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tenth  作者: 大友 鎬
第7章 放浪の旅
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聖女編-17 祝杯

17


 宿屋兼酒場に入ると

「遅いのれす!」

 酒を片手に待ち構えるルルルカがいた。銘柄は下品な蜜酒オーズレーリル・ヴュルギャリテ

 高級な蜜酒(オーズレーリル)を真似て作った大衆向けの安酒でアルコール濃度は低いのでガバガバ飲めるが、その手軽さのせいで、ルルルカのように簡単に泥酔者を作ってしまう。

 酒場ではとっくに宴会が始まっている。祝賀会とでも言うべきか。シッタあたりが先導したんだろう。

「遅せぇよ。もう始まってるぜ!」

 顔が赤いシッタが舌なめずりして席に誘う。

「先にヴィヴィを休ませてくるよ」

 言うとルルルカは僕に背負われたヴィヴィに気づき、少し羨ましげに憎らしげに一瞥して、途端に不機嫌になったように安酒を一気飲みした。

「早くそこの女を置いてくるの!」

 急かすルルルカに肩をすくめ、二階へあがる。

 間際、

「誰が宴会を始めたか分からないけど、今日は僕が奢るよ」

 言うと、全員が乾杯するようにコップを掲げた。

 代表のようにシッタが言う。

「そんなの当たり前だ!」

 僕は苦笑した。


 *** 


 借りていた部屋にヴィヴィを寝かせると

「無理をしてすまない……」

 と寝言が聞こえてきた。

「そんなことないよ」

 僕はヴィヴィの頭を撫でて、一階へと降りていく。


 ***


「ああ、やっと来たの。遅いのれす!」

「ごめん。ごめん。待たせたね」

「別に謝ってもらわなくていいのれす。たんまり飲ませてもらってるから、あとで泣いても知らないんやからね」

「うん。かなり酔ってるってことはなんとなく察したよ」

 僕はルルルカの千鳥足と回らない舌を見て、そう判断する。

「うおおおおおおおおっ!」、「バアアアアアアアアニング」、「ガハハハ」

 一方で三者三様の声が聞こえた。

 一瞥するとそこにはシッタ、レッドガン、モッコスの三人。前者はともかく後者ふたりはよく知らないのだけど、なんとなくアホな面子が揃ったという感じがする。

 三人は飲み比べに興じていた。後ろには割と信じられない量の空ボトルが積まれていた。

 ガリーとアンナポッカのふたりは隅でお酒を飲んでいた。僕と面識がないから断ったけれど誘いが断れなかった。そんな感じだ。

 とはいえふたりも出来上がっている。

 ガリーは「もう死のう」と鬱全開で呟き続けているしアンナポッカは「ニャハハハハハ★」と笑い上戸だった。まあガリーに関しては素面でもそんなことを言ってた気もする。

 僕はカウンターへと近づく。近くのテーブルではモココルが寝息を立ててよだれを垂らしていた。どことなく愛らしい表情だ。

 カウンターにいるのはフィスレとルルルカの妹アルルカだった。

 アルルカはお酒が飲めないのかホットミルクを飲んでいて、フィスレは自重するような性格なのか、アルコール濃度の少ないカクテルを飲んでいた。

「すみません。いただいています」

 姉のルルルカを一瞥して申し訳なさそうにアルルカは会釈をした。

「いや、遠慮しなくていいよ。キミたちのお陰で、この街が救われたわけだし」

 言って、席につくと見当たらないふたりを探す。

「ジョバンニさんと、アクジロウ……くんだったか、あのふたりなら先に帰ったよ」

 僕が誰を探しているのか気づいてフィスレが言う。

「アクジロウくんのほうは騒ぎたいと渋っていたが、ジョバンニさんはバルバトスさんだったか……が心配だったらしい」

「そっか。ならいいんだ。アクジロウはともかくジョバンニさんにはお礼をしたかったんだけど、日を改めるよ」

「それよりも、無事に終わったのはこの騒ぎを見れば分かるけど……誰か、ケガ人とはいたの?」

「ケガをしたのはアクジロウくんだけだ。それも焦って躓いてだ。死者はなし。アンナポッカさんとレッドガンくんがいたのは僥倖だったね」

「確かに。殲滅士のアンナポッカさんはともかくレッドガンさんの活躍もすごかったです。あれでランク1なんだから末恐ろしいです」

「……そりゃ、恐ろしいね」

 ネイレスみたいなものだ。ランクが低くてもレベルが高くて経験があれば圧倒的な力を見せることもある。

「なんにしろ、死者はなし、ってのは良かったよ」

 もちろんそれは無関係の人が、があって僕はパンパレコップコプキーナたちを殺しているから、実際には0じゃないのだけれど、それでも無関係の人が死ななくて済んだことに僕は安堵した。

「そういえば……レシュリーさんはこの後、ここに滞在するんですか?」

「しばらくはね。まだ、墓参りにも行ってないし」

 それに、ポケットに入ったままの装置をどう破壊するかも決めかねている。

「その後はまあ、空中庭園にでも行こうかなって思ってる」

「でしたらあたしたちもお供してもいいですか?」

「それは別にいいけど、……けどなんで?」

「いや……ただ姉さんが喜ぶだけですけど……」

「まあ、なんで喜ぶかは分からないけど、まあついてくるのは自由なんじゃないかな?」

「本当ですか、ありがとうございます」

 アルルカが嬉しそうに微笑む。

「ところでレシュリーくん。キミは飛空艇を持っているのかい?」

「言われてみれば持ってないですね……」

「じゃあそれを買うか、作るところから始めないとな」

 言ってフィスレがカクテルの飲む。少しだけ頬を赤くして、まどろむような表情のフィスレはいつもの凛々しい姿と違って、どこか色気があった。

「確かに。じゃあまずは飛空艇作り、だね」

 そう言って僕はカウンター近くの窓から、東方の高き空を見上げた。

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