空中庭園編-22 精霊
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「ソノテイドデスカ」
ジェニファーは叩き潰した土佐ナイツ上田楠次元永に呟く。
ジョバンニが想定してジェニファーに組み込んだ戦術プログラムは、ランク6相当のものだ。
だたし、格上の相手にも対応できるようにジェニファーには学習能力が組み込んである。
それでも初戦となるジェニファーにとって楠次元永は初めての敵であり、初めての対人でもある。
それにしては手応えがない。
ジェニファーにとってはその感想を素直に吐き出しただけだが、それは辛辣にも見える。
日々研鑽を積んできた闘球専士が、プログラムを組みこまれた機人に言われたのだ。
気絶して聞こえてなかったとしても立つ瀬がない。
それは今翻弄されているBCT全員の感情を逆撫でしていた。
それすらもジェニファーの戦術プログラムに組み込まれたプログラムのひとつだ。
とはいえ、それは挑発以外の何物でもない。
敵をひきつけ注視させ、足止めをする。
ジェニファーは合理的にそれを判断し、実行していたのだ。
「ツギハドノカタデスカ?」
ジェニファーが言うと我先にとBCTの面々が駆け出していく。
***
「精霊さん、精霊さん、私の声が聞こえますか」
リアンの祝詞に空気が変わった、ような気がした。
それは気のせいかもしれないし、気のせいじゃないのかもしれない。
それでもどことなく張りつめた空気が、声に合わせて一瞬だけ柔らかくなったような気がした。
あたかもそれはリアンの声に精霊が応えたようだった。
「西方に熱。東方に潤」
リアンは祝詞を続ける。
瞳を閉じて、集中して。
こんな戦いのさなか、瞳を閉じるのは無謀そのものだろう。
けれどリアンは信じていた。
アルを信じていた。
アルなら、こんな状況でも大丈夫だと。
シャアナやエル三兄弟にはその集中力と信頼感に戸惑ってしまう。
守ってくれた仲間への信頼の証として、もちろん魔法詠唱はしなければならない。
だからこそ、敵の攻撃を避けるためにも足は止めない。
現状、逃げるだけで手一杯になっているなかで、リアンだけが唯一足を止めている。
「北方に熱、南方に潤。北西方に熱、南東方に潤」
リアンの祝詞は方角を利用して属性を決めていく。
熱はそのまま熱、潤は湿。生まれるのは風。
それをひとつ、ふたつ、みっつ、と重ねる。
現状は階級3。
けれどリアンの詠唱は続く。




