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tenth  作者: 大友 鎬
第7章 放浪の旅
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新世代編-11 回転


11


「キミは……恐ろしく強いね」

「そうでしょうか? 私は私。あなたはあなたではなくって?」

 しかもアテシアはその優秀さを理解していない。理解できていない。

 アテシアのその優秀さを喩え、こう思う冒険者もいた。

 アテシアは人間じゃない。

 そのぐらいアテシアは優秀だった。

 そうして今回アテシアは奇跡を手に入れた、ムィという魔物を手に入れた。

 だからもともと、そういう揶揄をしていた冒険者はこう思ってしまった。

 アテシアは魔物なのではないか?

 それはある種の疑念。不明確な答え。

 そもそもアテシアの能力と、ムィという魔物は、別々に考えなければならない。

 けれど嫉妬に満ちた冒険者はどうしても考えが浅くなる。

 そのふたつの事象を一緒に考えてしまう。

 アテシアは魔物に近い存在だからムィを操れている。

 それが答えではないと分かっていながら、そんなふうにしか結論づけれないから、気味悪がって離れていくしかなかった。

 デデビビとクレインはそういう意味では純粋だ。

 もちろん、アテシアの強さに対する嫉妬もある、同時に焦燥もある。

 けれど、デデビビとクレインのふたりには他の冒険者に劣っているという劣等感がある。それを認めている。

「そうだね。僕は僕。アテシアはアテシア。クレインはクレインだ」

 ゆえに、アテシアの問いかけに対する答えもアテシアを否定するものではなかった。

「というか、悠長に話してる場合じゃないでしょ」

 クレインが呆れるのも当然だった。

 クルドゥルは降って湧いたエサ――スクリームスワロウの死骸に夢中になっていて、3人の冒険者に向かってきてはいない。

 だから悠長に話せていたにはいたのだが、そんな暇があるなら、今の、隙だらけの好機を見逃さず倒してしまうのが最善手だ。

 クレインに言われて、デデビビはクルドゥルに向きなおす。

 空の脅威を取り除いたアテシアも、鐺耳付短剣を構えなおす。

「行くよ」

 クレインの合図で、アテシアとクレインが走り出す。

 初手はデデビビの札術。

氷札(アイスカード)】(3重)と 【水札(ウォーターカード)】(2重)をクレインたちの向かうクルドゥルに放つ。

 エサに夢中になっていたクルドゥルは避けることはなかった。だが、【氷札】で凍りついたクルドゥルはともかく【水札】を受けたクルドゥルは突然の水浴びに喜び、そうして襲いかかってきていたクレインを見つける。

「もう、何やってるのさ」

 喜ばすだけ、というほとんど意味のない先制攻撃に怒りつつもクレインは練習用杖を振り下ろす。

 鍛えられた腕力によって放たれた一撃は、

「驚きですわ……」

 アテシアを驚愕させるほどの威力。

 あれから何度も見ていたはずのデデビビでさえその威力には感嘆せざるを得ない。

 喜びに満ち満ちていたクルドゥルの顔がひしゃげ、そのままかち割れる。

「どんどん行くよ」

 空がアテシアの独壇場だとすれば、地上はクレインの撲殺場とでもいうべきか。

 巨人が人間を踏み潰すかのように、クレインは次々とクルドゥルを叩き潰していく。

「負けていられませんわね」

 素直にアテシアは悔しがるが、自分の得手不得手は弁えていた。

「ムィちゃん! 行きますわよ」

 力では敵わない。争うわけではないが、それでも誰よりも目立ちたいと思うのが、初心者冒険者だ。

 だからこそ、自分の得意を存分に活かす。

 呼ばれたムィがアテシアから飛び立つ。

 クルドゥルたちの周囲を超高速で回り、その中心へとクルドゥルを集めていく。

 クルドゥルたちもムィの包囲から抜け出したいが、あまりにも速過ぎてその隙を見出せないでいた。

 ムィが作り出した、ある種の閉鎖空間にいるのは大量のクルドゥルと――アテシアだ。

 アテシアは複数のクルドゥルを巻き込むように突進し、クルドゥルたちを吹き飛ばす。

 もちろん、避けるクルドゥルもいた。

 けれどそれでもいい。

 吹き飛ばされたクルドゥルは、周囲を高速回転するムィにぶつかり、アテシアの傍へと跳ね返される。

 その跳ね返ってきたクルドゥルをアテシアは吹き飛ばすように斬りつけ、ムィヘと跳ね返す。

 ムィはまるでお手玉をしているかのように、またアテシアへと跳ね返す。

 そしてその数は増える。はじめは一匹だけを跳ね返していたアテシアとムィだが、飛ばす場所を変えることで、現在は五匹のクルドゥルを交互に跳ね返しあっていた。

 逃げ戸惑うクルドゥルも飛ばされたクルドゥルに当たり、それで跳ね返し合いが止まるかと思えば、アテシアがきちんとそれを拾い、ムィへと跳ね返す。

 やがて無限に続くかのように思われた跳ね返し合いは、逃げ戸惑うクルドゥルがいなくなるとともに終わる。

 跳ね返され続けていたクルドゥルの息はすでにない。

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