飛空艇編-21 呪言
21
「グジリーコさんが守ってくれたんだ」
「グジリーコが? 依頼主を裏切った、クソ冒険者が?」
「グジリーコさんはあなたを裏切ってなんていない。依頼主の名前を彼は言わなかった」
「そんなわけがないだろう。じゃあなんでお前と居たんだ? レシュリー・ライヴ? それは裏切った以外に考えられないじゃないか?」
「彼は僕が身勝手に救うと決めて、停戦したんだ。お前のことなんて知らない。お前は一体誰なんだよ?」
「俺のことを知らない、だと。お前のせいで、俺の人生は台無しになったっていうのに。レシュリー・ライヴ!」
「僕がお前の人生を台無しにした? 一発逆転の島のことを恨んでいるのか?」
「それよりも前に俺の人生は台無しにされた。この落第者め、金魚のフンめ。お前は永遠に落第し続けるべきだった。お前が新人の宴に合格しやがるから、俺は有り金を全て失った」
「お前……原点回帰の島の初心者協会の……」
「ようやく思い出したか……そうだ。その通りだ。俺はお前のせいで、妻に離婚され、借金で臓器も失った。輝かしき未来を奪われた。お前が、お前が落第しないから!」
「そんなのやつあたりだ。いつまで根に持ってるんだよ」
そんなことでグジリーコたちが死んだなんて報われなさすぎる。
「うるさい。お前は永遠に不幸でなければならなかった。お前が幸せになってはいけなかった。お前が幸せになったせいで何人が不幸になったと思う?」
「僕は誰かを踏み台にしたつもりはない」
「だとしても結果的には不幸になった。お前が落第しなかったから、ゴジライくんは死に、トトイナくんにミッザーハくん、コレイアくんは死んだんだぞ?」
「3人を唆したのもお前なのかよ」
「その通りだ。ゴジライくんを殺したクソグジリーコは、悠々と生きてしかも幸せになろうとしている、って言ったら3人ともすっかり騙されてくれたよ」
「お前……最低だよ」
僕のなかの怒りはとっくに臨界点を超えていた。
「最低? それはお前だよ。お前が落第しないから、俺は最低な人生を歩み、ゴジライくんたちは最低な結末を迎えた。お前が落第していたら、もっと楽しい未来があったとは思わないか?」
「思わない」
言って僕はそいつの背後へと転移していた。
僕がいてもいなくてもゴジライは死んでいた。そして僕がいたからこそ、3人は生き残った。おこがましいかもしれないけれどそれが事実だ。
3人が死んだのは、目の前のお前が唆したからだ。
お前が不幸になったのは僕の合否で賭博していたからだ。
そもそもやらなければ、幸も不幸も関係ない。
お前が不幸なのはお前の自業自得だ。
グジリーコが死んだのも、コレイアが死んだのも、ミッザーハが死んだのも、トトイナが死んだのもお前が僕を勝手に恨んだせいだ。
すべてお前のせいだ。
僕は恨みと怒りを込めて鷹嘴鎚〔白熱せしヴァーレンタイト〕で胸を抉る。
嘴が心臓を貫き、そいつは吐血。
「お前は死ね。恨まれて死ね。呪われて死ね。呪われろ、呪われろ、呪われろ、呪われろ、呪われろ、呪われろ、死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね」
恨み言を吐いて、そいつは死んだ。
息を切らしながら、僕はヴィヴィへと近づく。
死んでいるとは思っていない。近づくにつれ、呼吸しているのが分かって、それでようやく安堵する。
「なんだったの?」
恐る恐るルルルカたちが爆心地へと近づいてきた。
「全部、説明するよ」
気絶したヴィヴィを抱えながら、僕はルルルカたちに言う。
「どうして、泣いているんですか?」
言われなくても気づいていた。
僕は泣いていた。
「なんでだろうね」
無性にアリーに会いたくなった。
こういうときにアリーが言ってくれる軽口が僕の心を安らげてくれることに、いなくなって気づいた。
「涙を、拭いて頑張りましょう~」
モココルが言う。僕が欲しい言葉じゃなかったけれど、その言葉に奮起する。そのとおりだ。
敵はすべていなくなってしまったけれど、僕にはまだやるべきことがある。
涙を拭いて、ヴィヴィをモココルに預けた僕は歩き出す。




