空中庭園編-1 闘球
1
「さあ、闘球交流戦もいよいよクライマックスっ! 東西に分かれてでしか闘うことのなかった闘球専士たちが今年初めて出会い、激闘を繰り広げたこの戦いもいよいよクライマックちゅ! 大事なことだから二回言ったのに噛みましたがなんにしろクライマックス!」
司会者が燃えるように叫ぶ。
ここは争技場と呼ばれる闘球専用の闘技場。
闘球はここ、空中庭園で何度目かの世界改変後に流行り出した戦いで、
それまで剣と剣がぶつかり合い、死合を繰り返していた空中庭園の文化をひっくり返した。
いまや、空中庭園の人々は狂ったようにその戦いに熱中している。
「いよいよ選手の入場です。まさにオールスター! MVPにMVB、MCP、BCTに選ばれたそれぞれ48人、総勢192人が勢ぞろいです」
その宣言とともに、左右の扉から選手たちが入場してくる。
闘球は大人数で戦うチーム戦で最小9人、最大無制限の人数で戦い、闘球専士と呼ばれる特別職のみ、争技場で能力アップの恩恵が得られるという。
その恩恵を受けるべくすべての戦士たちは闘球専士へと転職する。
簡潔言えば闘球専士はこの争技場でのみ戦う戦士だった。
そして空中庭園の人々はこの戦いに熱中している。
この戦いを煽る人々は、彼らの人気を利用して、最も優れた専士たちをMVP48と持て囃す。
それだけで物足りなかったのか、MVB48にMCP48、BCT48と次々に褒章を与え、それらは熱意を加速させた。
その熱意は時に敵意と悪意を生みつけ、専士がより高い人気を得るために専士を殺したり、専士のスキャンダルを見つけて失墜させたりと、本分を忘れさせるような闇の部分を生み出した。
けれど人々の熱意は冷めない。
そして今年、東西に分かれていた闘球が、交流戦を行なうことになり、その熱意はピークに達していた。
それは誰が本当に強いのかを決める戦いではない。ただ、この庭園に永遠と蔓延る悪の根源を少しでも忘れるために用意した娯楽、パフォーマンスでしかない。
けれど人々は熱狂する、この庭園に蔓延る悪を忘れるために。
「最初に入ってきたのは皆さんご存知、最優秀専士48名――MVP48です!」
人々の声援に応えるように、専士たちも手を振る。
最初に入ってきたのは西闘球で最も強く最も人気が高く、MVP48に半数も選出された壬生ウルフズだった。
今回の東西戦は、このチームの戦いが見たいという東側の要望が多数あったことも一因とされている。
それほどまでにこのチームは人気が高い。
争技場に入るには入場券が必要だが、その入場券には各専士の顔写真が印刷されている。
壬生ウルフズに所属する全員分があるため、人気が高い専士の入場券は飛ぶように売れる。しかもそれを保管しておいて実際に争技場へ入らないこともままあるため、入場券は本来収容できる争技場の人数以上に販売されている。
その売り上げだけでも信じられない数になり、それゆえ商売人から見ても、闘球は利用価値があるものだった。
だから熱意は冷めない。
さらにMVP48に選出された西闘球の赤穂インフェトリマンズ、土佐ナイツ、蝦夷リパブリックス所属の専士たちが壬生ウルフズの専士の後ろに続き、東闘球の二本松ギャルソンズ、援隊メールズ、狗党テンペスタース、白虎コールプス、彰義アライアンスと続く。
MVP48のすべてが入場したあと、MVB48にMCP48、BCT48に選出された専士たちが順番に入り、東西に分かれていく。人数的にも強さ的にも圧倒的に西が有利。
それでも人々は心を躍らせる。人々にとって勝敗はあまり関係ない。もちろん、応援しているチームが勝ってほしいという願望はあるが、それは些事。それすらも超越した娯楽がそこにはあった。
「いよいよです。いよいよでしゅよ、皆さん。また大事だから二回言ったのに噛みましたが、とにかく、とにきゃくです、始まるったら始まりゅのです!」
繰り返すくせに噛むという、名物司会者の声に笑いが起きる。
「それでは闘球開始ですっ!」
それが本位ではない司会者は少し涙目で怒鳴るように宣言し、闘球は始まる。




