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tenth  作者: 大友 鎬
第7章 放浪の旅
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飛空艇編-10 警戒

 10


「レシュリーさん、左だよ~」

 そんな声が聞こえるまでは。

 グジリーコは青ざめる。こんな緊迫していた状況で、当然のように周囲を警戒していたというのか。当然なら慌てていてそんなことをしていないのが普通だ、と。

 けれどモココルにとって、自分が【危機管理】できる範囲内ならいかなる状況でも、周囲を警戒し続けるのが当然だった。

 モココルや、モココルのかつての仲間はルルルカたちが無警戒で談笑していたように談笑して、そこを賊に襲われていた。

 男は虐殺され、モココルや他の女冒険者は誘拐された。

 モココルが幸運だったのは、自分が売り飛ばされる前に救助がきたことだ。

 だからモココルはこうして冒険者を未だ続けることができている。

 けれど他の冒険者たちは違う。冒険者としての未来を奪われてしまっている。

 そんな目に遭わせてしまったのは自分のせいだ。自分が警戒しなかったせいだ。

 モココルはその負い目をずっと背負っている。

 だからルルルカたちに初めて出会ったときでさえ、かつての仲間のように無警戒でお喋りをする姿を見て、自分たちの二の舞になるのではないか、と恐怖を感じた。

 ゆえにモココルは一緒にいようと決めた。ルルルカたちが同じ目に遭わないように。

 それでもお喋りすることを注意しない。それは冒険者によって一種の娯楽だし、何より楽しい。

 だから否定しない。自分が警戒しておけばいいだけだから。

 そんなモココルの負い目が、想いが、レシュリーでさえ目の前の【土の豪雨】の対処に精一杯ななか、ひとりの剛弓師に気づき、その彼が放った殺意と矢に気づいた。

 グジリーコにとって、モココルの想いは誤算。

 当然、分かるはずもない。

 それでも希望はある。モココルの忠告は軌道を読もうとしたからか遅かった。

 だから当たる、とグジリーコは願う。

 しかしレシュリーは反応していた。

 身をそらし、その矢を避ける。超反応だった。

 【KAGEROU】が【土の豪雨】の土塊に当たり、消える。

 それでもグジリーコは諦めない。

 レシュリーはミスを犯した。

 モココルの姿は【土の豪雨】のなかにない。先ほどの忠告に少し遅れてモココルに【転移球】が当たり、避難させられていた。

 グジリーコから遠ざかったモココルの【危機管理】は、グジリーコの位置を捉えられないだろう。

 モココルは確かにグジリーコの位置を見失っていた。

 レシュリーを助けるために距離を詰めることはできたが、ここにはルルルカたちがいる。

 彼女たちに狙いを変更しないとも限らない、そんな疑念があるからモココルは動けない。

 豪雨のなか、レシュリーは【転移球】を投げる。

 残るはゴジライと自分だ。

 ゴジライが嫉妬によってレシュリーに反発しようと、レシュリーは助ける。

 当然、レシュリーも助ける人の取捨選択はするが、その程度のことで見捨てるほど非道ではないのだ。

 援護球である【転移球】は、対象を追い続ける。

 ならばその援護が不本意である場合、どうするのか。

 答えは簡単だ。

 気に食わない、お前の助けなんていらない。

 そう言わんばかりにゴジライは断切刀剣〔万乗のギンガ〕で叩き切る。

 それはレシュリーがゴジライが邪魔をしないだろうと、速度も抑えていたからできた芸当だった。

 結果、ゴジライは勘違いする。[十本指]も、レシュリー・ライヴも大したことはない、と。調子に乗る。

 さらに偶然か、奇跡か、それとも対象がレシュリーだったからか、ゴジライは【土の豪雨】を自力で抜け出していた。レシュリーが避難させた仲間たちとは逆の方向だったけれど。

 関係ない。

 調子に乗ったゴジライが向かったのは先ほど矢が飛んできた方向だ。

 どこかに矢を撃った弓士がいる。

 弓士程度なら近寄れば、俺にだって。

 レシュリーに一泡吹かせてやる。

 そんな気持ちだけでゴジライは動く。

 ゴジライも狩士だ。【危機管理】を持っている。

 周囲を警戒しながら、さらに【探査(サーチライト)】を展開。

 レシュリーたちが先ほどアビェジャナやガラモノを倒したかいもあって、反応したのは4つ。

 ひとつは北。もうひとつは東。残るふたつは、ともに行動しているのか南東にある。

 矢の飛んできた方向は東だから、東だろう。

 ゴジライは射手がその場にいると思い込んでいた。絶好の位置を見つけたら動かないと思い込んでいた。

 素人の考えだが、それが今回ばかりは的中する。

 レシュリーほどの猛者ならば、狙撃手は最初の位置から移動しているだろうと考えてグジリーコが選択したのは、あえての待機だった。

 それがゴジライにとって功を奏し、グジリーコにとっては裏目に出た。

 それをグジリーコは当然、厄介だと感じていたが脅威だとは思っていなかった。

 レシュリー以外は当然殺す気なんてなかったが、近づいてくるなら当然、話は別だ。

 グジリーコは長弓〔穿ち貫くエバンリッコ〕に矢をセットして弦を引く。

 標的はゴジライだ。

 功を奏したゴジライだったがそれでもミスを犯していた。

 【探査】をして敵意ある敵を探し出したのなら、正体を探るべきだったし、間隔を空けて連続使用をして、異常がないか見るべきだったのだ。

 ゴジライが【探査】を使ってから数秒後、北にいた何者かはわずかに南に移動していた。

 ゴジライはその異変に気づくべきだった。

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