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tenth  作者: 大友 鎬
第7章 放浪の旅
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空中庭園編-10 邂逅

 10


 目覚めると酒場にはもう誰もいなかった。

 僕の背中には毛布がかかっている。

 『宿屋で寝たけりゃ、鍵は開けたままでいいぜ。禽取は雅京一安心安全な街だからな』

 そんな書置きが机の上に置いてあった。

 酒場のマスターの配慮だろう。

『レシュリーさんが眠られたあとは誰も来られませんでした』

 ルルルカの文字だろうか、そんな書置きも見つけた。

 だとしたら今日集まった人数で打ち止めだろう。

 昨日と合わせて……それでもかなりの数集まったような気がする。

 眠気を飛ばすように考えてみた。

 今日来てくれたのはアロンドに、その知り合いのジャムとコッカ。

 シッタにフィスレ、シュキアと社員になったフレアレディ。相変らず変態のアエイウと、その仲間のエリマさんにアリーン、エミリー、初顔のミンシア。

 一発逆転の島で戦ったシャアナにシメウォン、ライバルト、ヒルデにルクスとマイカ、グラウスにマリアン。

 それにセレオーナ、ダモン、ケッセル、クレイドル、パレコ、ミハエラ、キューテン、センエンといったオジャマーロを倒す際に手伝ってくれた冒険者も忘れちゃならない。

 リアン救出時に襲いかかってきた魔物からユグドラ・シィルを救うのを手伝ってくれたアンナポッカとガリーもいる。

 傭兵としてきてくれたのはランク6のデュセにその仲間コロレラにアビンガ、クルシュリテ、ヴァンヴェ、ジジビュデ。

 そして『無頼漢』という獣化士の集団の4人、ワンワにロバート、コッコーにニャーゴ。

 放剣士モモッカにバードル、ドッカーにモンキッキ。

 カロロ、キロロ、クロロにコロロの同時詠唱を得意とする4人組に仲のいい、ヤンとマー。

 そして大草原から駆けつけてくれたメレイナにムジカ、セリージュ。

 それにヴィヴィ、ルルルカ、アルルカ、モココルの4人を加えると57人。

 昨日の20人を加えると77人。

 相手の数は196人だから、倒すのは一人当たりニ~三人といったところになる。

 これならなんとか、なるんじゃないだろうか。

 少しだけ安堵する。

 でも、どことなく不安だった。

 夜が明けていく。

 果し合いの日はもう今日だった。


 ***


「何、しらけた顔してんのよ」

 嘘だと思った。

 幻だと思った。

 夢、なんじゃないかと思った。

 酒場の入口に、

「アリー!」

 僕は胸に飛び込む。

 アリーの胸に飛び込む。

「どうして、ここに?」

 来てくれたことは嬉しいけれど、僕たちが会うのは新人の宴の次の日だったはずだ。

「あんたが無茶するって聞いていてもたってもいられなくなったのよ。約束……破ることになっちゃったけど、私だって心配してるのよ」

「うん。ごめん……ごめん、けど……」

「でも救いたいって思ったんでしょ。呆れる……全然、反省がないわ」

 ごめん、と僕は謝りながらも抱きついたアリーから離れようとはしなかった。

「いいのよ。それも含めてあんたで……そういうあんたを私は好きになってるんだから」

 アリーが照れながらそんなことを言うものだから、僕はよりいっそう強くアリーを抱きしめる。

「いつまでいちゃついているでござるか」

 冷ややかな声が飛んだ。

 見れば、コジロウがいた。

 だけじゃない、顔を真っ赤にしたリアンと視線をそらしたアルもいる。

「いつからいたの?」

「いつからも何も一緒に来たんでござるから、最初からでございるよ」

「すいません……見るつもりはなかったんですが」

「ごめんなさい、ごめんなさい」

 アリーはゆっくりと僕を引き離す。

 僕は引きはがされない。

 アリー養分が足りてない、などとバカになってみる。

「いい加減にしなさい……」

