表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
tenth  作者: 大友 鎬
第7章 放浪の旅
211/874

空中庭園編-31 馬鹿

 31


 あの力。

 それはエウレカ家に代々引き継がれてきた力だ。

 そもそも魔充剣が、冒険者の名前しか刻めないというルールを魔充剣の祖であるタンタタン・エウレカが決めたとしても、それを破る捻くれ者は必ずいる。

 そんなとき、タンタタンが存命のβ時代ではタンタタン自らがそんな輩を粛清していた。

 そのときに用いた力が、ルルルカのいう、あの力だ。

 タンタタンの死後、その力は子孫でもある料理人ドドリカに引き継がれ、以後もエウレカ家に代々継承された。

 タンタタンの死後、タンタタンの教えを守るために粛清のために使う者もいれば、その場を抑えるために使う者もいた。

 何にせよ、"あの力"はエウレカ家に継承され続けてきた。

 タンタタン曰く、鍛冶場の馬鹿力。ドドリカ曰く、家事場の馬鹿力。

 その名を引き継いで、エウレカ家は"あの力"をこう呼んでいる。

 カジバの馬鹿力と。

 アルルカとルルルカがその力を使えるようになったのはごく最近。

 そもそもその力はランク5相当の力がなければ、使う資格を得ない。

 ランク5になってようやくアルルカとルルルカはその資格を得た。

 とはいえ、カジバの馬鹿力は不用意に使えない。

 カジバの馬鹿力は体力を消耗し、全力を出せば命までをも削る。

 カジバの馬鹿力の100%を出さなければ体力消耗のみに留まるが、出せる力は一瞬。

 その一瞬の最大火力で決着をつけなければならない。

 発動は一瞬。

 資格を得る前から持っていた感覚。それがカジバの馬鹿力だと資格を得てなんとなく分かった。

 その感覚を神経全域に広げていくだけだ。

「行くの!」

「はい」

 ふたりの髪が、周囲に蛍が飛び交うように発光した。

 それだけではない、薄い光が傍からも分かるようにふたりを包んでいた。

 そのままアルルカは近藤勇へと走り出し、ルルルカは手元にあった匕首のほかに【収納】によって、さらに10本の匕首を取り出す。

 操剣の力が、カジバの馬鹿力によって引き出されたかたちだ。

 唐突だが、ルルルカはヤギユウシリーズと呼ばれている匕首を集めるのが趣味だった。

 イチベエ・ヤギユウからジュウベエ・ヤギユウの初代~十代までのヤギユウシリーズは特にお気に入りでいつも使用している10本だが、それ以外にもルルルカはヤギユウシリーズの匕首を持っていた。

 匕首〔暖かいハルベエ〕、匕首〔暑いナツベエ〕、匕首〔承るショウベエ〕、匕首〔海のイソベエ〕、匕首〔お揃いのセイベエ〕、匕首〔お楽しみのユウベエ〕、匕首〔踊りのナンベエ〕、匕首〔陰陽児アンベエ〕、匕首〔勝ち越しのマケンベエ〕、匕首〔がっくりトンベエ〕。

 その10本と通常時に操る匕首10本。

 匕首〔ちゃっかりイチベエ〕、匕首〔どっぷりニヘエ〕、匕首〔どっきりサンベエ〕、匕首〔がっちりヨンベエ〕、匕首〔びっくりゴヘエ〕、匕首〔しっかりロクベエ〕、匕首〔ばっちりシチベエ〕、匕首〔がっかりハチベエ〕、匕首〔ひったくりキュウベエ〕、匕首〔野牛ジュウベエ〕。

