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tenth  作者: 大友 鎬
第3章 見放されるのは命
19/873

改造

 8.


 コジロウへと矢が高速で強襲していた。おそらくランク2弓士三つ目(スリーアイズ)セイダー・カイザーの仕業だと判明していたが、場所の特定には時間がかかっていた。眼前の敵が特定するための時間と隙を与えてくれないからだ。

 コジロウがアリーとともに応戦していたのは四人のなかで唯一のランク3物操士、百腕の主(ヘカトンケイル)バハ・ム。百腕の主などと名乗ってはいるものの、本来の腕とあわせても四本しかない。その四本の腕はそれぞれ蛇腹剣を持っていた。右上腕には〔百足足のギンジ〕、左上腕には〔千鳥足のガンジ〕、右腕は〔蛇足のグンジ〕、左腕は〔力不足のゲンジ〕。

 見た目ではまったく違いの分からない四本の蛇腹剣を巧みに操るバハの攻撃の奔流を防ぐか受け流すだけでアリーとコジロウは精一杯だった。


 ***


 それにしたって、凶悪すぎる。

 僕が対峙するのはランク2とは言えど、超高速詠唱の魔道士と、ミノタウロスの筋力とケンタウロスの脚力を兼ね備えた獣化士。魔法士が本職(メイン)、剣士が副職(サブ)である魔道士の魔法の威力は賢士や双魔士に比べれば見劣りするが、超高速詠唱がそれを補っていた。

 一方、本職(メイン)が操士、副職(サブ)が魔法剣士の獣化士は魔法剣も操作も使えない代わりに、【獣化】を使うことで、本来の能力に魔物の能力が上乗せされ、さらに魔物の特殊能力が使えるようになるのだ。今回の敵はそれに加えて、ニ種類の魔物を組み合わせるという荒業を使っている。改造(チート)は反則過ぎると改めて感じた。

 茂みを身を隠しゆっくりと移動する。

「死ね、死ね、死ね! 【強炎(バーン)】」

 僕を探すのが面倒なオンリーロンリーは僕ごと茂みを焼き払う。茂みから出てきた僕を待ち構えるのは、リュリューシュ。戦斧剣〔狂い咲きバーナード〕を振るおうとするも僕は皮肉な笑み。何か忘れてないか?

 リュリューシュの馬体に拡散する五つの衝撃。ふたりの改造者(チーマー)が僕に夢中になっている隙をついて、樹木の上に身を隠していたディオレスが狩猟銃を放った。

 その狩猟銃は先程の狩猟銃〔貯蓄のリリアン〕から後方のタンクを取ったような小柄な形をしていた。

 狩猟銃〔散財のヴィアンカ〕から放たれた銃弾はまるでお金を投げ捨てるように五つに拡散し、リュリューシュを強襲していた。

 倒れるリュリューシュを僕は【回転戻球(ヨーヨー)】で追撃。牛の頬を強打すると、同時に樹木から飛び降りたディオレスが慣性を上手く利用し、鮫肌剣〔子守唄はギザギザバード〕の完成された剣舞を振るう。

「死ね、死ね、死ね! 【強突風(ゲイルガスト)】」 

 攻撃魔法階級3【強突風(ゲイルガスト)】が慣性に従うディオレスを横薙ぎに払い、ディオレスが後方の樹木に激突。受身を取り、着地したディオレスが血反吐の交じる唾を吐く。

「これだから超高速詠唱の改造(チート)はちぃとばかし困るんだよな」

 だが、対処法は知っているそう言わんばかりの眼光。ディオレスの傷は軽い、僕がそう確認した途端、僕の胴体を何かが襲った。

 蹄だった。体勢を立て直したリュリューシュが馬の蹄で蹴飛ばしてきたのだ。くそ、油断していたっ! 腹部に痛み。きっとあばら骨が何本か折れたに違いない。回復したいがそれどころじゃない。

