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tenth  作者: 大友 鎬
第7章 放浪の旅
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空中庭園編-32 幸運

 32


 仲間たちが溶けていく、溶けていく。

「どうして、お前だけが、生き残っているんだ?」

 仲間たちが、怖気づく彼女の胸へのナイフを突き刺そうと近づいてくる。

「ごめんなさい、ごめんなさい」

 彼女は泣き叫ぶが、仲間たちは止まらない。

 彼女の胸にナイフが突き刺さり――


 そこでムジカはいつも目を覚ます。

 ムジカはユグドラ・シィルで助かってからいつもそんな夢を見る。

 大草原での暮らしが始まり、ネイレスやメレイナ、セリージュといった新しい仲間ができてから見る頻度は少なくなってきたものの、それでも悪夢を見ることがある。

 それはムジカの罪の意識。自分だけが助かってしまったという罪の意識。

 デュセと同じようにムジカも唐突に自分の才覚が何であるかを気づいた、気づいてしまった。

 ムジカはそれから自分が悪夢を見るのはこの才覚があったからだと認識している。

 〈幸運(フォーチュン)〉。

 絶大に運が良くなる。ただそれだけの才覚だが、よくよく考えてみれば何度もこの才覚には助けられてきた。

 自分が毒素に殺されなかったのも、アイジムとリッソムが殺されたときに自分が殺されなかったのも。

 全部、この才覚のおかげなのだ。

 決してそれだけではないはずなのに、ムジカはそう思う。思ってしまう。そして自分にこの〈幸運〉がある以上、周りは不幸になってしまうのではないか。

 運というのは世界に一定量しかなくて、それを自分が多く奪ってしまっているのではないのだろうか。

 だとしたら、ネイレスもメレイナもセリージュも不幸になってしまうんじゃないだろうか。

 そんなことを一度ネイレスに吐露したことがある。レシュリーが大草原に来る前のことだ。

 でもネイレスは笑い飛ばした。

「だったらムジカが強くなればいいよ。そうすれば解決よ。運良く助かったあと、不幸になりそうなアタシたちを実力で助ければ誰も不幸になんてならないじゃない?」

 ね? 簡単でしょう? とさらに笑うネイレスは確かにムジカに道を作った。だからムジカはここにいる。

 レシュリーたちを不幸にしないために、ここにいる。

 魔法士系のムジカが生き残っているのも〈幸運〉たる所以だろう。

 斉藤一が魔法士系を狙いだしたとき、ムジカは一番最後に狙われた。結果、今生きている。

 だから、自分のできることを精一杯やろう。

 そう決意して今、ムジカは武市半平太小楯に向き合っている。

 守っていたメレイナとセリージュは何もできずに倒れ、ヴィヴィは満身創痍。

 現状、転んだときにできたかすり傷程度のムジカは、運良く狙われていないだけ。

「あぎょうさん、さぎょうご、たぎょうさん、かぎょうに――」

 ムジカの祝詞はとっくに発動していた。

 ムジカはリアンと対照的に属性定義の部分を短めにしているぶん、オリジナルの部分が長い。

「さぎょういち、わぎょうご、だぎょうご、かぎょうご、だぎょうし、さぎょうさん、かぎょういち」

 魔法士系それぞれの特徴となる独自の祝詞は十人十色。

 個性が出る部分となる。

 ムジカは昔聞いた恐い怪談と幼少時は恐かった魔法という現象を結びつけるという意味で、この言葉を使っている。

 あ行の3番目「う」、さ行の5番目「そ」、それぞれそういうふうにならべていく。

「うそつきさん、どこですか」

 オオカミ少年を探すようにムジカは問いかける。

 その言葉を受け、周囲の空気がざわついたように見えた。リアンとは違うような反応。

 ムジカにとって魔法は恐怖の対象。同時に憧れの対象。

 恐いもの見たさの好奇心に駆られるように、憧れに心惹かれるように、心がざわつく。

 その様子を周囲の空気が表しているようでもあった。

 武市がヴィヴィを振り払い、ムジカへと向かう。

 精一杯やる! ムジカは決意するように目を開き、逃げない。

 必死に震える体を抑えつけ、恐怖と向き合った。

 ヴィヴィは行かせはしないと、振り払われた体を無理やり修正。

 振り向き様に【打蛇弾】を放つ。

 しかし、無理やり修正したのが悪かったのだろうか、足が途端に引き攣る。

 満身創痍ながらも戦ってきた代償とでもいうのだろうか、引き攣った足にもつれ、ヴィヴィは前向きに倒れる。

 そこでヴィヴィにとっては奇跡、ムジカにとっては幸運な出来事が起こった。

 【打蛇弾】の初撃がダッ! という音とともに地面を打つ。

 その反動でヴィヴィは宙を跳び、一回転。棒高跳びといえば分かりやすいだろうか、棒を利用した跳躍に似ていた。

 驚きながらもヴィヴィの跳んだ先には奇しくも武市がいた。

「やあああああああああああああ!」

 似合わないようなヴィヴィの雄叫び。

 武市が気づく。いつの間にか、大跳躍で迫るヴィヴィ、魔法詠唱するムジカ。どちらを対処すべきか。

 一瞬の逡巡のあと、武市はヴィヴィのほうへと振り向き、鉄錐棒〔小さな力チョシュ〕の先端と柄を握り、水平に持つ。

 迎え撃つ構えの武市へとヴィヴィの跳躍の勢いを利用した振り下ろしが放たれる。

 迎え撃った武市の足が地面にのめりこむほどの衝撃!

 弾き返されたヴィヴィが後ろに跳ぶ。

 そうして地面に着地する頃、それが起こった。

 武市の姿が消えていた。

 正確には、真横から飛んできた何かにぶつかり、その何かとともに武市は吹き飛ばされていた。


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