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tenth  作者: 大友 鎬
第7章 放浪の旅
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空中庭園編-2 機人


 2


「壮観だね」

 真下に広がるアズガルド大陸を見て思わず呟く。

 僕たちは広大な空の上にいた。

 さっき完成したばかりのスキーズブラズニルに乗って。

 広大すぎて、今の高度でも一望できないけれどアズガルド大陸は龍の頭のような形をしている。

 ガニスタ岬が世界の牙と呼ばれているのはそれが由縁だった。

「ソレジャア、ドコニイキマスカ?」

 操舵するのはジョバンニが作り出した操舵用女形機人(プライロイド)――ジェニファー(JEN1-4A)だった。

「もちろん、空中庭園!」

「カシコマリマシタ」

 スキーズブラズニルが向きを変え、空中に浮く大陸へと向かっていく。


 ***


 僕がみんなに謝ってから一夜明けた早朝。

 誰よりも早く起きた僕は、僕の目覚めを見計らったかのように隣の部屋から出てきたヴィヴィとともに朝食を摂っていた。

 ヴィヴィと僕の目の前には薬草粥とココアが置かれていた。

「しかし、キミのセンスはやはり分からないよ」

 薬草粥を食べながら、ヴィヴィが言う。

「なんのこと?」

「いや、私は注文の前、キミの嗜好に染まってしまったと言っただろう?」

「確かに言ったね。何のことか最初は分からなかったけれど」

「まあ、確かに私も伝え方を失敗したと思ったが……あれは私なりのアピールのつもりだったわけなんだが……」

 あれがヴィヴィのアピールだったのだと気づいて、僕は言葉を失う。

 少しだけ申し訳ない気持ちになった。

 気づけなかった、ことよりもその気持ちにいつまでも応えれないことに。

 ヴィヴィはそれでも、僕のことがこんなにも好きだとアピールするつもりなのだ。

 だから、僕が欠かさずココアを注文していることに気づいて、僕の嗜好に合わせてみたのだろう。

「そんなに固まらないでくれ。もうこのアピールはしない。なにせ、キミと同じようにココアを飲み物に料理を食べても口に合わない」

 だから僕のセンスが分からないか。……失礼な。ココアは難にでも合う万能飲料なのに。

「今も、薬草粥の香味と苦味が入り混じった口の中にココアの甘ったるいクリームのような味が混在して、複雑かつ凶悪な威力になっているよ。正直、どちらかを残したい気分だよ」

