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tenth  作者: 大友 鎬
第7章 放浪の旅
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空中庭園編-8 初日

「アニキの予想が当たったでヤンスね……」

 禽取の宿屋でコエンマが不安そうに呟いた。

 192人。その数は多い。

 僕たちの実力を噂でしか知らないコエンマは僕たち以上に不安だろう。

「まあ、なんとかしてみるよ」

 と言いながら僕は空中庭園で待機していた。

 それが果たし状のルールでもある。出した人間は行われるまで空中庭園から出ることが禁止される。

 なので、ヴィヴィたちに頼んで大陸に戻ってもらい、仲間を募集してもらっている。

 レッドガンやモッコスも知り合いに会ってくると言っていた。仲間が集まるのは嬉しいけれど、叫んだり筋肉見せたりするのが増えたりしないだろうか、という不安もある。

 はてさて、どのくらい集まってくれるのか。

 ココアを飲みながら僕は待つことにした。


 ***


 一日目。

「久しぶりじゃん」

 その語尾だけで、誰なのか分かった。

「私は行きたくないって言ったんだけどね」

 ジネーゼとリーネだった。朝一に来たので正直びっくりする。僕がココアを飲んでいることに気づいて、ジネーゼが即座に注文。リーネは水を注文して席に座る。

「ランク5にはなったの?」

「レシュが島を去った後になったじゃん」

「それはおめでとう」

 ジネーゼにレシュと呼ばれたのは初めてなような気がした。

 いや、もしかしたら呼ばれていたのかもしれないけれど、僕が意識できないレベルで、であってこうして僕が気づけたということはそれだけわだかまりがあったということだろうか。

 面識もなく、最初はリアンを助けるかたちで敵対していたから、ってのもあるかもしれない。

 僕は嬉しくなって笑った。


 ***


 「久しぶりだな」

 次に来たのは……知らない人だった。久しぶりとはどういうことだろうか。

「親分。もしかして知り合いじゃないんじゃないですかぁ~」

 頬っぺたに花丸マークがついた男が、僕に久しぶりと言った男にそう問いかけていた。

「お前……新人の宴で蜘蛛巣球で俺を邪魔したじゃないか。そういう仲だろう、俺達は」

 ……記憶にございません。

 いや待てよ、待て。うっすらと思い出してきた。

 リアンのエーテルを取り返しに行く前にそんなことがあった気がする。

「なんか思い出してきた」

「だろ。だろ? 感謝しろ!」

「親分。本当に知り合いだったんですねぇ~。マジりすぺくと!」

 けど、名前が思いだせない。花丸マークが名前を言ってくれるという展開を期待したけれどそれもなさそうだ。

「うわ、ベベジーじゃん」

 名前を思い出そうとするさなか、ベストタイミングで雅京を見学し終えたジネーゼが戻ってくる。

 ああ、そうか。思い出したベベジーだ。

 新人の宴以外で出会ったことすらないから、そりゃ分からないわけだ。

 それ以外に何も分からない。実力も何もかも。

 今後に期待……していいのかな?

