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tenth  作者: 大友 鎬
第7章 放浪の旅
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空中庭園編-17 隠刃

 17


 その一方で、アエイウの怒りによって劣勢になった冒険者もいる。

 文句を垂れたジネーゼもそうだが特にセレオーナとパレコは顕著だった。

 今まで均衡だったはずが、後方の奇襲以降押され始めている。

 もちろんふたりはアエイウだけがその要因だけとは考えていない。

 アエイウの攻撃範囲が、ふたりの集中力を欠いてしまったのは事実だが、奇襲によって仲間が倒されてしまったという同様も、劣勢の要因になっていた。

 大石内蔵助良雄の木錐棒〔手弱女ミチザネ〕が剣魔士パレコの武器壊長剣〔返し刃のアンナロッテ〕を止める。

 木錐棒(ウッドバット)は鉄錐棒と違い、木製の武器だが、その強固さは魔法士系が使う木製の杖とは段違いだった。

 老神木と呼ばれる空中庭園で一番長寿の樹は金属にも匹敵するのだ。

 パレコは苦笑する。

 武器壊長剣(ウエポンブレイカー)は武器を壊しやすい作りになっている。それこそ剣壊剣と同じく、左右にある二つの両刃に武器を挟み、鏝の原理で折ることが可能だった。

 剣壊剣より大きい分、あらゆる武器に対応していた。

 もちろん、取外式巨大槍や長大剣のような大きい武器は当然無理だとしても。

 木錐棒ぐらい可能だろうと思っていたパレコだったが、一度試してみて逆に剣が折れそうになり、挙句、力任せに一回転させられていた。

 その経験もあり、もう一度試そうとは思わない。

 その特徴を封じ込められたから、武器壊長剣で武器を壊さずに戦っている。

 それがなんだか自分らしいようなそうでもないような、よく分からない感覚になっていた。

 腰に下げた猿岩石の聖宿木杖〔隠し刃のシャーロット〕が揺れる。

 剣魔士にはよくある光景だった。

 剣魔士は剣も使える魔法士だ。魔法をいつでも詠唱できるように杖の準備は怠らない。【収納】すれば邪魔にはならないが、それでは魔法は詠唱できず本末顛倒。

 ゆえに、腰に提げる、背負うというのが一般的だった。

 腰に提げていた猿岩石の聖宿木杖〔隠し刃のシャーロット〕と武器壊長剣を取り替えると

「天よ、応じよ」

 パレコは始動の祝詞をつぶやく。

「水は冷たき湿る……」

 短く祝詞を続けて、水、氷属性の条件を見なす。

 さらに続けようとして、パレコはそこで言い留まる。

 アエイウが問答無用に振り回す刀身が内蔵助の後ろからせまってきていた。

 わざわざそこで言い留まってしまったのは、内蔵助に当たるからと思ったからかもしれない。

 その機微を悟った蔵助良雄は確認することもせず刀身を跳躍。

 続けてその刀身はパレコを狙う。

 回転するように刀身の下をくぐり、

「顕現せよ、アクアジェッ――」

 詠唱を切り替え、【吹水(アクアジェット)】を唱えようとした矢先、パレコは吹き飛ばされ意識は闇に落ちた。

 跳躍後、内蔵助は【転移球】でパレコの眼前に移動するとともに強力な【低姿勢滑走】を繰り出していたのだ。

 【低姿勢滑走】は回避はもちろんのこと、攻撃にも使える。闘球においては球を【球捕(キャッチ)】、もしくは【打法】する相手を吹き飛ばすために使う。

 しかもパレコが不運なのは低姿勢だったことだ。本来なら下腹部、足に当たる【低姿勢滑走】が上半身に当たってしまっていた。

 けれどパレコは魔法詠唱ともにあることをしていた。

 その結果、かすり傷ではあるが内蔵助は足に傷を負ってしまう。

 パレコは詠唱すると同時に、手に持っていた猿岩石の聖宿木杖〔隠し刃のシャーロット〕を振り抜いていた。

 杖頭がはずれ、中から鋭利な刃が飛び出す。

 杖を刀とみなした場合、杖頭が刀の柄、杖の柄が鞘にあたると思えばイメージしやすい。

 不意打ちのように飛び出した刃は、確かに不意をつき、内蔵助に傷を負わせていた。

 たったそれだけかもしれないが、それでも傷を負わされた内蔵助はパレコのことを確かに評価していた。

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