飛空艇編-2 強化
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「もちろんですよ」
「なら、材料を言おう。集めてくる材料は5つ。ニョイの伸縮材を6本、ハタラカの動力源を20枚、ニャ・ニャ・ブレムブの皮を50個にクパーラの火の花を80個、モリア銀を1tだ」
「聞いたこともない材料ばっかりなの」
「それだけでも大変さが分かるだろう。とはいえ、それら全ての材料のありかは判明している。それでも作れないのは、強敵の材料だったり、強敵の住処だったりして、集めるのに苦戦するからなんだよ」
「じゃあ早速、一つ目の場所に向かおう」
「ちょっと待ったほうがいいよ、レシュリークン。キミはそのままの防具で向かうつもりか。さすがに命を落としかねないよ。今までは運が良かっただけと思ったほうがいいよ。防具の強化ぐらいはさせてほしいんだけどね」
「防具の強化……ですか」
「ああ、みんなだって見た目は変わらないが、強化しているんだよ、キミぐらいだ。強化をしていないのは……」
言われて周囲を見てみる。
「私はきちんとしてるの!」
ルルルカの言葉にヴィヴィまでも頷く。
「まあ、私の場合、これから強化しなおさなければならないが……」
ヴィヴィはそう付け足す。
「そういうわけでキミも強化していったほうがいい。防具の強化も僕に任せれば一時間もかからない。もちろん、料金は前金を貰ったからいいよ」
「じゃあ……お願いします」
ならついてきて、僕の工房へ行こう、とジョバンニは酒場を出る。僕たちは酒場の女主人に軽く挨拶して、寝たままのモココルを任せた。モッコスも残るらしい。
「と言ってもどのぐらい強化すればいいんでしょうか?」
歩きながら僕は尋ねる。
「ランク5だと〈整〉ぐらいがベストかな。もうちょっと強化してもいいけれど、身の丈に合った強化をしていないと盗られて痛い目に遭うこともあるからね」
「〈整〉と言われてもなんだかピンと来ませんよ」
「そりゃあそうだろうね。〈整〉とかそういうのは全部空中庭園で定義されて以来、こちらの言葉に直すことなく使っているから。簡単にいえば、〈整〉の強化段階は21段階あるうちの13番目かな。16番目までなら素材は分解で出た廃材が使えるから、お金さえ払えば、強化は簡単だね」
さ、入って。とジョバンニは古びた建物へと僕たちを招待した。
「さすがにボロくなってる……けどまだ防具強化ぐらいはできるから安心してよ」
さ、脱いで。ジョバンニに言われるがまま、僕は適温維持魔法付与外套や駝鳥の羽飾り、駝鳥の防護腕具、駝鳥の長靴を装備解除して手渡す。
アンダーウェア一枚になった僕に途端に寒さが襲いかかってくる。適温に保ってくれているせいで、肌で寒さを認識できていなかった。僕の身体はところどころに傷があった。いずれは消えるだろうが、癒術もそういう傷を一瞬で消してくれるわけでもない。
「キミの防具はまだ劣化していないみたいだ」
「劣化……ですか?」
「ああ、ヴィヴィサンだっけ? 彼女の防具は劣化している。長いこと、メンテをしてなかったかできなかったんだろう。手入れをしなきゃ防具は劣化する。もちろん、武器も。まあ武器は【収納】できるから、メンテ回数は少なくて済むけどね」
ついでに武器も見てあげよう、とジョバンニが言うので、僕は武器も手渡す。
「これで良し」
しばらくしてジョバンニは僕に鷹嘴鎚〔白熱せしヴァーレンタイト〕と適温維持魔法付与外套〈整〉を渡す。他の駝鳥の防具一式も〈整〉まで強化されていた。適温維持魔法付与外套の破れたところでさえ修復されていることには驚愕しかない。
「それじゃあ次はヴィヴィサンたちの番、と言いたいところだけどその前にレシュリークンは外に出ようか」
「?」
「彼女たちの下着姿を見たいのかい? そんなわけはないのだろう。だとしたら疑われすらしない場所にいるべきだよ。言っておくけど僕も役得だとは思ってないよ。彼女たちには予備装を渡すし、更衣室で装備解除してもらうからね」
「ちょっと待ってください。そんなものがあるなら、僕だって……」
「まあ、キミは男だし。いいじゃないか、そのぐらい」
ジョバンニはそう言ってウィンクをした。何がいいものか。僕にだってアエイウとは違って恥じらいはある。とはいえ、ヴィヴィたちの防具強化を手早くしてくためにも僕は早々と退出すべきだろう。
僕はため息をついて、適温維持魔法付与外套〈整〉だけを手早く装備して外に出た。
ヴィヴィにルルルカ、そしてアルルカ、三人の装備を強化するまで、それなりに時間がかかるだろう。
どこかで時間を潰そうか、とまだ完全に活気があるとは言いがたい通りを眺める。
それでもどこからかいい匂いが漂ってくる。それは臨時店舗というべき、通りに建てられた屋台だった。
みんなの分も買ってあげようと、その屋台に近づこうとすると
「レシュリー・ライヴさんですよね?」
みずぼらしい男から声がかかる。
死んだ魚のような目。ボサボサの髪に延びっぱなしの髭。どちらも整えた様子はない。
防具はきちんとしたようなものを装備しているように見えて、強化やメンテができていないのか、ところどころが解れたり壊れたりしていた。
あからさまに怪しい。
「……」
無言を貫いていると、
「警戒するのも当たり前ですね。では一言、気をつけてください」
そう言って男はニッと笑った。気持ち悪い笑い。殺意を押し殺しているかのような、そんな笑い。
笑った口元から欠けた歯を歯抜けの部分が見える。
「どういう意味だ……?」
尋ねた瞬間、男は姿を消す。
その後、僕は男を探すように少し通りを歩いた。けれどその男はまるで幻だったと言わんばかりに見つかることはなかった。




