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tenth  作者: 大友 鎬
第7章 放浪の旅
152/874

飛空艇編-3 契約

 3


「どこに行っていたんだい?」

 ジョバンニの店に戻ると3人が僕を待っていた。

「ごめん。なんか変な男に会ってね。気をつけろ、と言われたんだ」

「気をつけろ、か……。いったい、何に?」

「分からないよ」

「気をつけることはたくさんあるの!」

 ルルルカが自信ありげに言う。

「だってレシュリーさんはランク5で[十本指]なの! それに私らも一緒にいるんだから、妬む人はいっぱいいるの!」

「姉さん、興奮しすぎだよ。ちょっと落ち着いて」

 誰かに狙われている、そういうシュチュエーションにルルルカは興奮しているらしい。

「でも、なんであれ気をつけるに越したことはない。そうだろう、レシュリー?」

「そうだね。でも目的は材料集めだからそっちを疎かにならないようにしよう」

「ところで最初はどこに行くつもりなんですか? ジョバンニさんに場所は聞いておきましたよ」

 手間を省いてくれたのか、アルルカが場所を書いたメモを渡してくる。

「ありがとう」

 受け取って、メモで場所を確認する。

 ニョイの伸縮材を持っているのは大怪獣の(モンストリオ)爪跡(シカトリス)にいる大聖猿セイテン(斉天)

 ハタラカの動力源を持っているのは世界の牙(カウリオドゥース):ガニスタ岬を住処とする機械生命体ハタラカ(尽働)

 ニャ・ニャ・ブレムブの皮はその名が示すとおり、ニャ・ニャ・ブレムブ(苔生醜魔物)の毛皮で、この魔物はユグドラ・シィルを囲うユグドラド大森林、アト山脈を囲うように北に延びるラトセルガの森のどちらかに息を潜めているという珍魔物(レアモンスター)

 クパーラの火の花はガーデット旧火山の今なお残るマグマの上に極稀に生えるといわれ、その近くには召喚されたままの悪魔が徘徊しているという噂がある。

 最後のモリア銀はウィンターズ島の特産品だが高値で、大量に手に入れるには北側を囲う、世界の目があるウィンターズ山脈のどこかにある隠れ銀山を見つける必要があるらしい。

 けど、とメモの内容は続く。

「私もその先に書いていることは正直驚きました」

 アルルカが苦笑する。理由も分からず読み進めると確かに苦笑せざるを得ない。

 そこには――

 ニョイの伸縮材以外はオークションに出回っているからこっちで競り落としておくよ。

 なにせ、全部集めようとしたら、三年以上かかるからね。

 そう書いてあった。

 やることが早いうえに、時間がかかりすぎたら僕が飛空挺を妥協しようとしていたことまで見抜かれていた。そうなったらジョバンニも手に入るはずだった収入を失うことになる。そうなると困るから、自発的に動いてくれているのだ。なんというか抜け目がない。

「まあ、それならそれでニョイの伸縮材の入手に全力をつくそう。それがオークションに出回ってないってことはかなり入手が難しいんだと思うよ」


 ***


「聞いていたな。あいつは大怪獣の爪跡に向かった」

 建物の裏手でレシュリーの話を聞いていたみずぼらしい男は、隣に控えていた男にそう伝える。

「腕試ししたかったんだろう? 金も渡した。十分な働きをしてくれよ」

「当然だ。金に見合った当然の働きはしてやる」

「だったら行け。すぐにでも。俺の人生を台無しにしたあいつを殺せ。あいつに加担するやつらもまとめてだ」

「当然だ、と言いたいところだが、ひとりでそれは当然だが荷が重いぞ」

「関係ない。金は払った。契約しただろう、雇い主は俺だ」

「お前が雇い主なのは当然のことだが、契約内容は当然ながら違う。対象はレシュリー・ライヴだけだったろう」

「黙れ。だったらお前はあの忌々しい男だけを、ひとりだけを狙うことができるのか」

「当然だ。私はそれができる。お前はそれが分かっていて私に接触してきたのではないのか」

「知るか。俺はただ強いやつを探していた。お前がランク6で金に困っているというから利用することに決めた。ただそれだけだ」

「そうか。なら私のことを知らなくて当然か」

 男は納得したように言いながらも、視線はレシュリーから外さない。

 行き先は分かっているがその間に仕留めるなら仕留めたいという胸中が彼にはあったが、雇い主には伝えない。

「それで当然のように話を戻すが、対象はレシュリー・ライヴだけでいいんだろう。それとも当然のように契約内容を変えて、他の連中も殺すのか? もちろん、それなら当然だが、契約金は人数分上乗せさせてもらうぞ」

「この守銭奴め。俺にそんな金があると思うか? 思っているのか? もういい。ならレシュリー・ライヴだけ狙え。あの忌々しい男だけを」

「当然、そうさせてもらう。それが最初の契約だからな」

 改めて契約を確認した男は角を曲がり、レシュリーの姿が消えたのを見計らって尾行を始めた。

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