

 思わずぼやく。

 アルが機を待っていたのはこのためだ。

 アルは武市の動きを読み、新月流の剣技を連続で繋げながら大石を誘導して、ふたりがぶつかる可能性に賭けていたのだ。

 もっとも分の悪い賭けだとアルは思っていたが、幸運にもムジカの才覚が作用していた。

 ムジカが絡めば分の悪い賭けなど関係ない。

 偶然にも、いや必然的に大石と武市はぶつかった。

 わずか一瞬。

 それだけでもアルには十分だった。

「【新月流・――」

 アルの体が消え、ふたりをすり抜ける。

 ふたりの体から鮮血。

 瞬きする暇もなく、アルは上空にいた。

「壊軌月蝕】!!!!!!!!!!」

 手には屠殺刀〔果敢なる親友アーネック〕。

 超急降下による降り降ろしが密着していたふたりを強襲。

 初撃で深手を負ったふたりは【緊急回避】を発動すると同時に後退。

 大石は左へ、武市は右へとそのまま退避。

 だが当然のことながら、アルの攻撃は終わらない。

 同時にムジカが魔法詠唱を終える。

「轟く炎よ、大車輪が如く敵を撃て! 【炎轟車】!」

 車輪のような大きな炎が転がるように武市へと向かう。 

 武市は【緊急回避】での回避を試みるが、思わず膝を突く。体力を消耗しすぎた結果だった。

 それでも逃げようと足を動かして転んだ武市を【炎轟車】が包み込んでいく。

 大石も、アルが追ってきているのは分かっていた。

 だから冷静だ、と自分が思っていもどこか冷静ではいられない。

 その証拠に大石はアルの追撃の初手――単なるフェイントに【緊急回避】を使ってしまう。

 アルは【緊急回避】が終わらぬうちに超高速の一手を繰り出す。

 逆L字の軌道。

 【新月流“追撃の太刀”・壊軌日蝕】。

 成す術もなく大石は倒れる。

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