 ヴィヴィが苦笑する。

 僕もヴィヴィの正直な告白に苦笑いする。ココアの評価を害された気分はどこかに消えていた。

「なら、簡単な解決方法がある」

 僕は言う。

「僕がヴィヴィのココアを貰うからヴィヴィは水を注文すればいい」

 僕はヴィヴィからココアを奪って、カップに口をつける。

「ほらこれで解決だ」

 ココアのクリームがひげのように口につき、ヴィヴィに笑顔を向ける。

「キミは恥じらいを知れ!」

 ヴィヴィは赤面して怒り出す。

「そ、それは間接キスというやつだぞ。しかも一方的な!」

 立ち上がったヴィヴィはよほど悔しかったのか僕のココアを奪う。けれど空だった。

 そうして、気の抜けたようにすとんと座り、

「すまない。取り乱した」

「いや、僕も無知すぎたよ」

 ヴィヴィが間接キスを気にするなど思ってもみなかった。

 アリーも気にすることなのだろうか。

「けれど、その……少しだけ気をつけてほしい」

 赤面しながら注意してくるヴィヴィは妙に可愛らしい。

「あ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!」

 しどろもどろになりかけている僕たちの耳を劈くのは、ルルルカの声。

「ペアルックなの、アベックなの! ずるいの!」

 僕とヴィヴィがまったく同じものを食べて談笑するのを見て、

「マスター、私も同じのなの!」

 薬草粥とココアを注文して、僕の隣に座る。

 料理は数分どころか数秒で出てくる。粥は保存が効くから残っていたのだろう。ココアにもさほど時間はかからない。

「……微妙だったの」

 薬草粥を食べたあとにココアを飲んだルルルカも、ヴィヴィと同じような感想を漏らす。

 万能飲料ココアと料理の相性が分からないなんて。

 僕は再び軽くショックを受けてしまう。

 落ち込む僕を見てヴィヴィが苦笑。

「微妙」と言いながらも、ルルルカはココアを片手に薬草粥を食べていく。

 アルルカにモココル、モッコスは隣のテーブルで香草パンと鹿山羊のミルクを注文していた。

 本来がっつり食べるモッコスでさえも手早く食べれるものなのは、ジョバンニが届ける飛空艇にすぐにでも乗り込みたいからだ。

「やあ、集まっているね」

 酒場の入口から聞こえてきた声に、心が躍る。

 ジョバンニの声だった。

 さらにジョバンニの後ろにはメタル質な肌をもつ女性がいた。いったい、誰だろう?

「飛空艇が完成したの?」

 逸る気持ちを抑え切れなかったのかアルルカが尋ねる。

 一応僕の船なのにも関わらず。

「ああ。この袋の中に入っている」

 そう言ってジョバンニが僕へと灰色の袋を渡す。

「覗き込んじゃダメだよ? 袋を開けた瞬間、飛空艇がじょじょに大きくなりながら空へと出現するからね。こんな屋根なんて平然と突き破るよ」

「ま、街中で開けたらパニックになりますね……」

「うん、だから【収納】で普段は閉まっておいたほうがいいかな」

 でね、とジョバンニは言葉を続ける。

「さっきからキミたちは僕の後ろの女性が気になっているよね?」

「それは、まあ……」

 気にならないと言ったら嘘になる。むしろジョバンニがここに来たときから気になっていた。

「彼女は……JEN1-4A。飛空艇や船などの操縦を担ってくれる操舵用女形機人(プライロイド)だよ」

 機人(ロイド)というは一部の操縦や動作に特化した機械だったはずだ。JEN1-4Aは垂幕羅紗服を着ている。

「ジェニファートオヨビクダサイ」

 電子音と言えばいいのだろうか、口が動き聞こえてきたのはそんな音で作られた声だった。

「彼女は市販のものと違って僕のお手製だから操縦だけじゃなく喋るし戦闘もできるよ」

「いつの間にそんなものを……」

 僕が驚いていると、

「飛空艇を作るときはこれも込みだよ。誰も操縦できないでしょ? 【器用操縦(マルチコントローラー)】なんて覚えている冒険者なんて今時珍しいよ。上級職じゃないとムリだしね」

「なるほど……確かに操縦者は盲点でした」

 そうなると、ディオレスの飛空艇にも機人がいたことになる。

「ということでジェニファーをよろしく。武器は持ってないから何か買ってあげてね」

 あとこれもあった。と思い出したようにジョバンニは僕へと小さな球体を渡す。金平糖のようなトゲトゲがついている。

「これは?」

「例のアレを分解したら、それになった。それにはおそらく分解前の効果があると見た。【合成】したりしたら……魔物を引き寄せる球とか作れるんじゃないかな?」

「それは面白そうですね……」

 思わず笑ってしまう。「それにしても何から何まで早いですね」

「言ったろ。僕は一日あればできるんだ。今後ともご贔屓に」

 ジョバンニは眠たげにそう言って、僕にジェニファーを預けて帰っていた。

「それじゃあ早速……飛空艇を呼ぶの!」

「姉さん、話を聞いてなかったんですね。ここで呼ぶと建物が壊れちゃいますよ」

「おいおい、やめてくれよ」

 馴染みになった酒場の主人が思わずぼやく。

「それはさすがに悪いから街の外れまで行こう」

 笑いが込みあがる。

「でもその前に朝食と、準備を忘れずにしよう。そのまま出発したいから。集合は街の外れにしよう」

 全員がうなづく。

「ジェニファーはひとまず僕についてきて。武器を買おう」

「リョウカイシマシタ」

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