 転がるように再び残っていた茂みへと隠れる。視界が赤い。誰も木々へと乗り移った炎を消そうとしないからか。

「ヒーロー。力を貸せ」

 茂みに隠れる僕にいつの間にか近づいたディオレスが囁く。

「何をするつもりですか?」

「まずはあのミノケンを倒す」

「ミノケン?」

「おうよ。ミノタウロスとケンタウロスを合せた獣化士だろ。だから略してミノケンだ」

 半牛半馬(ミノケロス)という通り名を無視してそう呼ばれるリュリューシュが少し可哀想に思えてきた。

「それより、魔道士のほうが厄介じゃありませんか?」

「あいつの対処法は簡単すぎる。だからまずはいいとこ取りなミノケンからだ」

 その後、僕がすべきことを囁くとディオレスは茂みから身を乗り出し、オンリーロンリーへと向かっていく。リュリューシュを倒すはずなのにオンリーロンリーに向かっていくのは一見理解できないかもしれないが、作戦を聞いた僕はオンリーロンリーへと向かっていくディオレスの意図をきちんと理解していた。

 ディオレスはオンリーロンリーを狩猟銃〔散財のヴィアンカ〕で狙い撃つ。広範囲へと拡散する弾を当然のように避けるオンリーロンリー。しかし5つへと分散した弾のひとつがオンリーロンリーの足を抉った。悲鳴をこらえつつ、オンリーロンリーが法則無視の超高速詠唱。

「死ね、死ね! 【突雷(ブリッツシュラーク)】」

 貫くような一筋の雷が、ディオレスを襲うも、魔法詠唱を読みきっていたディオレスは既に回避している。

 燃える草原を走る四足獣の足音。

 ディオレスの回避した先めがけて猛進してきたのはリュリュ-シュ。戦斧剣〔狂い咲きバーナード〕を振り下ろし、ディオレスを切断しようとする。

 しかしディオレスは偽剣〔狩場始祖エクス〕の板状の切れぬ刃によってリュリューシュの太刀を止めていた。リュリューシュを確認せず、その足音と気配のみで太刀筋を読んだ技量はランク5だからこそかもしれない。しかも力のみで戦斧剣を押し返した。

 追撃で放った狩猟銃〔散財のヴィアンカ〕の散弾がリュリューシュの牛腹に炸裂。しかし痛みを堪えた、あるいは改造で痛みをかき消している、リュリューシュは怯んでいない。

 再度、戦斧剣〔狂い咲きバーナード〕を振るうリュリューシュ。

「死ね、死ね! 【突雷(ブリッツシュラーク)】」

 同時に、オンリーロンリーの【突雷(ブリッツシュラーク)】が来襲。

 ディオレスに雷撃が当たるその瞬間、ディオレスとリュリューシュの場所が入れ替わる。戦斧剣〔狂い咲きバーナード〕は空を切り、そしてオンリーロンリーが発動した【突雷(ブリッツシュラーク)】がディオレスと入れ替わったリュリューシュを貫く。

「ああああああああっ!」

 リュリューシュの絶叫。同時にリュリューシュの視野が暗転。

 【突雷(ブリッツシュラーク)】がリュリューシュに当たると確信していたディオレスが繰り出した鮫肌剣〔子守唄はギザギザバード〕の必殺の一撃が、ミノタウロスの上半身とケンタウロスの下半身を見事に二分した。

 血を一瞬で蒸発させた二匹で一人の獣化士の黒こげ死体ができあがる。

 そうなってしまった答えは簡単、僕がふたつの【転移球(テレポーター)】を用いて、ふたりを入れ換えたのだ。正確にはあたかもふたりが入れ換わったと見えるように【転移球(テレポーター)】を投げたのだが。

「よくもリュリューシュをっ!」

 拳を震わせ、オンリーロンリーが叫んでいた。

「なあに、化け物に慈悲を与えてやったまでだ。次はてめぇの番だぞ、なまくら」

「死ね! 死ね!死ね! 死ね! 【雷音(ライオレアオン)】」

 怒りに任せて作り出されたのは攻撃魔法階級4の【雷音(ライオレアオン)】が爆ぜ、飛び交う雷の火花が僕達へと襲いかかる。

 ディオレスは偽剣〔狩場始祖エクス〕を地面に突き刺し仁王立ち。僕はディオレスの背後に隠れる。直後、偽剣〔狩場始祖エクス〕へと雷の火花のひとつが激突。

 偽剣とはその名の通り、剣ではない。形状こそ、剣だが切れ味はなく、もしも攻撃手段として用いた場合、叩き潰すのが正しい使い方だろう。その正体は剣を模した強固な盾だった。

