表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
tenth  作者: 大友 鎬
第7章 放浪の旅
192/874

空中庭園編-12 久方

12


 アリーとコジロウが僕の横に並ぶ。

 久しぶりの感覚。

 腕は鈍っていないだろうか。

 不安を胸中に持ちながらも、まずは向かってきたのはBCT48と呼ばれる、打法を得意とする闘球専士。

 MVP48は僕たちを迂回するように後方に向かっていた。

 アロンドたちが守る魔法士系を一掃する作戦かもしれない。

「守るより、攻めるわよ」

 アリーの声。

 MVP48が手強いからと言って、BCT48を疎かにしていい相手ではない。

 MVP48の先頭、壬生ウルフズの荒木田左馬之助がコジロウとぶつかる。

 瞬間、コジロウの姿が消えた。

 瞬く間に左馬之助が上空に吹き飛び、倒れる姿が見えた。

 コジロウは前方に勢いよく転がって、左馬之助の顎を打ち砕いていた。

 【韋駄転(スピードローラー)】から【顎割(クリーンヒット)】のコンボだった。

 このコンボを使われた相手としてはいきなり視界から対象が消え、探すよりも早く致命の一撃を食らってしまうので回避はほぼ不可能だ。

「へぇ、結構やるわね」

 コジロウの姿を見て感心したアリーも目の前の敵へと駆け出していく。

 僕が久しぶりに出会ってからずっと気になっていたのは、アリーの持つ三本目の剣だった。その剣は鞘に収められ腰にぶら下がっていた。ちなみに他の二本は言うまでもなく魔充剣レヴェンティと狩猟用刀剣〔自死する最強ディオレス〕だ。

 他の二本が磨耗したときの予備として持っているのはおかしいことではないけれど、アリーは三本とも場に出している。

 予備であれば【収納】していたほうが軽量化できて動きやすい。つまり、その三本目も戦闘において必要で決して予備をブラフで出しているということではないのだろう。

 口にでも咥えて戦うのか。

 それは実用的はないような気がするし、アリーの口にそんな力が秘められているように思えなかった。というか思いたくなかった。

 と僕が見ていると、アリーの三本目の剣が鞘から抜かれた。

 アリーの両手が塞がっているにも関わらず、つまりそれは勝手に鞘から抜けたことになる。

 応酬剣〔呼応するフラガラッハ〕。

 一見、ロングソードに見えるその剣は、アリー曰く、使用者の意志を汲み取り、勝手に動き回る剣なのだという。

 つまり、その剣は自動操作と思考機能を兼ね備えていた。

 この剣の名に刻まれているのは操剣士フラガラッハ。

 その剣士の意志が、この剣の異質な特徴を与えたのではないのか、と言われていた。

 応酬剣〔呼応するフラガラッハ〕はアリーを援護するように、背後に回りこもうとしていたBCT48、赤穂インフェトリマンズの片岡源五右衛門高房を牽制。

「弾け散れ、レヴェンティ!」

 さらに応酬剣に警戒して散ったBCT48、土佐ナイツの河野万寿弥通明と小笠原保馬正実に襲いかかるのはレヴェンティから解放された銀色の泡、【水鉄泡(メタルバブル)】。

