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tenth  作者: 大友 鎬
第7章 放浪の旅
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飛空艇編-9 好機


 それが、ラミィアンにとっては好機だった。

 ラミィアンは殲滅士だった。

 殲滅手段はあれど、見つかったり、接近されれば打つ手はない。

 守り手はいない。

 隣にいるのはブヒヒヒ、と鼻息を鳴らす、異臭のする男だけだ。

 彼はラミィアンの依頼主、ランク3の冒険者ブヒブヒ・ヒデブー。ルルルカとアルルカの熱烈なファンだ。

 ブヒブヒはルルルカたちに付く虫、レシュリーとその仲間を殺してほしいと依頼を出した。

 それを引き受けたのがラミィアンだ。

 他の冒険者が依頼を引き受けなかったのは、それがブヒブヒの嫉妬だと理解できたうえに[十本指]に楯突こうとは思わなかったからだ。

 それでもラミィアンは引き受けた。

 ランク6の殲滅士ラミィアンにランク5のレシュリーは脅威と思えなかったし、何より報酬が多額だった。

 封印の肉林がようやく抜け出したランク6冒険者は総じて金欠だ。

 死亡届が出されていない冒険者は家賃を滞納しまくっているものまでいた。

 ラミィアンも似たような目に遭っている。

 だからお金が必要だった。

 ゆえにどんな理由だって気にしない。

 殲滅士がルルルカ、アルルカ以外を狙い撃つことができるはずないことをブヒブヒは知っているだろうか。

 伝える必要もない。依頼をこなしたと脅して、お金を奪い取ればいい。

「隙ありすぎなんだけど!」

 ラミィアンは小さく呟く。黒曜石の怪樹杖〔滅せよ、ジジライカ〕を掲げ、

「【土の豪雨(レインズアース)】」

 途端、レシュリーたちの頭上に現れたのは拳大の土塊。

 それが豪雨のように降り始めた。

 ゴジライと言い争う形となったレシュリー、そして躍起になっていたゴジライには不意打ち。

 警戒なんてしていないルルルカ、アルルカ、モッコスが気づかなかったのは言わずもがな。

 コレイアとヴィヴィはゴジライの仲間、ミッザーハとトトイナを看病しているのだから気づくはずもない。

 警戒していたモココルも、ラミィアンの位置は範囲外。

 ゆえに誰も気づかなかった。

 頭上に土塊が現れるまでは。

 いち早く動いたのはレシュリー。

 体が反射的に動き、【転移球】をヴィヴィやルルルカに投げる。

 咄嗟に理解したヴィヴィはミッザーハとトトイナに触れ、コレイアの手を握る。

 ヴィヴィを含めた四人の転移に遅れて、ルルルカもアルルカ、モッコスに触れていた。

 七人が【土の豪雨】の範囲外へと逃れる。

 レシュリーが、モココルとゴジライに【転移球】を投げようとした瞬間、

 風を切り裂く音が聞こえた。


 ***


 不意を突いた【土の豪雨】。

 それはグジリーコにとって好機でしかなかった。

 街で殺そうと企んでいたグジリーコだったが、モココルが【危機管理】していたせいで、機を逃した。

 それを依頼者に伝えるとガミガミと文句を言われたが、レシュリーを殺すという依頼は当然こなすつもりだった。

 グジリーコは機が熟すのを待ち、そしてようやくやってきた。

 長弓〔穿ち貫くエバンリッコ〕から矢を放った。

 グジリーコには唯一、自慢できる特徴がある。

 彼にはレシュリーの〈双腕〉のような才覚 があった。

 〈早熟(トップギア)〉。

 それはランク5までならレベルアップが早く、本来ランク7にならなければ就くことができない上級職にランク6で就くことができる才覚だ。

 ゆえにランク6の冒険者である彼はすでに上級職についていた。しかもレベルはランク6の最大である1050だ。

 だから依頼者は彼に依頼を持ってきたし、彼も当然のようにレシュリーひとりを射殺せると思っている。

 彼の弓から放たれた矢は炎と光、二重の螺旋をまとってレシュリーへと飛んでいく。

 【KAGEROU(かげろう)】だ。

 それは弓士から上級職、剛弓師になった彼にもたらされた新しい技能、魔弓技のひとつ。

 魔法の矢、というのが一番理解しやすいかもしれない。

 通常、弓士が放つ矢は技能、狙撃によって鉄の矢だったり木の矢だったりを飛ばすが、その攻撃は物体をすり抜けてしまう敵には効かない。

 しかし、魔弓技によって放たれた魔法の矢は、魔法を帯びている以上、そういった攻撃を無効化する敵にも通用するようになる。

 それは万能の矢。

 その矢をレベル1000超えの冒険者が、己の全力をもって放ったのだ。しかも絶好の機会に。

 当然、当たる。

 とグジリーコは思った。

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