 【雷音(ライオレアオン)】の一撃を受けてもびくともしない偽剣〔狩場始祖エクス〕に驚きを隠せないオンリーロンリー。

「何をそんなに驚いてやがる。魔法階級=強さではないのは、魔法における基本中の基本だぞ。そんなことも知らないのかよ。【雷音(ライオレアオン)】は乱戦向きの魔法だ。範囲は広いが一発の威力は低い。だから静止していたほうが当たる可能性も低く対処もしやすい。少数にだったら今までのように【突雷(ブリッツシュラーク)】のほうが魔力消費、威力ともに効率がいいぜ」

「敵にお説教とは随分とお人好しだな」

「ああそうさ。お人好しと呼ばれるのが趣味だからな」

「ふざけたこと言いやがって。調子に乗っていられるのも今のうちだ」

「それ、ザコがほざくセリフ第一位だぞ。たぶんだけどな」

 ディオレスが駆け出す。

「死ね、死ね!――【(ブリッツ)……」

 しかしそれ以上先が続かない。ディオレスがオンリーロンリーの口を手で封じていた。

「いくら超高速詠唱といえども、紡ぐことができなければ意味がない。力量が歴然ならこんな荒業でいとも容易く回避できるんだよ」

 しかしオンリーロンリーは笑みを零す。

「死ね、死ね! 【突雷(ブリッツシュラーク)】」

 どこからか、オンリーロンリーとまったく同じ声が紡がれ、そして黒銀の悪魔樹杖〔笑うムシュハハ〕から【突雷(ブリッツシュラーク)】が発動。ディオレスの胸を貫いた。


 ***


「貫け、レヴェンティ!」

 アリーが叫び、魔充剣に魔法が宿る。宿らせた魔法は攻撃魔法階級4【氷長柱(ギアッチョーロ)】。氷の柱がレヴェンティに取りつき、刀身の長さを倍増させる。

「はああああああああああっ!」

 気合とともにアリーがバハの右腕と右上腕を切断。いとも容易く斬れた腕を見て、むしろ警戒を強めるアリー。しかしその判断はわずかに遅い。セイダーの放った矢がアリーの左わき腹へと突き刺さる。同時にバハの右腕と右上腕を囮としたセイダーの強襲にアリーは疑問を抱く。

 なにせ、アリーが負傷したのはわき腹のみだが、あちらは右腕と右上腕を犠牲にしている。どうみてもあちらの犠牲のほうが大きい。そう考えるアリーを尻目に、バハの腕が生えてくる。それがいともたやすく腕を囮にした理由だった。

「ヒャハ……! 伊達に百腕の主(ヘカトンケイル)を名乗ってないんだよ」

 四本の腕しかないバハが百腕の主(ヘカトンケイル)を名乗るその理由がアリーには若干ながら分かった気がした。

 推測でしかないが、その四本の腕は各二十四回ずつ、もしくは合せて九十六回再生するのだろう。顕現できるのは四本までだが、実質は百本の腕を持っているのとも言える。

「多数の腕に超遠距離の組み合わせとは難儀でござるな」

「厄介とは言わないのね」

「ランク昇進の試練と比べれば厄介さなどないでござる」

「ということは弓士の居場所が分かったのね?」

「先程の攻撃はインパクトを与えるだけの諸刃の剣。低ランクなら動揺を呼べたのかもしれないでござるが……拙者たちには無意味でござる。むしろ、場所の特定ができただけ、こちらが有利でござるな」

 コジロウがバハへと疾走。忍者刀〔仇討ちムサシ〕によって、左腕を切り裂き、背後へと疾走。途端、コジロウの予測地点とは違う場所からセイダーの矢が襲来する。

「やはり、場所を移動していたでござるか……」

 コジロウはわずかに身をそらすだけで回避。それすらコジロウの予測範囲内だった。

 予測したのは三ヶ所。

 【影分身(オルター・エゴ)】によって二体の分身を作り出したコジロウは予測する三ヶ所へと飛散する。コジロウの飛散をバハが防げなかったのはアリーが解放した【氷長柱(ギアッチョーロ)】がバハの残りの三つの腕を貫き、そんな暇がなかったからだ。

「おのれっ!」

 すぐさま、再生した四つ腕が、音律を刻むようにアリーに襲いかかる。しかし四つの蛇腹剣はアリーに当たることすらない。アリーはその全てを避けていた。アリーは蛇腹剣を避けながら、その軌道を全て暗記していた。

