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tenth  作者: 大友 鎬
第3章 見放されるのは命
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迷走

 10.


 リゾネット・リリー・リゾネシアの歯車が狂いだしたのは、共闘の園(タッグパーティー)を失敗してからだろう。

 レシュリーやアルたちに遅れて試練を受けたリゾネットは、きっと合格できると信じていた。信じて疑わなかった。あのリアンたちが合格したのだから、合格するのは当たり前だ、と。

 けれど合格しなかった。

 リゾネはリアンに初めて会ったときから、自分の灰色の髪よりも美しい白銀の髪をもつリアンに嫉妬していた。

 だからせめて強さだけでも、そう思っていたのに、強さも美貌も勝てなかった。

 それがリゾネには耐えられなかった。

 果てには周囲に集まる仲間も、リアンのほうが優秀なような気がしてきて、イラついた。ハンソンをコケにしているわけではないが、ハンソンの強さも、アルやアネクに劣っていのは事実だ。

 新人の宴ザニュービーズデビュー後の祝賀祭のとき、ランク5冒険者の誘いを断ったのがそもそも間違いだったのだろうか。そんな疑念が蠢く。リアンたちはすぐに勧誘に来ていた女冒険者についていったが、自分はそんなことしなくても合格できると自負していた。それが慢心だったのかもしれない。

 けど、同じく誘いを断ったジネーゼやリーネはアルたちと同時期に共闘の園(タッグパーティー)に挑んで、合格していた。

 だとすれば、認めたくはないけれど、自分には冒険者の才能がないのかもしれない。リゾネは悩んだ。

 一緒に冒険していたジネーゼやリーネには見放された。というより、元からなんとなく一緒にいただけで、仲間意識はなかったらしい。そのときリゾネはそれを初めて知った。

 ランクを違えたのを理由にバラバラになった。

 けれどハンソンはリゾネとともにいた。共闘の園(タッグパーティー)をともに受けたパートナーだったし、ハンソンはリゾネのことが好きだった。リアンに嫉妬することでさえ、ハンソンの目には愛らしく見えていた。

 そんななか、リゾネは「強くなりたいか」とハバに話しかけられた。リゾネはすぐに頷いたが、ハンソンは警戒していた。それでもリゾネが一緒に来てほしい、と言うからついて行った。ずっと一緒にいたかったハンソンに断る理由なんてなかった。

 エクス狩場にある小屋――バハの住処に向かう最中、ふたりは何者かに襲われた。それは罠だった。バハ以外の三人が襲撃者を装い、リゾネとハンソンは捕らわれた。リゾネが目覚めたとき、ハバは謝った。ハンソンを死なせてしまった、と。取り乱したリゾネは精神安定剤と言われて、薬を飲まされ――そこからの記憶はない。ハンソンは目覚めてすぐ、目の前で行なわれていた光景に激昂し、拘束すらも解いて立ち向かったが改造者の四人に叩きのめされ、新しい改造(チート)のための実験台にされ、殺してくれと懇願しても生かされ続けた。

 どこで間違えたのか、それとも最初から間違えていたのか、嫉妬せず、リアンと手を取り合えばこんなことにならなかったかもしれない。


 けれど、それは所詮もしもの話でしかなかった。


 現実は常に不幸がつきまとう。


 リゾネとハンソンはディオレスの手で殺された。


 救えなかったと絶望するレシュリーはついに気づくことはなかったが、記憶を取り戻したリゾネと絶望のなか生かされ続けていたハンソンは、死ぬ間際、ふたりで抱き合いながら、少なくとも、こう思った。


 ありがとう、と。


 レシュリーは認めないかもしれないが、それは少なくともディオレスのいう救いではあった。


 ただ、不幸にも不運にも、その想いがレシュリーに伝わることはない。


 ***


 ディオレスとともにアリーたちと合流した僕は傷心していた。

「どうしたの?」

 アリーが尋ねても僕は答えようとはしなかった。

「放っておけ」

 ディオレスが言うものだからアリーやコジロウはそれ以上、僕の相手はせず、放っておかれた。むしろそれが良かった。

 アリーが試練を行なうのにまだ時間があった。何せ、人形の狂乱(ドールズパーティー)は一ヶ月に一度しかないのだ。

 アリーはその間、修行に励むらしく期日ギリギリまでアジトに戻るつもりはないのか、数日以上、アジトに戻ってきてない。

 ディオレスはふらふらと出てはニ、三日に一度戻るというのを繰り返していた。たぶん、ディオレスも修行しているのだろう。

 コジロウは泊りがけで修行ということはせず、アジトにいることも多かった。

 僕は、といえば閉じこもり、リゾネとハンソンを救えなかったことに責任を感じていた。もっと別の手段があったはずなのだ。コジロウが出かけない日には武術を教わり、そのことを忘れる。アジトに誰もいない日はひとりでで悶々と後悔していた。僕はきっと何ができたはずなのだ。

 救えなかったふたりに代わって誰かを救いたい、そんな気持ちが僕の足を無意識に酒場へと運ぶ。僕はそこに貼られる依頼書を見つめていた。

 そうしてひとりでもできそうな依頼ならこなしていった。治療関係や弱い魔物の討伐程度なら僕だけでもできた。でも気分は晴れなかった。

 アリーがいなくて良かった。いたらウジウジしている僕を殴っていたことだろう。でもそれで僕の気持ちが救われるなら、何度でも殴られてもいいと思っていた。

 人形の狂乱(ドールズパーティー)の日を迎え、アリーも戻ってきていた。この日だけは僕は気丈に振る舞い、アリーを見送った。

 アリーはそんな僕の表情に思うことがあったようだけど、何も言わずに「行ってくる」とだけ言った。

 その後、ディオレスがリゾネとハンソンがなぜ彼らの犠牲者になったのか、調べてくれた。

 リゾネとハンソンは仲間に置いていかれて、焦ってしまったのかもしれない、と僕は調書を読んで思った。

 アルにアネク、リアンは僕と同時期に試練を受けてランク2になった。そのときにジネーゼやリーネもランク2になっていた。そんななか、リゾネやハンソンは少し遅れて共闘の園(タッグパーティー)に挑み、失敗してランク2になれなかった。

 リゾネはリアンのエーテルを盗むほど、リアンをライバル視しているようだった。

 だからリアンに負けたくないという気持ちがどこかにあったように思える。だからどこかで、自分とリアンの差、ランクという形で明確に現れた差が許せなかったのかもしれない。

 僕が落第者としてニ年間過ごしたときのような気持ちだろうか。あのときは焦っていたのか、と言われれば、確かに大陸に渡った今よりも、焦っていたように思える。

 そんな状態では失敗が続く。冷静さにも欠ける。だからリゾネとハンソンは間違った選択をしてしまったんじゃないだろうか。

  ディオレスは殺すことこそが救いだといったけれど、たった一度の失敗、過ちで、殺すことだけが救いになるのは間違っているような気がしてならない。

 僕がリゾネを回復させてしまったのは、リゾネを救ったことにはなっていないのだろうか。死者の最期の言葉が聞ければ、とふと思う。聞こえてくるのは怨みだろうか、感謝だろうか。それさえ分かれば僕は僕がやった行為の答えが分かる。

 今延々と迷い続けて僕は今日も、酒場に向かう。

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