 等身大ぐらいまで膨れ上がった水鉄泡はそのまま、万寿弥通明と保馬正実を包み込む。

 その間を抜けアリーは五右衛門高房を強襲。そのままレヴェンティで一突きして、狩猟用刀剣で回転するように薙ぎ払った。

 ふたりを一瞬にして屠るアリーの背後にBCT48、蝦夷リパブリックスの小笠原賢蔵の姿。

 そんな賢蔵も瞬く間に崩れ落ちる。

 それをしたのは応酬剣〔呼応するフラガラッハ〕ではなく、僕。

 応酬剣〔呼応するフラガラッハ〕はアリーが僕に頼り過ぎないために用意したのだろう。

 そうすれば、僕の自由度が上がり、選択が増える。

 アリーは僕のことを考えてその武器を用意した。

 けれど僕はそれを素直に認められない。

 アリーを援護するのはやっぱり僕の仕事だ。

 それだけは譲れない。譲ってなんかやらない。

「サポートは僕の仕事だよ」

 応酬剣〔呼応するフラガラッハ〕に嫉妬して、僕は対抗するようにアリーへと群がってくるBCT48を倒していく。

「やっぱりあんたの援護が一番ね」

 アリーは僕の活躍ぶりに苦笑する。

 応酬剣〔呼応するフラガラッハ〕をアリーは自分から遠ざける。

 他の冒険者の援護に回したのだ。コジロウも近づいてくる。

「とっとと叩き潰すわよ」

「久しぶりの感覚でござるな」

「行こう!」

 僕たちを脅威と感じたのか、BCT48の多くが僕たちへと向かってきた。

「切り刻め、レヴェンティ!!」

 アリーが攻撃魔法階級5【風鎌鼬ティフォーネファルチェ】を宿した魔充剣を一振りするたびに、波状の風が敵に襲いかかっていく。

 その波状風を受けたBCT48は吹き飛び、さらに無数の傷を作っていく。

 さらに僕も動いていた。アリーの攻撃をたくみにかわし接近するBCT48、二本松ギャルソンズ木村丈太郎へと球を投げる。

 僕が球を投げるとそいつは自慢の鉄錐棒(バット)で打ち返そうとした。けれどその鉄錐棒は空を切る。僕が投げた球はその直前に停止し、そして僕の許へと戻っていた。

 僕が投げた球は【回転戻球】だった。

 球を跳ね返す打法が得意とは言え、さすがに使用者の手許に戻ってくる球は跳ね返せない、という僕の推測は当たっていたようだ。

 その確認と同時に僕は逆の手でも【回転戻球】を投げていた。僕が〈双腕〉であることは知らなかったらしい。反応できずに丈太郎は体を仰け反らせ倒れる。

 それに対応できなかったのがおかしかったのか、鉄錐棒を握り締めて僕に近づいてきた男がほくそ笑む。

 狗党テンペスタースの武田彦衛門。彼もBCT48だろう。

 MVPには選ばれなくても、彼らは球を跳ね返すことに誇りを思っている。それができなかった同僚を嘲笑していたのかもしれない。

「後ろ!」

 僕は言う。それをブラフだと信じた彦衛門は振り返らずに僕へと突進。

 球を跳ね返すがごとく渾身の一振りを……

 する前に、コジロウの跳び蹴りが背中を強襲。鈍い音とともに倒れる。

 背中を踏み台にして【韋駄転】で回転。再び空中へと飛び上がる。

 かく乱しながらの遊撃にコジロウは磨きがかかってきた。

 水鉄泡に捕らえた万寿弥通明と保馬正実を倒したアリーはそのまま三人組へと斬りかかる。

 援隊メールズに所属する三人、菅野覚兵衛、新宮馬之助、池内蔵太のコンビネーションは抜群。

 覚兵衛が【牽制(フェイントステップ)】でアリーの空振りを誘う。その術中にはまったアリーがあえなく空ぶるとその隙をついて馬之助と蔵太が鉄錐棒でダブルスイング!

 アリーが宙にいたコジロウに引っ張られ、その大振りを回避、落下と同時に舞い踊るように馬之助と蔵太を切り裂く。

「沈め、レヴェンティ!」

 そのままレヴェンティを地面に突き刺し、【地盤沈下(ランドコラプス)】を解放!

 背後から【低姿勢滑走】していた狗党テンペスタースの山国兵部ごと覚兵衛を巻き込み、アリーの周囲の地面が沈下していく。

 バランスを失ったふたりをコジロウが【爆剣(ボムブーメラン)】でしとめ、さらにその爆発でアリーへの接近を阻む。

 そのコンビネーションを止めようと、壬生ウルフズの和田隼人、越後三郎、中村久馬、菅野六郎が【爆剣】を放ったコジロウへと四方から【剛速球】を放っていた。

 堪らずコジロウは落下速度を速める。

 がそれすら、折込済みの四人。

 【剛速球】に思えるほどの速さをもつその球は実は【変化球】。

 【変化球・利手曲】、【変化球・逆手曲】、【変化球・急上昇】、【変化球・降下】にそれぞれ変化し、【変化球・降下】だけがコジロウを襲う。

 直撃する瞬間、僕が放った【転移球】がコジロウを転移。

 転移地点を見切った隼人と三郎がその地点でコジロウの頭を球に見立てて思いっきり殴打した。

 と思いきや、瞬間それは木に変化していた。【変木術(ウッドチェンジ)】によって瞬く間に木に変化したコジロウが潜むのは土の中。【潜土竜】によって潜っていたコジロウは瞬時に現れ、自分を狙っていたふたりへ不意の一撃。

 反応できた三郎だけが【緊急回避(アボイダンス)】により、無理やり回避。あり得ない方向に体が回るが致命傷だけは防いだ。

「くそっ!」

 毒づいて一緒に球を投げていた久馬、六郎を探すが、そのふたりはすでに地面に倒れていた。

 僕の【速球】とアリーの連撃の前に成す術はなかった。

 狗党テンペスタースの藤田小四郎、武田彦衛門が六郎を倒したアリーに背後から迫っていた。

 アリーは振り向かず、前へと疾走。

 入れ替わるように僕がふたりの前に転移。

 【破裂球】を放り投げると、驚きはしたものの、冷静に小四郎が【投手倍返弾(ピッチャーレイド)】によって、その球速を倍にして跳ね返す。

 がそこにいたのは彦衛門だ。

 【転移球】によって彦衛門の背後に回っていた僕は、再度【転移球】を放りを僕がいた位置へと転移させていた。

 がそれも彦衛門は可能性として見切っていたのかもしれない。

 すぐさま打法技能【犠牲蠅(サクリファイスフライ)】によって球を打ち返す。【犠牲蠅】によって打ち返された球は球速を半減させ真上に飛んでいく効果がある。

 よって元の球速に戻った【破裂球】は一定まで上にすすむと、落下。

 球速を弱めつつ、地面へと落ちてくる。

 同じ球を跳ね返せるのはひとり一回まで、打法技能にはそんな誓約がある。

 落下すれば破裂する、そう理解しているふたりだったが、打法技能はもうその球には使えない。

 それどころかふたりはすでに倒されていた。

 前進していたはずのアリーは実はそのまま引き返して転移されられた彦衛門を倒していた。

 僕は僕で彦衛門の後ろに転移した後、小四郎を啄ばみ倒している。

「残り3」

 【破裂球】が周囲のBCT48を牽制するように爆散するなか、声が飛ぶ。

 それはアロンドさんの声。

 僕たちだけではなくMVP、MVB、MCPと戦っている周囲の冒険者にも聞こえただろう。

 全員が中央に向かって走り出す。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