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tenth  作者: 大友 鎬
第7章 放浪の旅
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聖女編-15 儀式

 15


 打つ手がないまま、時間だけが過ぎていく。

 焦りを感じないわけではないけれどこういう場面は何度も体験したはずだ。

 鷹嘴鎚〔白熱せしヴァーレンタイト〕でガイラスの攻撃を弾く。

 ガイラスは身体が溶けているにも関わらず、獣の呼吸で化け物じみた動きを見せていた。

 瞬間、声がした。大きな声。

「まだだっ!」

 見ればアベンタがアルを空中へと弾き飛ばしていた。

 けれどアルにはどことなく余裕が見てとれた。

「まだだっ!」

 アルは言う。そして放たれる技。思わず見とれてしまう。アベンタが倒れていた。

「余所見してんじゃねぇーぞ」

 僕は我に返る。

 ガイラスの攻撃を慌てて鷹嘴鎚〔白熱せしヴァーレンタイト〕で防ぐ。

 けれど反応が遅れる。

 また適温維持魔法付与外套が破れた。このクソ野郎。

 怒りの感情が蠢くのに、なぜか僕は冷静になった。

 これ以上、アリーとの思い出を穢されたくない。

 そんな嫉妬にも似た感情で僕は妙案を思いつく。

 【転移球】を投げて転移する。

「だから無駄だっての」

 転移先にガイラスはいた。分かりきっていたことだ。

 ヴィヴィをチラリと見る。苦戦してそうだけれど、なんとかなりそうだ。

 それどころかヘレリエットを空中に打ち上げていた。

 仕掛けるなら今か。

 アルをちらりを見る。

 地面に膝をついていた。さっき使っていた技は思わず見とれてしまうほどの繊細さがあったけれど、威力もケタ違いだった。

 体力疲労も伊達じゃないんだろう。

「アル、もうひと踏ん張りだ」

 それでも僕は言う。アルは苦笑する。それだけでアルに伝わったかは不安だけれど、僕が何かをしそうだ、というのは察してくれたはずだ。

 僕は【転移球】で転移する。

「学習しねえやつだな……」

 呆れたようにガイラスは言って、直後僕が左手で持っていた【転移球】に硬直する。

「てめぇ……」

 ガイラスもまた僕が〈双腕〉であることを知らない。

 【転移球】を使った僕が尋常ならざる速度で【転移球】を作り出した、とでも思っているのだろう。

 僕はただ、【転移球】をふたつ同時に作ってそのうちのひとつを使っただけなのに。

 ガイラスは単純なトリックにも気づけずにいた。

 僕は転移する瞬間にガイラス目がけて【転移球】を投げていた。

 転移対象に触れていたものは一緒に転移する。だから僕は早めに投げる。

 それは強制転移させられるガイラスが僕を触らないように、という目的もあった。

 【転移球】の特性を知るガイラスなら僕を巻き込むことも十分に考えられたからだ。

 僕の思惑通りガイラスは転移される。瞬間、手が伸ばされたが僕には届くことはなかった。

 転移先はアルの前。

 不十分ながら意志の疎通をしていたこともあり、

「人遣いが荒いですよ」

 アルはまた苦笑した。

「今日のヒーローはキミだろ、アル」

 僕は言ってやる。

 アルはもう何も言わなかった。

「全力で吹き飛ばせ!」

 僕の指示通りアルの斬撃が飛ぶ。【烈衝波(ハイブラスト)】だ。

 剣から飛んだ衝撃波はガイラスを吹き飛ばし、さらにヴィヴィの攻撃を受けたヘレリエットを巻き込み、儀式をしていたパンパレコップコプキーナへとぶつかる。

 儀式が中断される。

 なんとか計算通りになったことに僕は笑う。

「キミはリアンを。僕はヴィヴィのところに行くよ。無理させちゃったみたいだから」

「分かりました」

 アルがリアンへと駆けていく。

「ごめんね、ヴィヴィ」

 僕はヴィヴィを背負う。

 高ランクの技能を覚えていたのには驚いたけれど、姉を助けようとしていたヴィヴィのことだ、キムナルに勝つには必要だと思ったのだろう。

 そう思えば、その選択は冒険者としてやっていくには愚かだけれど、こうして強敵を倒したのだから責めるに責めれない。

「リアンも無事です」

 言ってアルはリアンを背負って、台座を中心とした円――魔方陣から離れる。

 リアンはアルが持ってきていたローブに身を包んでいた。用意周到だ。

「……アル、後ろ!」

 脱出を促そうとした矢先、アルの背後に立ち上がる影があった。

 パンパレコップコプキーナだ。蠟板形書剣〔鼓を打つ舌マントレイア〕を振り上げる。

 アルは慌てて振り返り、その姿を確認。

 リアンを片手で支え剣を取り出そうとしたその瞬間、パンパレコップコプキーナは自分の胸を突き刺した。

「あー、儀式は失敗だと思っていますね。それは違います」

 パンパレコップコプキーナは笑う。

「あー、神の、神のしもべ……ケルベロス(三首邪犬)よ! 私たちの命を使い、復活してください」

 パンパレコップコプキーナの望みを叶えるように

 台座を囲っていた円が輝き出す。

「聖女の血が必要じゃなかったのか……」

 アルが驚く。僕だって驚いている。

「あー……私とて……一介の聖人ですよ? 陳腐でも神父ですから。もっとも、グレードは下がってしまいますがね……さあ、絶望しなさい!」

 神父たるパンパレコップコプキーナは血を吐き、崩れ落ちた。

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