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tenth  作者: 大友 鎬
第7章 放浪の旅
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飛空艇編-18 接骨

 18


「何事かと当然驚いたが、すごいことだな……」

 岩陰から這い出たグジリーコがレシュリーに声をかける。

「うわっ、なんでいるの?」

 いるとは思わなかったグジリーコの姿にレシュリーが驚く。

「なんでも何も、この近くに流されてきただろう?」

「そうか……それで……でも何にしろ好都合です。事情を聞いてもいいですか?」

「依頼主について話すことは何もない」

「それについてはもういいんです。それよりもあなたの家族のことを教えてください。救うために」

「……分かった。だが、当然仲間と合流するのだろう? だったら歩きながらのほうが当然効率がいい」

 それもそうですね、そう言ってレシュリーは歩き出す。

 歩いてしばらくして、ルルルカたちがやってきた。どうやら無事に殲滅士を倒したことにレシュリーは安堵する。

「ぶらーんってなってるの!」

 改めて気づいたと言わんばかりにレシュリーの折れた片腕を見て、痛そうに叫ぶ。

「まあ、ヴィヴィに治してもらうよ」

「さっきから気になっていたんですが、その人は~?」

 レシュリーの折れた片腕を凝視することもなくモココルはレシュリーの後ろにいるグジリーコを見やる。そこには警戒の瞳があった。

「この人は諸事情で僕たちを狙っていた弓士の人」

「正確には剛弓師だ。上級職だ」

「上級職!? それどうやったら成れるの?」

 レシュリーを含めた全員が驚き、代表するようにルルルカが声高に問いかける。

「一般的にはランク7になったら、と言われているが、私は才覚のお陰だ」

「根堀葉堀聞くものじゃないよ、ルルルカ」

 グジリーコの才能のことすら尋ねようとするルルルカをレシュリーは止めた。

 才覚のお陰、としか説明しなかったグジリーコはそれ以上のことを話すつもりがないだろうと、レシュリーは察していたからだ。

「それより、狙っていた人がなんで、レシュリーさんと一緒に?」

「どうやら誰かに雇われていただけらしいんだ。彼には彼の事情があるから、救うことにした」

「なるほど……」

 それだけでアルルカは納得してしまう。

「当然、理解不能だと思ったが、どうやらお仲間も毒されているみたいだな。当然だがありえないぞ、こんな状況。命を狙っていた冒険者を許して、挙句に助けようとするなんて」

「でも、それがレシュリーさんなんですよ」

 アルルカが言う。ルルルカも納得している。

「当然、理解できん……」

 グジリーコはそう呟いて、押し黙る。

 そのまま5人は歩いてヴィヴィと合流を果たす。

 そこにはヴィヴィとモッコスしかいなかった。

「随分とすごいことになっているな」

 ヴィヴィがレシュリーを見て苦笑する。

「ちょっと手強くてね。でも素材は手に入れたよ。それよりも他の人は?」

 何も言わずヴィヴィは癒術の詠唱を始める。

「ガハハ、ゴジライくんの遺体のところですぢゃ」

 詠唱しているヴィヴィの代わりにモッコスが応える。

「彼を救えなかった……」

「でも生意気で身勝手だったと思うの」

 ルルルカが言う。悪口にも思えるそれはレシュリーを少しでも気休めようとしてのことだった。

「それは関係ないよ……」

 【接骨(ボーンセッター)】が発動し、レシュリーの骨折が治療される。

「キミは相変らずだな」

 治療を終えてヴィヴィは呆れる。

「ゴジライは確かに死んだ。けれど他の3人はキミが救った。キミが今日、ここに来ようとしなければ、ゴジライだけじゃなく他の3人も死んでいた。つまり、キミは死ぬはずだった4人を3人も救ったんだ」

 それは気休めでしかない。そういう問題でもない。

 けれど、そうやって労わってくれる仲間がいるのだから、レシュリーは無理にでも立ち直らなければならない。

「そっか。そうだよね。頭では分かってるつもりなんだ。でもいつもうじうじと考えてしまうんだよ」

 ダメだよね……このままじゃ……、レシュリーは落ち込みながらも立ち上がる。

「帰ろう」

 レシュリーは言った。

 ゴジライのそばにいる3人に声をかけなかったのはかける言葉が見つからなかった、というよりも別れを惜しむ3人に自分たちのような異物が入ることを良しとしなかったからだ。

 3人が魔物に襲われる可能性はなくはないのだが、それでも魔物がほぼ殲滅した地域に、脅威が残る地域に魔物が無鉄砲に近づくとは思えなかった。

 連戦に次ぐ連戦で全員の疲労はピークだった。

 それでもレシュリーは疲れを見せずに、グジリーコの事情を聞く。

 グジリーコの妻のこと、娘のこと。そしてどこにいるのか。

 それらを聞いたあと、レシュリーはやはり、グリジーコの雇い主を聞くことはなかった。

 グジリーコも話すことはなかった。当然と言えば当然だが、依頼主を喋るような、すぐに鞍替えするような冒険者ではないのだ、グジリーコは。

 それでもレシュリーに対して罪悪感がないとは言えない。

 妻も娘も救ってもらうのに、何もしない。それでいいのか。

 たぶん、それでいいのだろう。レシュリーは何も求めていない。

 レシュリーとのわずかな邂逅で、グジリーコは理解してしまっていた。

 私も毒されてしまったのか。苦笑したあと、ふと笑みが零れた。

「ご苦労様です! よくぞご無事で!」

「倒しておいたよ」

 レシュリーは言ってセイテンの尻尾を見せる。

「すぐにご報告してきます!」

 門番はよほど嬉しかったのか、門の番を忘れて駆け出していく。

「じゃ、約束通り夕飯を食べるの!」

 エンドレシアスに着いた頃には日は傾いており、橙色の光が街を照らしていた。

「そうだね。グジリーコさんもどうですか?」

「当然、断る。仲睦まじくしている理由もないだろう。私はさっさと寝ることにする。お前たちは今日はここにいるんだろう?」

 グジリーコはレシュリーに感謝しているものの、素っ気無い態度を取った。

 当然、レシュリーもそれがグジリーコなりの配慮だと理解していた。

「ええ。今日はここで過ごして明日、一緒にグジリーコさんの問題を解決に行きましょう」

 そう言ってレシュリーたちとグジリーコは別れた。

 とはいえ、すぐにレシュリーたちとグジリーコは邂逅を果たす。

 グジリーコが選んだ宿屋は1階に酒場を兼ねる一般的な場所で、レシュリーたちもどうせ宿泊するのだからとその宿屋を選択していた。

 宿屋の受付をしていたグジリーコはレシュリーが現れたことにかなり驚いていたが、こういう偶然も当然あるだろうと苦笑して、会釈だけして部屋に引っ込んでいった。

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