「来てくれてうれしいよ、ベベジー」

「おう。任せとけ。俺と子分のクルパーが存分に活躍してやる」

「親分の子分、クルパー・ククルパーです。親分ともどもマジ世話になります」


 ***


 ベベジーとクルパーが去っていくと

「あいつ、たぶんキミが活躍してるっていうのを知ってるから媚を売りにきたんだよ」

 暇を持て余したリーネがそんなことを言い出した。

「あ、やっぱり?」

 そんなことだろうとは思っていた。

 有名になったり金持ちになった瞬間、数年ぶりに友人どころか知人、普段は挨拶しない隣人が突然挨拶してくるようになったという噂話があるけれど、それと同じなのだろう。

「でもまあ、手伝ってくれるっていうならなんでもいいよ」

 僕は言って待機を続ける。

 リーネと違ってジネーゼは好奇心が旺盛で、というか毒の研究者がいると知って、加護島という区画へ去っていった。

「というか、ソレ……飽きない?」

 リーネが僕の飲んでいる7杯目のココアを指して呆れる。

「全然? むしろ飽きるとかおかしくない?」

 そんなことを言ったらリーネは再度呆れた。

 そこに

「ガハハハ、戻ってきたぞ!」

「バーニィィィィング!」

 うるさいふたりが戻ってきた。

 モッコスとレッドガンだ。

 モッコスは仲間とともに筋肉を見せつけるようにポージングして、レッドガンもその横で仲間とともに格好をつけたポーズをしていた。

 筋肉バカふたりが張り合っている、そんなふうにも見えなくない。

「何、こいつら。暑苦しいというかウザイんだけど」

「一応、先頭のバカふたりは今冒険してる仲間だよ」

「よく組もうと思ったね」

「まあ……強さは保証するよ。ってか、モッコスもレッドガンももうそれはいいよ」

 そういう忠告をするのはヴィヴィやアルルカあたりに任せていたけど、いざ自分が忠告するとなると面倒くさい。

 このふたりに限っては。

 いや、よくよく考えるとアクジロウやシッタ、アエイウとか面倒くさいやつらはたくさんいた。特にアクジロウとか。

 それぞれ、ジョバンニやフィスレ、ミキヨシと注意してくれる人はいるけれど……いないときを考えるとしわ寄せが来るような気がする。

「ワシが連れてきたのは元・同胞。マッスル隊ですぢゃ!」

 モッコスが紹介すると、

「「「「我ら、マッスル隊!」」」」

 とポージングした。

 僕たちが唖然とするなか、

「ナカソェエエエネ!」

「マッイ・ケイルッ!!」

「ファッション!!」

「ベイィィィィィイイ!」

 と自己紹介しながら続々とポージングを変えていく。

「そういうのいいから……」

 唖然としている場合じゃなかった。

 放っておくととんでもないことになる。

 酒場にいたほかの客も唖然として、ただ酒場の店員のひとりが筋肉フェチなのか顔を真っ赤にして鼻血をたらしていた。

 カオスだった。表現としてどうかと思うけどカオスだった。

 しかもそんななかレッドガンとその仲間は格好ポーズのまま微動だにしていない。

 それがカオスさをより一層引き立てていた。

「レッドガンももういいよ、それ」

「バァアアアアアニング!」

 そんなわけにはいくか、と言わんばかりにレッドガンは叫び、


 何も起きなかった。


 モッコスに対抗してみたけれど、特に何も用意していなかった。

 そんなところだろうか。

「えー、じゃあ……リーダーに代わって僕が……代表で挨拶しますね」

 少し貧血気味のやせぎすの男がポーズを解いて、僕に話しかけてくる。

「ぼくの名前はグリングリン・ウインドー。一応……リーダーの従弟に当たります。まあ、なんだっていいですけど……ええと……それで……」

 ポーズを解いた途端、好き勝手動き出したメンバーをブルーメンは探し、

「リーダーにもたれかかっているのがピンクチェリー・ブレイン。リーダーにゾッコンってやつで……ああ、羨ま……ゴホン、ええとそれで……」

「華麗なるカレーを頼む!」

「今……カレーを頼んだのはイエロウ・カリィです。ええとあとは……あそこの椅子に座っているのがブルーメン・フリージング。彼もぼくやリーダーの従兄弟にあたります」

 全身、青い衣装に身を包んだ男は目を瞑り、静かに座っている。

「ああ、見えて……冷血非道なんです。ぼくなんて小さい頃から何度も爪を剥がされています……」

 グリングリンはそんなことを言って、身を震わせ、「ああ、長時間立っていたから立ちくらみが……」と椅子をみっつ組み合わせて横になった。

 赤衣装の熱血レッドガン、青衣装の冷血ブルーメン、桃衣装の淫乱ピンクチェリーに、緑衣装の貧血グリングリン、黄衣装のカレー好きイエロウ。

 カレー好き以外は一癖も二癖もありそうで頼りがいもありそうだけれど、不安も多い。

 ジャララン……。

 僕の不安を増長するように何かの雑誌のような音が鳴った。

 今度はなんなんだろう?