「あんた、物操士だったわね?」

 手配書で確認済みだからそれは間違いないのだが、アリーはその事実を本人に問いかける。その言葉にバハは卑屈な笑みを見せる。

「私はてっきりあんたの腕が他の冒険者の腕を利用していると思ったけど、違うみたいね。あんたの四つの腕は、作り物でしょ。“物”である以上、四つ同時に操るなんてあんたには容易いわよね?」

 物操士は物を操ることのできる職業だ。【鉄巨人(メタルゴーレム)】なども操ることができるが、アリーの見立てではバハは習得してないと判断。

「……なぜ、分かった?」

「四つの腕を振るうパターンが同じなのよ。規則的にしか動かせないのはあんたが物操士として未熟な証拠ね。ま、私もまだまだ未熟だけど……あんたみたいに非行に走ったりなんかしないわ」

「知ったような口を聞くなよ、ドブス」

 見破られたことをごまかすようにバハはアリーへと毒づく。

「誰が、ドブスよ。ドチビが!」

 アリーが口撃し返す。アリーですら見下せるほどの背丈のバハは、気にしていることを指摘され、激昂する。

「さて、種明かしも済んだことだし、さっさと死んでよ。タネがばれた敵なんて誰も彼も興味なんてないのよ」

 アリーがレヴェンティを構え、突撃する。

 音律が等しく一緒の蛇腹剣は一度見破れば避けるのは容易い。が突如その音律が変わり、同時に蛇腹剣の動きも変化する。

「そんなの予測済みよっ!」

 蛇腹剣が一定のパターンで動いていると分かった時から、タネがばれれば動きを変えるだろうとアリーは予測していた。だからこそ、蛇腹剣が胸を掠めた程度では揺るがない。

「これすらも予測済みだとっ!?」

 舌を打ちバハは悔しがる。またも音律を変え、蛇腹剣の動きを変える。

 しかしその頃には既にアリーのレヴェンティの切っ先が、バハの腹を抉っていた。

「吹き荒べ、レヴェンティ」

 アリーの突き刺したレヴェンティに宿っていた攻撃魔法階級4【風膨(バルーン)】がバハの腹に空洞を広げ、

「これでお別れよ!」

 さらに解放した【風膨(バルーン)】がバハの柔らかい肌を無残にも拡散させる。

 血と肉の雨に打たれると分かりながらもアリーはそこに佇んでいた。


 ***


 コジロウの分身が、カイザーを見つける。

 分身だとは分かっていないカイザーは慌てて樹から飛び降り、逃げ出す。超遠距離特化のカイザーに近距離攻撃の手段はないのだ。

 コジロウの分身が、忍者刀〔仇討ちムサシ〕でカイザーを威嚇。忍者刀〔仇討ちムサシ〕ですら【影分身(オルター・エゴ)】は分身させる。

 カイザーが必死でそれを避け、辺りを見回すことなく茂みへと逃げ出す。

「無駄でござるよ」

 カイザーを見つけたコジロウが逃げ場を塞ぐ。カイザーは三つの目を持っていた。左右の目と額にある目、その三つの目でを用いて超遠距離攻撃の精度をあげていたのだろう。

「なんで? 回り込むには速すぎる!」

 カイザーが疑問に思う。

「これが分身だとは推測できぬでござるか?」

「ああ、そうか……だとしたら僕を追ってきたのは……」

 強さを早急に求めすぎたカイザーは、知識と経験に欠けていた。

「それに今気づいた時点で終わりでござるよ」

 ストン、と呆気なくカイザーの首が落ちる。


 ***


「ふぅ、あっぶねぇ……」

 ディオレスが呟く。服が破れ、少し焦げ目があるが、その程度の怪我だった。僕が瞬時に【転移球(テレポーター)】を投げたおかげでその程度で済んだのだ。

「ちっ、やったと思ったんだが……」

 オンリーロンリーの首にある二つ目の口が喋る。

「なるほど、東方の空中庭園に伝わる二口女みたいなものか……」

「「まあそんなところ」」

 前後の口が同時に声を発し、

「普段は閉じてるからただの痣にしか見えないけどな」

 前の口がさらにそう続けた。

「どうよ。これが俺の能力だ」

「超高速詠唱に同時詠唱ね。実にくだらない発想だ」

 ディオレスが哀しそうに呟き、走り出す。

「そんな簡単に力を手に入れて何になるっ!」

「黙れ!」

 オンリーロンリーが叫び、

「「死ね、死ね! 【突雷(ブリッツシュラーク)】」」

 二つの貫く雷光がディオレスへと襲来。ディオレスはうろたえることもなく、偽剣〔狩場始祖エクス〕を地面に突き刺す。それが避雷針の代わりとなり、【突雷(ブリッツシュラーク)】を防いだ。ディオレスはそのまま偽剣を踏み台にして跳躍。

