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tenth  作者: 大友 鎬
第7章 放浪の旅
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飛空艇編-1 開発

 1


「どれにしようか」

 僕は酒場の一角でカタログを見ながら唸っていた。飛空挺がいるという話を聞いたアルルカがそれならと取り寄せてくれたものだ。

「これなんかいいんじゃないか」

 ヴィヴィが、高速飛空挺レッドソニックの赤いボディを指し示し言った。その隣にある汎用飛空挺グリーンソニックと比べると移動速度は三倍速い。一見、レッドソニックが後継機のように見えるけれど、詳細を見ればグリーンソニックより装甲が薄い。耐久力を犠牲にして速度を上げたそんな印象を受ける。

「ううん、これがいいと思うの!」

 ヴィヴィに対抗するようにルルルカが示したのは次のページにあるピンクのボディ。先端には目玉のようなものが描かれてあり、名前を見ると『ピンクドルフィン』と書かれている。なるほど、確かに名前の通り、ピンク色のイルカに見える。

 僕はふたりに板ばさみにされて、正直狭い。

「あたしはこれがいいんじゃないかと思います」

 向かい側から恐る恐るカタログに指を差したアルルカが選んでいたのは、黒いボディ。『スカルデスデビル』と命名されているそれは、一言でいうと怖い。

 一見おとなしそうに見えるアルルカがそういうのを選択するとは思いもよらず少し唖然とする。

「これがいいと思いますぞ」

 とアルルカの横のモッコスが指を差したのは……どうでもいいので無視する。というか昨日の酒が残っているのかまだ酒臭い。そういう意味では昨日酔っ払っていたルルルカから酒の匂いすらしないのはすごいことかもしれない。

 唯一おとなしいのはモココルで隣のテーブルで寝ていた。羊のような寝顔は、見つめていると僕まで寝てしまいそうだった。

 三者三様に勧めてくるけれど、カタログを見ていてもピンとこない。

 酒場のメニューをもらっても、何を食べたいのか分からない状態というか、あまり食べたいものがないという状態だろうか。

 これが飲み物だったらココア一択だろうに。

 酒場のメニューや飛空挺ならそうもいかないのが世の常だ。

「どれにするの?」

「いや、なかなか決めかねているんだよ」

「じゃあ、作ってみるっていうのはどうかな? レシュリークン」

 そう言って酒場を訪れたのはジョバンニだった。

「昨日は挨拶もせずに帰ったからね。ここにいてくれて良かったよ。伝えたいこともあったし」

「伝えたいこと?」

「そうそうアルとリアンは今日朝方旅立ったよ。挨拶していけって言ったんだけどね、一刻も早く旅立ちたいって感じだったから、僕が伝言役を買って出たって感じかな?」

「アルと、リアンが……旅を? そっか。それは嬉しい限りだ」

「さてと、で伝言を伝えたところで話は変わるけど飛空挺を作る気はないかな?」

「飛空挺を?」

「ああ、キミがそうやって悩んでいるのを見てね、決めてかねていると思ったんだけどどうかな?」

「けど飛空挺は作るより買うほうがお得だって聞いたことがあるの!」

「確かに。作るとなると、飛空挺には莫大な時間がかかる。けどそれは僕以外の人が作った場合かな」

「何が言いたいの?」

「僕は一晩で作るって有名なんだけど、知らないかな?」

「知らないの!」

「……はは。素直なキミは僕の苦手なタイプかもしれないかな?」

 ジョバンニはルルルカの素直な乾燥に苦笑いして、

「ともかく僕がいる以上、一晩で飛空挺を作ることが可能だ」

「……何か、目的があります……よね?」

「ははは、目的と来るんだね? そう、まあ目的はあるっちゃあるね」

 急にジョバンニの眼光が鋭くなる。

 その鋭い目線に思わず警戒。

 ルルルカは武器を取り出してまでいる。

「実は……お金がないんだよ」

 ジョバンニのその言葉に拍子抜けする。思わずルルルカがこける。

「まあ僕はご存知のとおり、つい最近まで封印の肉林に閉じ込められていたからね。けどその間、家賃やらは支払われ続けていたし、埃まみれの商売道具の一部も新調しなければならないんだ。だからちょっと大金が必要なんだ」

「つまり僕がジョバンニさんに飛空挺を依頼したら、簡単にそれが手に入る、とそういうことですか?」

「そういうこと。まあ一日で作るからと言って手抜きってわけでもない。そこいらの職人よりよっぽど上等なものが作れるさ。もっとも商売道具が新調できないから、前金ありきだけどね」

「分かりました。そういうことなら……」

「そういうの、簡単に決めていいんですか?」

 アルルカが言う。ジョバンニを疑っているわけではないが、僕を心配してのことだろう。

「アルルカは分かってないの!」

 するとルルルカが声を荒げる。

「だね。彼はこういう人だ」

 続いてヴィヴィが言う。セリフを取られたルルルカはちょっとだけムッとしてヴィヴィを睨むがヴィヴィは気にすらしていない。

 というか僕はどういう人だっていうんだ?

 ふたりを見やるもふたりは何も答えようともしない。

 こういうときだけ意気投合してるみたいで少し恐くなる。

「ジョバンニさん、前金1億イェンぐらあればいいですか?」

「……キミは金銭感覚が少しおかしいんじゃないかな?」

 少し唖然とするようにジョバンニは言う。

「けど、飛空挺って何億もするんじゃ?」

 カタログに書かれていた飛空挺は2億、3億は平然とする。

「それはそうだけれど、いきなりポンと出せる冒険者はそうそういないよ」

「ジョバンニさんは分かってないの!」

 またルルルカが言う。

「だね。彼はこういう人だ」

 ヴィヴィの言葉にアルルカも頷く。アルルカも僕がどういう人か気づいたらしい。

 酒場の女主人も頷いていた。

 昨日の飲み代に少し色をつけて払っておいたのだけれど、それで僕のことをいたく気に入ってくれていた。

「……なるほどね。ま、僕としても前金としてそれだけ貰えれば助かるには助かるかな」

 呆れたようにジョバンニが言う。

「それと決まれば最高の飛空挺を作るべきなの!」

 途端、ルルルカがそんなことを言い出した。

「それはやりがいがありそうかな。けど、材料集めも生半可なものじゃないよ。強敵だっている」

「それはむしろ好都合ですよ。経験値稼ぎにもうってつけです」

 言うとジョバンニは僕の頼もしさにだろうか、笑った。

「僕の知る限り最高の飛空挺はスキーズブラズニルだな。設計図はあるけど、作った人はいないと言われる最高難易度の飛空挺だ」

「そのスキーズブラズニルっていうのはどんな飛空挺なんですか?」

「最速、最堅なうえに、格納庫要らずだね。作れれば冒険が楽になること間違いなしだね。で、それを聞いてますます作りたくなった感じかな?」

「それはもう」

「改めてもう一度言うよ。その道は険しいけど、やるんだよね?」

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