 アリーが力強く僕を引き離して、でこぴんしてくる。

 でこぴんしながらもにやついているのが、これまたカワイイ。

「これ、いつまで見ればいいんでござるか……」

 コジロウが呆れ果てていた。

 ゴホン、と咳払いで照れ隠しをして仕切りなおす。

「アリーの事情は分かったけれど、コジロウもアルたちも来てくれたんだね」

「まあ、拙者はアリーに、レシュ殿がまたバカやっているから助けないと、と言われてきたのでござる」

「オレたちはレシュリーさんに黙って冒険に出た手前、どうしようか迷いましたけれど、いろいろと手伝ってもらった恩返しもしないと思い、はせ参じました」

「アルに詳しく聞きました。何からありがとうございます」

「お礼はいいわよ。レシュの性分だし」

 アリーが代わりに言って笑う。

 こうでなくては。

 僕も思わず笑ってしまう。

「今まで何をしていたか、存分に知りたいけれど……まあ、今はいいわ。もう今日なんでしょう、その果し合いの日」

「そう。人数はアリーたちも含めて約80人。相手は196人。倍以上の相手と戦う必要があるんだ」

「まあ、なんとかなるんじゃない」

 アリーの何の根拠もない言葉。

 でもそれだけで勇気が湧く。

 とそこに

「さあ、いよいよだね」

「頑張っていくの!」

 ヴィヴィとルルルカが酒場へとやってくる。

 親しげな雰囲気を察したアリーが僕を密かに睨んだ。

「このふたりとは一緒に旅をしてたんだ」

「一緒に? 旅を?」

 体を密着させるように近づいて僕の頬を抓ると

「知ってるわよ。アルから多少の事情は聞いてるもの! でも! あとでゆっくりその辺も含めて説明しなさい!!」

「分かった。分かったから、アリー」

 それに僕が好きなのはアリーだけだから、頬が解放された途端、ひっそりと囁く。

 アリーは顔を真っ赤にして僕を叩いた。

 僕に告白したヴィヴィはその様子を苦笑してみていた。


 ***


 雅京――第24区画、僑都。

 雅京の中間に位置するその区画は公家が住まう区画だ。

 雅京のなかで最も豪華絢爛で女性の比率も高い。

 その僑都には、一際大きく、そして一面黄金でできた庭を持つ屋敷がある。

 マユ・クゲの屋敷だ。

 その縁側。

 そこにその主は鎮座していた。

 対面するのは土下座している質素な服の男。

 公家とそれ以外の対面は、許されておらず、対面といいながら、面――つまり顔を見ることは許されていない。

「あっとは外界人が負けるのを待つだけやな」

 マユ・クゲは土下座する男に、というよりも独り言のように呟いた。

 マユ・クゲにとって、その男は、いや雅京に住むすべての人間は駒である。自分たちが生き残るための駒。

 女性である以上、マユは公家の生まれでなければ死ぬ可能性がある。

 いや、今もない、とは言い切れない。マユの父親はともかくほかの公家は、いよいよとうとう公家以外の女性がいなくなればマユを犠牲にすることもいとわないかもしれない。

 それはマユとしては気に食わない。

 マユは、公家という身分、そして公家という庭名を持つ。

 それすなわち、公家の直系であることの証明だった。

 だから死ぬわけには行かぬ。

 そのためにマユは土下座している男を利用した。

 この男の妹を軟禁し、いつでも生贄に利用できると脅し、命令を聞かせた。

 その命令とは、観光でも冒険でもいい、外界からやってきた冒険者を利用して闘球専士と果し合いをさせることだ。

 闘球選士はこの内界のエリート中のエリート、負けるわけがない。

 アカサカには根回ししている。

 冒険者が負ければ、外界の女どもを生贄に使える。

 そうすればマユは死なない。

 それがマユ・クゲの目的だった。

「お主はこのまま、結果を見守り、その結果をわらわに伝えるんやな、タナカ」

「分かりましたでヤンス」

 コエンマ・タナカは土下座したまま、目の前の主人にそう答えた。

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