 合わせて20本を近藤勇へと一斉に操り、強襲。

 もちろん、操れる本数だけではなく、その速度、操作性ともに向上している。

 対峙する相手からしてみれば一本一本を握り締めた暗殺者が20人いるようなものだ。

 圧倒的な数の暴力をもって近藤勇への包囲網は一瞬に完成していた。

 魔双剣士であるアルルカもまた、その枷を外していた。

 攻撃魔法階級3、援護魔法階級1までしか宿すことができない魔法剣を、上級職である魔癒双剣師と同等の階級まで引き上げる。

 それぞれ階級6まで使用できるようなったアルルカは己が剣に魔法をふたつ宿す。

 【雲泥水(ウンディーネ)】と【雷気刃(グロムキンジャール)】。

 どちらも攻撃魔法階級6の魔法だ。

 魔充剣タンタタンに濁流のような濁水と、白竜のような雷電が螺旋を描くように展開される。

 その二つの魔法はぶつかることはなく延々と剣の周囲を流れてはいるものの時折、雷電が通電し、威力と大きさを増していた。

 膨れ上がり、雷電はある一定の大きさまで達すると、途端に小さくなる。それを交互に繰り返していた。

 濁流のなかに混じる泥水の泥の部分が絶縁体の代わりとなり、電気を遮断。水の流れによってその泥も永遠に絶縁体となっているわけではないので、電流の大きさが変化しているのだ。

 アルルカの濁流雷撃剣とでもいうべき、その魔法剣の一撃を、近藤勇は前に突っ込むようにして避ける。

 鉄錐棒で受け止めると、通電して感電。

 それ以前にもしかしたら、その刃で鉄錐棒が切断させる恐れもあった。

 武器を失うことは痛い。負けに繋がる。それだけは避けたい。

だからこその回避。

 今の闘球専士のなかで近藤勇は一番職歴が長い。経験も何もかも一番積んでいる。

 その自分が負ければ士気が下がる。

 だから負けるわけにはいかない。

 【剛速球】をアルルカが防御した瞬間、【蜘蛛巣球】を投げ接近。

 投球速度を抑えたことで、近藤勇のほうが【蜘蛛巣球】よりも先にアルルカの接近に成功する。

「っ……」

 その技術にはさすがにアルルカも対抗できない、何が狙いなのかも経験不足もあり、予測できない。

 それでもアルルカは突き進む。

 それは未熟ゆえの英断。

 近藤勇はその行動を予測していたものの、してくる可能性は低いと考えていた。

 そのせいかわずかに回避が遅れ、【緊急回避】に頼らざるをえなくなる。

 【蜘蛛巣球】と入れ替わるようにすぐに後退。

 歴戦を潜り抜けてきた、近藤勇の熟練された【蜘蛛巣球】と今日初めて使ったような、攻撃階級6の魔法がふたつ宿った魔充剣がぶつかる。

 力は拮抗しているようにも見えた。

 それでも展開された蜘蛛巣を突き破り、アルルカの猛進は止まらない。

 【蜘蛛巣球】の速度がそれほどではなかった、アルルカが英断をした、カジバの馬鹿力を発動していた。

 色々な要素はある。

 それでも、実力から見れば上の近藤勇へと迫っていた。

 近藤勇は笑う。彼は負けることなど考えていない。

 手には鉄球。【剛速球】の構え。

 【蜘蛛巣球】を打破されることも考え、そのタイミングに合わせて【造型】していたのだ。

 【剛速球】を全力で放り投げると、そのときを待っていたかのようにアルルカがふたつの魔法を解除。

 【猛毒酸】と【硬化】をすぐに展開。

 毒々しい色をした紫の酸が剣へと付着。

 そのまま、【剛速球】に相対する。

 援護魔法階級2【硬化】によって剣の強度を増し、アルルカは【剛速球】を受け止める、その技能のもとである鉄球が【猛毒酸】によって溶かされていく。

 てっきり攻めてくるものだと思っていた近藤勇がすぐに気づく。

 攻撃力のあるアルルカは壮大な囮。

 本命は――

 周囲を探るとすぐにルルルカを見つける。

 けれどその周りには匕首はない。アルルカと闘っている最中にルルルカはどこかへと匕首を移動していた。

 答えはすぐに見つかる。

 近藤勇へと真上から匕首が降ってきていた。

 それは豪雨のように近藤勇を貫通し、すぐに魚群のようにひとかたまりになって、近藤勇へと超突進してきた。

 激痛を堪え【緊急回避】。魚群を一気に回避しようと思ったのも束の間、その魚群からはぐれた魚のように、何本かの剣が【緊急回避】に合わせて向きを転換。

 【緊急回避】中に【緊急回避】は不可能。連続行使はあくまで一動作が終わったあとだ。

 その特徴を知ってかしらずか、ルルルカの卓越した操作は近藤勇の腹へと匕首を突き刺すことに成功していた。

「とどめなの!」

 宣言とともに、残り19本の匕首が一気に強襲。

 成す術もなく近藤勇は倒れる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