「同時に詠唱できても、防がれたら意味がねぇんだよ」

 オンリーロンリーの頭上へ跳躍したディオレスが鮫肌剣〔子守唄はギザギザバード〕を振り下ろす。

「「死ね! 【弱炎(ボイル)】」」

 接近する暇を与えぬように、最短詠唱で対抗するオンリーロンリー。爆炎がディオレスを包むが、ディオレスはそのまま、オンリーロンリーに向かっていた。

「お前の魔法は弱いんだよ」

 超高速詠唱を求めるあまり、要素定義すらしないオンリーロンリーの魔法は、単に言えば荒い。そんな荒さの目立つ魔法は正当な手段を用いた魔法と比べれば不純物が多く、威力も低い。魔法は世界に4つの要素を集めることを訴えかけ、力を貸してもらうようなものだ。その訴えこそが魔法の詠唱。そのなかにどれをいくら借りたいか、を織り込まず、勝手に、不躾にそれを使うような人間に、世界は力など貸してはくれない。

 【弱炎(ボイル)】を受けたディオレスは多少の火傷を負ったが軽傷程度。ディオレスにはまったく問題がない威力だ。

 鮫肌剣がオンリーロンリーの頭へと突き刺さり、そのまま削り取る。オンリーロンリーは不穏な笑みを零し、死んでいった。

「ヒーロー、大丈夫」

 アリーが僕に近寄る。

「なんとか……。それよりもアリー、血まみれだよ」

「大丈夫よ」

 そうは言うもののいい気分はしない。余計なお世話かもしれないが、僕は【清浄球(フロウラー)】を【造型(メイキング)】し、アリーに放つ。瞬時にアリーへとまとわりついていた血が洗い流された。

「ありがと」

「おいおい、いい雰囲気のところアレだが、俺へと心配とか俺の治療とかはなしかよ」

「あんたの心配はしてないわよ」

「マジか……」

 ディオレスはちょっとだけ残念そうな顔をした。

「そういえばコジロウは?」

「もうすぐ戻ってくると思うから、とっとと帰りましょ」

 身を翻し、アリーは飛行艇へと戻ろうとするが……

「待て」

 違和を感じ取ったディオレスがアリーを止める。

「何よ?」

「嫌な予感がする」

 その言葉を発した途端、それは現れた。

「おいおい……あいつらそんな改造までしてやがったのか……」

 ディオレスは哀しそうに呟いた。

 三つの動かぬはずの死体が、引き寄せられるようにオンリーロンリーの死体へと集まっていき、それはできあがる。

 リュリューシュの下半身から生えるのは異形の身体。片腕しかないミノタウロスの上半身がくっついた腕と頭のないバハの身体だ。その体にカイザーの顔が張りつき、裂けた口から長弓〔激昂するゲッコー〕が見える。さらに唯一残された片腕には戦斧剣〔狂い咲きバーナード〕が握られている。

 一方、ミノタウロスのなくなったはずの片腕にはリュリューシュの顔が生え、その下腹部にバハの4つ腕、それぞれが蛇腹剣〔百足足のギンジ〕、〔千鳥足のガンジ〕、〔蛇足のグンジ〕、〔力不足のゲンジ〕を握っていた。ケンタウロスの尾が切り落とされた腕と融合し、黒銀の悪魔樹杖〔笑うムシュハハ〕を握り締めている。おそらくその腕はオンリーロンリーの腕だろう。リュリューシュの後頭部を見ればオンリーロンリーの二つの口と目だけが浮かび上がっていた。

「「「「「キ、ハハハハハハハハ」」」」」

 五つの口から奇声が発せられ、彼らは再生した。

 四人の目は虚ろで、焦点が定まっていなかった。この姿はまるで、彼らが望んでなった姿ではないかのように。

「奴ら、半端な復活改造(チート)をしてやがったのか……」

 ディオレスがその異形を見て叫んだ。

「くそったれども。そんな改造(チート)じゃ、強くもなれないし、何も救えねぇーんだよ」

 ディオレスは悲しみながら、四人にしてひとりに駆ける。

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