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tenth  作者: 大友 鎬
第7章 放浪の旅
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飛空艇編-16 必死

 16


「危なかった……」

 亀裂に落かけたときはどうなることかと思ったけれど、【水の氾濫】が亀裂に流れ込んでいくなかで、亀裂の反対側に転移できたのは僥倖だろう。

「とは言っても、危険は引き続くんだけどね」

 セイテンもあれぐらいでやられる魔物ではなかった。もっとも亀裂へと落ちていった場合、別の個体を探すか、尻尾を剥ぎ取りに下まで降りないといけないという面倒な事態になっていたから。

 そういう意味ではありがたいけれど、ひとりで戦うしかないのは不運かもしれない。

 殲滅士はルルルカたちに任せるしかない。

 でもルルルカたちなら大丈夫だろう。

 自分の心配をしろ、と言わんばかりにセイテンが空中回転しながら僕に迫る。

 高速回転するセイテンから、高速で飛んでくる超硬の棒。

 奴の尻尾だ。

 けど、軌道がバレバレすぎる。

 僕はセイテンに回り込むように横に回避――

「ちぃっ!」

 僕は慌てて鷹嘴鎚〔白熱せしヴァーレンタイト〕で尻尾を弾く。

 僕の移動にあわせて身体を捻り、無理やり尻尾の軌道を変えてきた。

 ヴィヴィが使うような真っ直ぐな棒と同じく棒自体が途中で曲がることはないが、セイテンは身体を捻ることでその動きを自在にできるようだった。

 セイテンの攻撃は止まらない。

 踊るように回り尻尾をぶつけ、跳んで回転して尻尾を振り下ろし、着地したかと思えばすぐに跳躍して尻尾を振り上げる。

 止まらない連撃。

 弾くだけで精一杯だったけれど、セイテンは苦い顔。

 全部弾かれるとは思いもよらなかったのだろう。

 速度が上がる。

 さすがにこれはやばい。

 【転移球】で転移しようとした最中、セイテンが触れてくる。

 僕は目を見張る。【転移球】の特性でも知っているのか。

 一緒に転移してきたセイテンの連撃は続く。

 少しでも体勢を崩してやろうと、同時に転移される瞬間、転移先を空中に変えたのは失敗だったかもしれない。

 しかも上空をセイテンに取られる始末だ。

 裏目裏目になっていく現状を恨め恨めといわんばかりにセイテンの空中連撃は続く。

 二撃目を弾き損ね、胸が叩きつけられる。案外軽傷で済んだのは防具を強化していたおかげだろうか。強化前と比較したわけではないけれど、それでもジョバンニに感謝せざるを得ない。

 二撃目によって落下速度が増し、思わず下を確認。

 地面が近い。叩きつけられるのを回避したいけど、上空にはセイテンがいる。

 そうして僕は過ちを犯す。

 こんな状況で確認している暇なんてなかったのだ。

 セイテンの三撃目が目の前であることに今更気づく。失態だ。

 直撃を防ごうと腕で防御。無策で無謀の防御は直撃を避けたものの、メギリィという鈍い音。

 だらーんと腕が垂れていた。

 興奮しているのか痛みはない。けれど自分の迂闊さに腹が立つ。

 さらにセイテンの攻撃は続く。いや続くというより終わっていないというべきか。

 3撃目を終えてセイテンはずっと身体を独楽のように回し続けている。

 そのたびに尻尾が勢いよく振り下ろされ、回転中でも僕をきちんと捉えているのか少し動いただけで尻尾は追尾してくる。

 【転移球】を使ってもセイテンから逃げ切るのは難しいだろう。きっとさっきみたいに自分の一部を意地でも触れて一緒に転移するだろう。

 なら、どうするか。

 少し考えて、僕は何撃目かの尻尾を握った。

 ぬめりのある毛並み。少し気持ちが悪い。唯一の武器を触らせない算段だろうか。

 【蜘蛛巣球】を展開させて尻尾と離れないように手を付着。

 ぬめりさが増し、ねちゃりという感触で少しだけ鳥肌が立つ。

 触られたことに不快感を増したセイテンが尻尾を短くして、僕との距離を詰める。

 僕の手と尻尾が接合されていることに気づくと、文字通り僕を足蹴にしてくる。

 不快感に動きが乱雑になり、セイテンの踏みつけは単調。

 とはいえ僕の動きも片手が固定され、片手は使えない状態だ。

 避けれるには避けれるが、数発は頭や肩を蹴られてしまう。

 でもそれでいい。セイテンが僕の手を離そうと必死になればなるほどそれ以外が疎かになる。

 僕はただ尻尾を離さないようにして機を待つだけ。

 あっという間に機はやってくる。

 地面にぶつかるかぶつからないかという瞬間、僕はセイテンと位置を入れ替える。

 【転移球】ではなく、腕の力で。尻尾を振り落とした。

 セイテンが地面に激突。

「ギィ、ギャ!」

 と二段階の悲鳴。

 一段階目は地面へと激突によるもの。二段階目は僕の踏みつけによるものだった。

「ギィ、ギィアアアア!」

 セイテンが嗚咽と同時に吐血。肺を思いっきり肩で強打しておいた結果だろう。

 潰れた肺から流血したのだろう、血の流出が止まらず、失血し続けている。

 脳震盪を起こしたのか平衡感覚を失い、それでもなおセイテンは逃げようとはしなかった。

 叩きつけた反動でとっくに尻尾と僕の左手は離れているのに、だ。

 セイテンの目は怒りに満ちていた。

 僕が必死になってセイテンと戦うのは素材のためだけど、ゴジライの弔いという意味も少なからずある。強いからまた今度にしよう、と思わないのはゴジライを死なせてしまったコイツを倒したいからだろう。他のセイテンではなく、この個体でなければ意味がない。

 セイテンも同じなのかもしれない。

 仲間を殺した僕たちを殺さなければ意味がないのだろう。

 だからセイテンは退かない。退けない。

 逃げても僕たちにまた出会えるとは思えないから。

 僕も逃がすつもりなんてない。

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