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tenth  作者: 大友 鎬
第7章 放浪の旅
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飛空艇編-8 嫉妬

 8


 レシュリーたちがヴィヴィたちのもとへと辿り着くのは数分もかからなかった。

 それはゴジライにとって関係なく、何ら意味のないことだった。

 ゴジライの中に蠢く感情はたったひとつ。羨望の裏返し。嫉妬だ。

 負け惜しみを言って下がったゴジライを護衛していたのは主にモココルとモッコスのふたり。

 どことなくゆったりとしたとろそうな女と、何も考えてない脳筋。

 こんなやつが強いのかよ、ゴジライは助けられたことが気に食わなくてそんなことを思っていた。

 けれど、現実はどうだ。

 モココルにモッコスはきちんと仕事をしており、周囲にいたガラモノはすべて死骸と化していた。

 ゴジライを助けに行ったレシュリーたちの実力には唖然とさせられたが、このふたりが倒した魔物の数もそれなりに、多い。

 それこそ、ゴジライが必死に倒した数よりも多く、時間だって短い。

 聞こえないように舌打ちする。

「モッコス、その血の量はなんなの?」

 ゴジライの護衛をそこそこに飛び出し、そしてレシュリーたちと一緒に戻ってきたルルルカが呆れて、モッコスに尋ねるのをゴジライはじとと見る。

 まだそんなに余裕があるのか、と。妬み嫉みが積もっていく。

「血も滴るいい男ですぢゃ」

「意味分かんないの」

「でも、モッコスさんがたくさん敵をひきつけてくれたから、護衛も楽でしたよ~」

「またあの変なポージングしたの?」

「あのポーズ、敵を引きつける効果でもあるんでしょうか?」

「分からないの。でも、戦闘中にポージングされるとムカつくの」

 言うとモッコスは求められてもないのに、自分の筋肉を自慢するようなポージングをした。

「振りじゃないの!」

 どいつもこいつも、余裕が過ぎる。もう一度、ゴジライは舌を打つ。

 自分が不機嫌な表情をしていると鏡を見なくても分かった。

「それよりも、負傷者だよ。大丈夫だった?」

 いつまでも話が終わらなそうな会話を断ち切るようにレシュリーはヴィヴィに尋ねる。

「ああ、治療は終わってる。あとは意識を取り戻すのを待つだけだ。それにしても危ないところだった」

 ヴィヴィはあくまでレシュリーに報告した。けれどその淡泊すぎる言葉はゴジライにはまるで責めているように聞こえた。

「すみません、すみません。私がパニくってしまって」

 だからコレイアも謝った。けどコレイアは何も悪くない、とゴジライは身勝手な怒りをその身に宿らせた。

「いや、キミを責めたわけではないよ。けど、こういう状態になっても冷静でなければならないと教わらなかったのか」

 それは結局、責めているのではないか。そうとしかゴジライは思えなかった。

「すみません、すみません」

「あまり責めんなよ。悪いのは全部俺だ」

 だからゴジライは言う。でも反省なんてしてない。

 強くなるためには仕方のないことだし、当たり前のことをした結果、ちょっとピンチになっただけの話だ。

 反省する要素がどこにある。危険な綱渡りなんて冒険者なら当然だ。当然のことだ。

 それを見抜いて、いやそう思ってしまった心の奥の奥、醜い感情すらも見抜いたかのように

「……わりと反省してないみたいだね」

 レシュリーが言葉は紡ぐ。

 レシュリーにとっては何となく呟いた言葉だったかもしれない。

 けれどそれはゴジライには厭味に聞こえた。

 だから言う。言ってしまう。

 危険な綱渡りが当然だと自分自身が思おうとしているのだと見抜かれてしまっても。

 言わなければならない。

「反省、ってなんだよ。誰だって失敗するだろ。今回はたまたまだ」

 ゴジライにだってプライドがある。

 素直に認められるわけがない。

 本当に悪いのは仲間の反対を押し切って、危険な綱渡りをした自分だと。

 素直に認められないから、ゴジライは反省できない。

 だから成長しないのだと気づけない。

「取り返しのつかない失敗もあるんだ。だいたいキミだってあのままじゃ死ぬところだった」

 レシュリーの言葉は辛辣だ。

 けれど、ゴジライは今ある現実しか見ない。

 死にかけたのは事実だが、実際には死んでない。

「ああ、確かにそうだ。でも俺はラッキーだ。幸運だ。こうしてあんたに助けられた。天が味方してる」

 だから、まだ認められない。レシュリーに助けられて助かった自分たちは取り返しがついたから。

「すみません、すみません。ゴジライだって本当は反省して……」

 今回のことで身に染みたコレイアは素直に認める。

 でもゴジライは気に入らない。

「コレイアは黙ってろ。確かに俺は死にかけていたし、死ぬと思ってしまった。そして仲間だって重傷を負わせてしまった。だから悪いのは俺だ。でも反省はしねぇ。俺たちは冒険者だ。だからどこにだって行く」

 レシュリーの言葉は強くなれたから言える話だ。

 取り返しがつかない失敗を考えるよりもゴジライたちは強くなる算段を優先する。

 それが身の丈に合わない場所でのレベルアップなら、それを選ぶ。

 誰かが犠牲になるかもしれない、なんて考えない。

 愚かだろう。けれど何の才能もない人間がする血の滲むような努力というのはそういうことだ。

 リスクを恐れていては、一気に追いつけない。

 急がば回れ、というのは時間が無限にある不死者か、余裕のある強者だけだ。

 弱者にそんなものはない。

 ゴジライはそう信じていた。

 違うと言われても信じないだろう。

 ゴジライは頑固だ。

 頑固でプライドが高くて、それでいて焦りも不安も抱えている。

 それがゴジライだった。

 ゴジライは冒険者には珍しい商人からの転職組だ。

 原点回帰の島に幼少期からいる冒険者と違って、ゴジライが生まれ育ったのは一念発起の島だ。

 けれどゴジライには商才がなかった。このままでは破綻する。

 そう思ったゴジライは冒険者になった。年の離れた冒険者と勉強し、新人の宴も挑戦した。

 一発で合格したときには才能があるかと思ったが、受かって当たり前だと聞いて少し落胆した。

 それでも冒険者になって、商才がないにしろ、目利きができたゴジライは、ツテも頼って独自の流通ルートを作り出した。

 その結果もあって、ゴジライには商人だった頃よりも莫大な収入があった。

 けれどそれも束の間、形成した流通ルートは、自分が狩りを行なっている間に乗っ取られ、そしてそんなことをしていたせいで冒険者としての実力は半端なまま、同じ年に新人の宴に挑戦した冒険者とはかなりのランク差ができていた。

 そんな屈辱に耐えて、それでもここまで来た。

 なのに死にかけて、挙句、年下の冒険者にここまで説教されないといけないのか。

 ゴジライにはそれが理解できなかったし、何より許せなかった。

 殺意とまでは行かないが、それでも嫉妬が渦巻き、反発してしまう。

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