飛空艇編-7 暴猿
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「ボサっとしない。キミは仲間のところまで後退しろ」
僕はケガをした仲間から離れて戦う男へと怒鳴る。
【転移球】でその男の傍まで転移した僕たちはそれぞれの判断で動き始める。
「誰だがすまんが余計なお世話だ」
「こんなときまで意地を張るなよ、仲間の心配をしろ!」
こんな状況でも冒険者としてのプライドが許さないのだろう。僕はおかしくて笑う。
さっきまで死にたくない、という表情をしてたくせに、僕たちが来た途端、どことなく助かるかもしれない、と強張っていた表情が緩んでいる。
プライドから出た憎まれ口も、それが分かればイヤな気はしない。
それにどんな顔をされようとも助けるのが僕だ。
「護衛は任せるの!」
ルルルカが自信ありげにいって、10つの匕首を展開。男やその仲間へと向かっていたガラモノを屠る。ヴィヴィは脇目も振らずに治療を手伝いに向かっていた。
「頼りにしてる!」
ふたりにそう伝えて僕はガラモノの後ろからやってきているアビェジャナへと向かう。
アルルカが僕に続き、モッコスだけがポージングをしてガラモノの注目を集め、モココルが確実に仕留めていた。
「アルルカ、キミが前へ。僕が援護する!」
「レシュリーさんに援護してもらえるなんて姉さんに怒られそうだけど、頑張ります!」
僕に促されてアルルカが加速。僕を追い越してアビェジャナの群れへと突っ込む。
魔充剣タンタタンに宿されたのは【尖突土】と【光刃】の魔法。
は地面を尖らせ、突き出す魔法【尖突土】が刀身に展開されると。刀身を土が覆い、剣先に向かって鋭く尖る。
それは魔法剣としては当然の形だ。アリーが宿した場合でもそうなる。
ただアリーと違うのはここから。
何度か見たけれど、やはり2つの魔法が混合されるというのは異様な感じだ。
アルルカにとっては普通だろうけれど、アリーのを見慣れている僕としては、やっぱり慣れない。
さらに【光刃】が展開され、土の剣を覆うように光が覆い、タンタタンの長さが本来の刀身の3倍ぐらいの長さになる。
長大剣と比べると少し短いが、それでも通常の剣よりも長い、と言ったところだろうか。
「てりゃあああああああああ!」
アルルカはタンタタンを両手で持ち直して、大きく横に払う。
アビェジャナは図体が大きく、どちらかといえばゴリラに似ているが、手が異様に長く機敏だ。
大振りの一撃で一気にまとめてというアルルカの思惑は外れる。
統率の取れた隊のように全員が一斉に跳躍したのだ。
けれどその統率を乱すように僕は【蜘蛛巣球】を投げていた。数匹が地面に貼りつけられ、アルルカの光の剣によって切断される。
数匹の視線が僕へと向く。一番気を引いていたアルルカだけに注意していればいいというわけではないとアビェジャナは気づいたのだ。
「キキィイィイイイイ!」
まるで僕を狙えといわんばかりの叫びのあと、数匹のアビェジャナがこちらへと向かう。今雄たけびを上げたのがリーダーかもしれない、アルルカに視線を送ると、一瞬で目が合う。
一種のトキメキではなく、アルルカも気づいたのだ。
コボルトリーダーのような明確な分類はないけれど、猿のなかにボス猿が存在しているようにアビェジャナにもボス格が存在しているのだろう。
「キキィ!」
鳴き声に呼応してガラモノも向かってくる。アビェジャナが機敏な動きで豪腕を振るうのだとしたら、ガラモノは奇怪な動き――つまり僕たちが推測できないような突拍子のない動きをして、尖った爪で切り裂いてくる。
「レシュリーさん!」
「アルルカは気にせずボスを!」
言って僕は先にガラモノへと向かう。
鷹嘴鎚〔白熱せしヴァーレンタイト〕を大きく振りかぶって、頭を狙うと、ガラモノは放屁によって自らの位置をずらし、僕が武器を振るった反動を狙ってきた。けど突拍子な動きをすることは推測済み。
僕の手には【転移球】があった。
「甘いよ」
【転移球】でガラモノの頭上へと転移。鷹嘴鎚〔白熱せしヴァーレンタイト〕で頭をかち割る。
さらに目の前に腕を空振りさせたアビェジャナが現れる。その空振りした腕は僕が先ほどまでいた位置を狙っていた。
つまり、ガラモノの攻撃が当たるのを前提でアビェジャナは連携しようとしていたのだ。
【戻自在球】を目の前のそいつに当て、【煙球】に変化させる。煙が周囲を包むのと同時に、その煙に数匹のアビェジャナが飛び込んできた。そいつに続いて連携しようとでも思っていたのだろう。
その煙の中に、【蜘蛛巣球】を連投。煙が晴れると同時に身動きの取れなくなったアビェジャナが姿を現す。
「アルルカ!」
「私がやるの!」
僕と一緒に戦っていたアルルカが羨ましかったのか、妹を呼ぶ声に姉が呼応する。
「護衛は?」
「モココルたちで十分なの! 加勢するの!」
言って、匕首を飛ばす。
匕首〔ちゃっかりイチベエ〕、匕首〔どっぷりニヘエ〕、匕首〔どっきりサンベエ〕が一匹、匕首〔がっちりヨンベエ〕、匕首〔びっくりゴヘエ〕、匕首〔しっかりロクベエ〕が一匹、残りの四本がさらに一匹の急所を次々と狙い、きっちりと屠る。
「ルルルカはアルルカのフォローに」
姉妹のコンビネーションは抜群だろう。そう推測して僕は一人駆ける。
見晴らしがいい、とはいえ小さめの岩がところどころに落ちている。その岩にうつ伏せで隠れるガラモノの姿を見つけていた。
僕たちが周囲の敵を殲滅したところで不意打ちでもするつもりだったのかもしれない。
僕は【転移球】で背後に回り、鷹嘴鎚〔白熱せしヴァーレンタイト〕を振るう。
そこでガラモノは僕の姿に気づく。もう遅い。鷹嘴鎚の嘴が脳天を直撃し絶命する。
「こっちは終わったの!」
ルルルカが満面の笑みで近づいてくる。アルルカは控えめに姉の後ろにいる。
「ありがとう。とりあえずヴィヴィたちと合流しよう。怪我人が気になる」




