飛空艇編-15 劣化
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ラミィアンが無視した結果、ブヒブヒは死んだのだとしてもラミィアンは哀しまない。
ブヒブヒからの報酬はなくなったけれど、ラミィアンは別にいいと思っていた。
そもそもブヒブヒが親を恨み寄生できていたのは親が罪悪感によって養っていたからではない。
ブヒブヒが親の弱みを握り、脅していたからだ。
ブヒブヒの親は自分の地位が失墜するのを恐れ、ブヒブヒに従順になっていたのだ。
ブヒブヒがラミィアンとでかけ、こうして死んだ今、血眼になって、その弱みを握りつぶそうとしているのかもしれないが、それは無駄だった。
ブヒブヒの目を盗んでラミィアンがその全てを継承していた。
そもそもブヒブヒのいう報酬とやらも、ブヒブヒの親の懐から出ているものだから、親を脅せばいいと結論に到達するのも容易だった。
あとはここを切り抜ければいいだけなんだけど、ちょっとやばいっぽい。
ラミィアンはここにきて焦りを感じていた。
ブヒブヒがあっさり死んだ今、実質三対一。人数的には不利がすぎる。
出し惜しみしてる場合じゃないんだけど、大丈夫か不安っぽい。
改造された右腕。改造屋が言うところの加速する拳はメンテが不十分で使用したせいでガタがきていた。
どうすべきか迷うラミィアンにルルルカが迫る。アルルカの匕首十本が周囲を漂い、ラミィアンの動きを封じ込めていた。
ブヒブヒを殺したモココルも背後から近寄ってきているのを感じられた。
アルルカのタンタタンに宿されるのは【氷牙】と【強炎】。
交互に切り換えて打ち込めば武器破壊もできるルルルカの得意攻撃だった。
ラミィアンはそうともしらずに加速する拳でその剣撃を弾く。
異変を知るのは数秒後。ガタがきていた加速する拳の違和感が増していく。
「にゃろっ! 厄介なんだけど」
悔しげな表情を見せて後退しようとしたラミィアンの退路を封じたのは、穴柄頭刃剣〔散髪屋サーキ〕を構えたモココル。
方向を変えようと足を止めると左右にはルルルカの匕首が回り込んでいた。
完全に包囲されたラミィアンだったが
「出し惜しみはやっぱりよくなかったっぽい」
言って姿を消す。
「どこなの?」
周囲を探すルルルカに、周囲を索敵したモココルが叫ぶ。
「上だよ~」
指摘通り、ラミィアンは宙に跳んでいた。
それを可能にしたのは魔法ではない。
ラミィアンの両脚もまた改造してあった。
改造屋曰く、跳躍を超える超躍。
それは魔法の力もなしに、大空へと跳ぶことが可能だった。
ラミィアンは加速する拳の様子を確かめる。これは賭けだけどまだいける、ラミィアンはそう判断する。
いや壊れようがなんだろうが、この現状を乗り切るにはやるしかないのだ。
右腕を地面に向け、蒸気を噴射させようとした途端、
「モココル、とっておきを出すの!」
「りょ~かい!」
意味も分からずラミィアンは怖気だった。
モココルが【収納】によって取り出したのは、虎蹲砲〔虎視眈々のシコタン〕。
虎蹲砲と呼ばれるそれは、巨大な虎の姿をしており、その口に大きな大砲を咥えていた。
虎の首は180°可動し、真上にも撃つことが可能だった。
「いっけぇ、シコタン!」
ルルルカの合図に、モココルが標準を合わせ、砲弾を放つ。
使い勝手は存分に悪いが、ルルルカは青銅でできたクリックリ眼の愛らしい虎、シコタンがお気に入りだった。
そうしてここが使える好機と考えシコタンを見たいがために虎蹲砲を使うことに勝手に決めた。
モココルも反対しない。対空攻撃に連射銃と拳銃は不向きだからだ。
虎蹲砲〔虎視眈々のシコタン〕の口から高速で放たれた砲弾がラミィアンに直撃。
なんとか左腕を犠牲にして防御したものの、その速度と威力によって、左腕は複雑に骨折し、胸の骨も幾本か折れる。
巨大な鉄塊が尋常ではない速度で繰り出されたのだ。そのぐらいは想定済み。
痛みに耐え、一気に肘から蒸気を噴射して加速。
急速落下しながら、地面に右腕を振り下ろす。
地を割り、面を砕き、破砕した大地がルルルカたちを巻き込むはずだった。
けれどガタのきていた右腕は、ラミィアンの希望には沿わない。
いちかばちかの賭けに、右腕は応えてくれなかった。
ラミィアンの右腕は壊れ、ラミィアンもそのまま地面に激突する。
一瞬の気絶。
それでも数刻を待たずに目覚め、体勢を直し、立ち上がったのは意地だろうか。
負けられない意地。
ラミィアンがお金をほしがる理由は、この身体のためだ。
惚れた男が改造屋だった。改造するたびに男は喜んでくれた。
その男に改造してもらうにはお金がいる。
ガタがきた右腕も、壊れかけの両脚も、直してもらわないといけない。
それにこうでもしないと強くならない。
才覚のある人間のほとんどが、レベルアップの際のもともとの能力値の上昇量が多い。
そんな冒険者に凡人が追いつくには何が必要だろうか。
努力、というかもしれない。けれど冒険者の努力は経験値となり、レベルとなって現れる。
レベルは努力の、経験の塊だ。高レベルの冒険者はそれほど努力をしているといえる。
じゃあ凡人が才覚のある高レベルの冒険者に勝とうとするならどうすればいい?
ずるをするしかない。
ラミィアンは才覚のある冒険者に追い抜かれるたびに、そう思っていた。
改造が卑怯なのは分かっている。でも努力をしても勝てないなら、そうするしかない。
惚れた男が改造屋だったのはラミィアンには好都合だった。だから改造者になった。
お金をつぎ込んで、どんどん強くなった。
凡人が努力する時間よりも何倍も早く、ランク6になった。
ずるをすれば才覚のある冒険者にだって勝てる。
それは嘘だったのか。
貫く熱い刀身を胸に感じて、ラミィアンは思う。
立ち上がった瞬間、ラミィアンはアルルカの【強火】の宿った魔充剣タンタタンに胸を貫かれていた。
「ああ……」
ランク的に見れば格下。レベル的に見ても格下。
それでもラミィアンが負けたのは、改造に頼りすぎたからだろう。
ラミィアンは炎に包まれ、そうして倒れた。