 僕が酒場の入口を見ると、

 杖を逆さで両手に持った男がいた。

 杖頭をへそあたりで支え、柄を肩あたりで持っている。

 その杖には杖頭から柄まで6本の糸が伸びていた。

 杖頭を支えている手で、男はその糸をかき鳴らす。

 ジャラララン……♪

 また音がした。

「お前がレシュリー・ライヴだな。ライヴ……生きる……俺も、生きる! エブリバディイイイ! ワンダフォォオオオ! ロック、じゃあないかッ!」

 そうして男は糸をかき鳴らす。

「俺の超★ロックな名前はジョー・ゴンダワラ! お前の仲間になりにきた、ZE★ ロック、だろうぅ?」

 ワイルドだとでも言いたげにジョージは登場した。

 とんだ色物だ。

「そして紹介しよう、こいつは俺の超★ロックなAIBOU! 星白銀の岩巻樹杖〔情熱の歌い手ロック・ザ・スター〕だ、ZE★ ヨ・ロ・シ・ク! WHOOOOOOOOOOOOOOOO!」

 言って、着物に妙に似合っていた星飾鍔広尖帽スター・テンガロンハットを投げ飛ばし、激しい音楽をかき鳴らす。

 レッドガンやマッスル隊、いつの間にか戻ってきていたベベジーとクルパーが激しく熱い演奏にノって踊り出す。

「キミは踊らないの?」

「何の冗談……? 殺されたいの?」

 リーネは本当に射殺しそうな視線を送ってきた。

 冗談でも言わなきゃよかったと後悔しながら視線を逸らす。


 ***


「兄ちゃん……どうするでありますか? 入るタイミングを逃したであります……」

「落ち着くであります、二番目の弟……、でも本当にどうするでありますか……」

「あんちゃん、頼りなさすぎであります。フツーに入ればいいのであります」

「待つのであります、一番目の弟。こういうのは礼節が大事だって……アロンドおじさんも、それにばあちゃんも言っていたでありますよ」

 ミチガ、ヨミガ、ヒックリカのエル三兄弟はジョーの登場に萎縮し、その後、盛り上がった場に入るタイミングを見失ったため、酒場の前で涙目になっていた。

 いや、涙目になっていたのはミチガとヨミガだけで、ヒックリカはあっけらかんとして、さっさと入ろうとしていた。

 それでもミチガがとめるので、入らずにいたが。

 でもそれならいつ入るのか。今でしょ、と言いたげに困り果てたヒックリカは兄に尋ねた。

「待つって言ってもありますよ、あんちゃん。いつまで待てばいいのでありますか? 明日、アロンドおじさんが来るまで待機しとくとか言わないでありますよね?」

「それは……ぐぬぬ……そう言いたいであります」

「あんちゃん……」

「兄ちゃん……」

「どうしたじゃんか?」

 そんなエル三兄弟に女神が舞い降りた。

 それはジネーゼだった。毒研究の成果を持ち帰っていたのでその風貌は女神というより邪神に近いかもしれない。

「ひっ……」

 と一番弱虫のヨミガは恐れたが、

「なんか入るタイミングを逃したであります」

 物怖じしないヒックリカはそう答えた。

 ジネーゼと三兄弟は初対面ではないし、久しぶりにあった仲ではない。

 そもそもジネーゼたちの準決勝の相手が彼ら三兄弟だったから親睦はレシュリーたちよりも深い。

「確かになんか入りにくい雰囲気ではあるじゃん……でも、まあフツーに入っていけばいいじゃん」

「ほら、あんちゃん。自分の言ったとおりであります」

 そう言ってヒックリカが入るものだから、ミチガもその後を恐れながら続いた。ヨミガに至っては兄の袖を掴んで離さなかった。


 ***


 エル三兄弟以降、その日は誰も来なかった。

 モココル、エウレカ姉妹、ヴィヴィは戻ってこなかったこともあり、レシュリーは明日こそは、と期待した。

 一日目にレシュリーのもとに募ったは、ジネーゼ、リーネ、ベベジーとその子分クルパー。

 マッスル隊の4人――ナカソネ、マイ、ファッションにアン、そしれレッドガンの仲間4人、グリングリン、ピンクチェリー、イエロウ、ブルーメン。そしてロックな男、ジョーにエル三兄弟――ミチガ、ヨミガ、ヒックリカだった。

 それに帰還したレッドガンとモッコス、レシュリー自身を加えて19人。ジェニファーも加えれば20人か。

 まだまだ足りない。

 レシュリーは、それでも、と二日目に期待を込めて眠った。

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