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tenth  作者: 大友 鎬
第7章 放浪の旅
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空中庭園編-21 逆境

 21


 その傍らでデュセは奮闘する。

 経験値稼ぎになる。

 自分が護衛を引き受けた冒険者たちにそう言って、自らはお金のために参加した此度の戦いだったが……

 経験稼ぎになったのかどうか。

 自分の考えが甘かったのかどうか検証する必要性が出てきた、とデュセは思うものの今はそんな場合じゃない。

 デュセの護衛対象だった仲間たちはジジビュデを残して倒されている。

 少しでも人数不足を補おうと、無頼漢やヤン、マーとともに戦っていたものの、ヤンとマーはふたり仲良く倒されてしまっている。

 近くで戦っていたルクスやマイカもグラウス、マリアンをそれぞれ守ったときに負った傷がたたり倒されていた。

 打つ手はあるのか検証の余地がある、とデュセは思いながらも、それはレシュリーの役目だと思い直す。

 今は雇われの立場。金に見合った戦いをせねばと切り替える。

 近くで無頼漢の4人が赤穂インフェトリマンズ間喜兵衛光延に襲いかかっていた。

 その戦法を提唱したのはデュセだ。

 4人はその戦法で壬生ウルフズ林信太郎と田所弘人を倒していた。

 ケンタウロスと化したロバートが牽制するように強弓〔弱くてもツヨシ〕で矢を乱射。矢を回避する喜兵衛光延の右腕へとダークウルフへと化したワンワがかみつき、スクリームスパロウと化したコッコーが足を連続でつつき、キャットピープル(半人半猫)と化したニャーゴが連続で引っかく。

 それで倒れなければ離脱し、再び攻撃を加える。

 一撃離脱のヒット&アウェイ。

 それがデュセの提唱した戦法で、無頼漢はランク2ながらも敵を倒すことに成功していた。

 それを横目で確認しながら、デュセは唯一生き残ったジジビュデとともに蝦夷リパブリックス永井尚志を追撃していく。

 無頼漢は気づいていないが、無頼漢が4人でひとりを集中攻撃できたのも、デュセがさりげなく周囲の闘球専士を挑発。

 注意を引いて、無頼漢たちへの注目を逸らしていたのだ。

 そのデュセの周囲には無頼漢とは対象的に闘球専士が大勢いるが、それらすべての攻撃を弾き、デュセはひとりずつ確実に闘球専士を倒していた。

 すでに壬生ウルフズの亀井造酒之助はデュセに切り伏せられている。

 そんなデュセは尚志を追い詰める。

 重魔剣士は魔法と魔法剣を使える魔法士系の職種だ。

 魔法を放てる放剣士と似てはいるものの、重魔剣士は杖を用いて魔法を使わなければならない。

 重魔剣士は魔法剣に宿せる魔法が放剣士よりも少ないものの、魔法によってランク6の魔法が扱えるのが特徴だろう。

 魔法士系の職業のため、前衛向きではなく、あくまで魔法剣は近接時の護身用という意味合いも強いのが重魔剣士だが、デュセは杖を持っていない。

 その愚かというべき所業は、しかしてデュセを強くしていた。

 自分に才覚がある。

 それを感じるのは個人差があり、才覚があることすら知らずに死ぬ冒険者もいるのが事実だが、デュセもそうだった。

 自分に才覚がある、そんなことをデュセは思いもしなかった。

 気づいたのはほんの少し前、封印の肉林に閉じ込められていたときのことだ、そこでデュセは愛杖、双子石の合斑樹杖〔死に物狂いのドギンとソギン〕を失った。

 この杖は兄石の白樹杖〔死狂いドギン〕と弟石の斑点樹杖〔物狂いソギン〕を合わせてできる珍しい合体杖で貴重だった。

 貴重であり、愛杖だった武器を失ったことのショックは半端ないものがあったが、何より主戦力にしていた魔法が使えなくなることはほぼ死を意味していた。

 腹を空かせた冒険者にデュセは襲われ、逃げるさなかに武器を落として、追い詰められていた。

 慣れぬ魔充剣で戦うしかない、どことなく諦め、いろいろな意味を含んで覚悟を決める。

 そこでデュセは自分に才覚がある、と知った。

 それは唐突だった。閃き、というべきかもしれない。

 自分にはこういう力がある、とそこで突然理解する。

 追い詰められたデュセは自分の力が満ち充ち満ちていることに気づく。

 殺すのは忍びなかったがそれでも死なないためにデュセはその冒険者を切り殺した。

 魔法士系の自分には考えられないほどの力を発揮する自分が信じられなかった。

 〈逆境(ブロークンハート)

 その才覚は自分が危機にあるほど、自分の能力を強める。

 単純ながらにして強力な才覚である。

 しかもこの才覚は魔法士が杖を持たない、剣士が剣をもたない、そんな状況でいとも容易く発動できる。

 デュセはそんな経験から、今も杖を持っていない。

 それを逆境だと体が錯覚し、才覚が発動する。

 追い詰められたと錯覚したデュセが尚志を追い詰めていく。

 魔充剣テーラベッセには援護魔法階級2【加速(アクセル)】が宿っていた。

 本来ならば術者、対象者の速度を加速させる【加速】が剣に宿った際、加速するのは剣速とでもいうべきか、攻撃の速度が上昇する。

 3秒に一度攻撃できると仮定すれば、デュセの能力なら、それを2.8秒に一度に変化させる。

 果たしてそれでどうなるのか。事実、デュセも0.2秒が命運を分けると思っていない。

 でもそれでいい。また追い詰められた、身体が錯覚する。

 自身の戦術ミスでさえも〈逆境〉は強くしてくれる。

 【加速】以上の剣速でデュセは尚志に襲いかかった。

 尚志は倒したが、デュセの危機は続く、継続する。

 なにせ、デュセは杖を持っていない、魔法を唱えられない重魔剣士だから。

 身体が錯覚し続ける限り、デュセの逆境は終わらない。

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