聖女編-11 超必
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鬼気迫る一撃に危機迫ったアベンタは本能から、一歩さがった。
直後、アベンタのいた場所に【重剣】が落ちる。
アベンタはもしあのまま突っ込んでいたらと冷や汗をかき、次の手に備えて、癒術を詠唱。
アルは避けられたことを悔しがりもせず、そのままアベンタへと突っ込む。
それを読んでいたアベンタが展開したのは【防御壁】。
アルの真正面に展開し、避けられても、実はその斜め後ろあたりには最初にアルがぶつけた【防御壁】が放置したままになっている。
二重の罠。
しかし、アルは【鎧通】によって正面の【防御壁】を強引に破壊、そのままアベンタに迫る。
「それも分かってたよぉ」
アベンタはだからこそ冷静にアルへと向かっていく。
アルはまだ突き出した剣の勢いが止まっていない。その隙を狙うつもりだった。
けれどアルは【収納】によって屠殺刀〔果敢なる親友アーネック〕と刀剣〔優雅なるレベリアス〕を交換して強引にその隙をなくす。
その手法は狩士が使うことはあるが、ひとつの剣で戦うことが多い剣士系ではあまり使わない手法だ。だから使わないだろう。
高位な冒険者ほど、そういう固定概念にとらわれやすい。
それにそれを知っていても、使うにはそれなりの経験と技術が必要だった。
だからこそその手法を使わないだろうと、高をくくり、無警戒だったアベンタを誰が責められようか。
ゆえにアルと激突することになったアベンタはそれでも動揺を最小限にとどめ、暗黒の剣でアルへと斬りかかる。
瞬間、アルの姿が消えた。
新月流などの流派がある剣技は、かつて空中庭園からもたらされたものだ。
ゆえに、その多くが庭名と呼ばれる空中庭園の独自の名前がつけられている。
つまり、仮に大陸の人間が、流派を作り出した。もしくは流派の新スキルを開発した場合、大陸の言語でスキル名がつけられることになる。
アルの姿が消えたのは、アルが新月流の新技能を使ったからだった。
レシュリーのように、球を自ら作り出したわけではない。
それは鍛錬に次ぐ鍛錬により、その流派が使用者自体を正式な継承者と認めた証として閃くのだ。
皆伝とは違う。アルは新月流のすべてを極めたわけではない。それでも、流派が、技自体が、アルを主と認めた証でもあった。
それはアルの師匠バルバトスでさえも、到達できなかった領域。
とはいえ、バルバトスは途中で鍛冶屋になったので無理もないが、それでも流派の継承者になるのは剣士のごく一部だ。もちろん、継承者でなくても技を教えることはできるので不都合はないが、継承者が増えなければその流派の新技能も増えることはない。
簡潔に言えば、アルは新月流の新技能を作ることを認められ、それを今まさに作り出していた。
それはアベンタから見れば低位の冒険者であるアルの起死回生の一手。
消えたアルはアベンタの背後に現れる。
アベンタが振り返る暇もなく、アベンタの身体から流血。
アルは再び姿を消し、今度はアベンタの真上に現れた。
手に握る剣は、先ほど持っていた刀剣〔優雅なるレベリアス〕ではなく、屠殺刀〔果敢なる親友アーネック〕。
「行くぞ、アーネック!」
親友の名を刻んだ剣を振り下ろす。
数字の4のように軌道で移動し、アネクとアル両者の得意な動きを取り入れた新技能。
名を【新月流・壊軌月蝕】。
他の新月流と同じく庭名を使うのであれば、それは
【新月流・壊軌月蝕】と言うべきだろう。
だが大陸生まれのアルが作り出したのだから、やはりこう読むべきだ。
【新月流・壊軌月蝕】と。
「まだだっ!」
それでもアベンタにも意地がある。ランク6という意地が。
最初に刻まれた傷の痛みを堪え、アベンタは振り下ろされた屠殺刀〔果敢なる親友アーネック〕を魔充剣フレデリカで防ぐ。
けれど魔充剣フレデリカはその威力に耐えれず真っ二つに折れる。が、それでもアルを弾き飛ばすに至る。壊れ際の一撃だった。
その一撃に虚空へと弾き飛ばされたアルだったが、にやりと笑う。
「まだだっ!」
まだ、新月流は終わらない。アルの技はまだ続く。
屠殺刀〔果敢なる親友アーネック〕を再び振り降ろす。
今度は斬撃も、アルの姿さえも見えなかった。
アベンタは気がつけば、左肩から右脇へと斬られていた。
それだけではない、一瞬、いやそれよりも短い刹那の時間を経て、
アルはアベンタの後ろへと移動していた。手に握るのは刀剣〔優雅なるレベリアス〕。アベンタは腹を切断されていた。
断末魔すら叫べずアベンタはその場に崩れる。
【新月流・壊軌月蝕】が4の軌道を描くなら、この技は逆L字の軌道を描く。
【新月流・壊軌月蝕】を防がれた際の追撃。伝承者に認められたアルと新月流との相性が合いすぎた奇跡。いや軌跡が生んだ技とでも言うべきだろうか。
【新月流・壊軌月蝕】に続く、その技能の名は、
【新月流“追撃の太刀”・壊軌日蝕】。




