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tenth  作者: 大友 鎬
第7章 放浪の旅
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空中庭園編-3 奇縁


 3


 ガシャン、ガシャンとジェニファーが歩くたび、音がした。

 機人がいるのが珍しいのだろう、通り過ぎる人々の奇異の視線が突き刺さる。

 ルルルカたちよりも早く朝食を食べ終えた僕とヴィヴィはジェニファーとともにユグドラ・シィルの表通りを歩く。

 武具を作る鍛冶屋が多いせいか、それに比例して武器屋の数が多い。

 それだけ武器の品揃えが多いのだけれど、今の主流は通販で島にいたときも【念談話】、【念波】が込められた掲示板型装置で武器のやりとりをしていた。

 その時は自分の使う武器だけを抽出して閲覧していたけれどこうして雑多に並べられたもののなかから武器を見つけるのはなんというか……ワクワクした。

 自分が装備できないものでも見ていて面白いし、自分が使っている棒系武器の違う形状もある。

 僕が使う鷹嘴鎚は鷹の嘴をしているけれど、それも鍛冶屋によって違う。

 全員の個性が出ているのだ。

 ふと気になって、僕は自分の鷹嘴鎚〔白熱せしヴァーレンタイト〕が誰によって作られたのか確認してみた。

 だいたいの武器の柄には鍛冶屋の名前がある。

「あっ……!」

「どうかしたのか?」

「いや、僕の武器は誰が作ったんだろう、って気になってみてみたんだ」

「知っている人だったのか?」

「ジョバンニさんだった」

「……それは奇縁だね。私も調べてみようかな」

 言ってヴィヴィも鉄杖〔慈悲深くレヴィーヂ〕を確認する。杖の場合は中間あたりに刻んである。

「……私はバルバトスさんだ」

「もしかして島に通販している武器は全部バルバトスさんの工房で作られたものなのかな? ジョバンニさんもバルバトスさんの弟子のはずだし」

「そういうわけではないと思うが……バルバトスさんは有名な刀匠なのだろう? 流通しているものが多いのではないかな?」

「なるほど。一理あるね」

「それよりもジェニファーの武器を探そう。にしても機人は何を装備できるんだ? そもそもジョバンニさんの特注で、本来の機人は戦闘用に作られてないんだろう?」

「β時代はいた、って文献を島で見たことあるけど……今じゃ、珍しいよね……ジェニファーは戦闘する場合、どう戦うんだろう?」

「ワタシハナンダッテデキマス」

「どんな武器でも扱えるってこと?」

「ソノトオリデス」

「そうなると……どうしようか?」

「私に聞かれても、な」

「ジェニファーはどんな武器を使いたいんだ?」

「ワタシハ……ワカリマセン。ハンベツフノウデス」

「そういう判断はできないのか? これは困ったね」

「ハンダンデキナイトモンダイアルノデショウカ? ワタシニハワカリマセン」

「いや、どうなんだろうね。でも自己判断できないといつか困るときが来るかもしれない」

「ナルホド。シカシ、ソノヨウナキノウハワタシニハナイヨウニオモエマス」

 無感情でジェニファーは言う。機人の基本設計が主人の言うことを聞く、だから自分で判断するようにはできてないのだろう。

 それは少しだけ哀しく思えた。

「とにかくジェニファーの武器を選ぶことにしよう。こだわりはないんだよね?」

「エエ……デスガ、ビビッ! トキタモノハアリマス」

「どれ?」

「コレデス」

 それは一際大きな槍だった。

「おお、嬢ちゃんそれに目をつけるのかい?」

 店番をしていたその槍を作ったであろう鍛冶屋が声をかける。

 メタル質な声と肌に一瞬驚きながらも、それを失礼だと思ったのだろう、顎鬚をわざとらしく触って

「それは俺の久しぶりの傑作――取外式巨大槍(ンギンドザ)!」

 そう言って鍛冶屋は槍のソケットによって結合されていた穂先と柄の部分を二つに分ける。

 穂先の長さは柄の長さと同じ、その穂先はまるで棍棒のようにも見える。棍棒の柄の部分がその槍の穂先にあたるようなイメージだろうか。

「その名も――」

 僕はその名前を聞いて、思わず動揺する。

「レシュ、大丈夫か? 今の名前は……」

「うん、大丈夫。ジェニファーが選んだのも何かのめぐり合わせだろう」

「ドウカシマシタカ?」

「ううん。ジェニファーはその武器が気に入ったんだね?」

「ハイ。キニイッタトイウノハヨクワカリマセンガ、ビビッ! トキマシタ!」

「それが気に入ったっていうんだよ」

 僕は無理をして笑った。

「リョウカイシマシタ。ソレヨリモサキホドカラシンパクスウガジョウショウシテオリマスガ、ナニカアリマシタカ?」

「気にしなくていい。それよりも気に入ったなら、それを買おう」

「毎度あり!」

 鍛冶屋が笑顔で武器を渡してくる。

 ジェニファーはそれを受け取ると背中に背負った。

 冒険者ではないジェニファーは【収納】を使うことができない。あれは冒険者の特権に近い。

 そういう意味では取り外せるそれを選択したのはベストと言わざるをえない。

 けれど僕の動揺は収まりそうもない。

 僕の胸中に蠢く後悔が喉元まで迫り、吐き気を催す。

 それでもジェニファーがそれを選ぶなら僕はそれを受け入れたいと思った。

 その槍の名前は取外式巨大槍〔悲運のリゾネット〕といった。

 それは僕が救えなかったリゾネットで間違いないだろう。

 今まで考えもしなかったことだけれど、僕が殺した、もしくは救えなかった冒険者も武器として存在している。

 いや、アルがアネクの、アリーがディオレスの武器を持っているように、誰かが僕の関係した人物の武器を持っていることは考えられることだった。

 僕はどこかでそれを考えないようにしていたのだろう。

「その武器、大切にしなよ」

 僕はジェニファーが握る、それに微笑する。

 リゾネの第二の人生のスタートが幸運であるように願って。


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