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tenth  作者: 大友 鎬
第7章 放浪の旅
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聖女編-10 懐友


 10


 わずかに時は戻る。


 ***


「アル……っ!」

 アルの踏みつけられた姿に僕は焦り、そちらに向かおうとするけれど、

「言ったろ。行かせねぇさ」

 ガイラスがゾンビ顔で進路を阻む。攻めることをやめ、守ることに特化するつもりらしい。

「それなら、これだっ!」

 【転移球】で僕は転移する。アルの近くに、だ。

「だから、意味ねぇよ」

 瞬間、ガイラスがいた。

 再び、転移。

「それも読んでいたよ」

 アルに近寄れないなら、リアンを救出しようとしていた僕の考えは読まれていた。

「【転移球】は一瞬だけ、転移先を教えてくれるんだ。そんなことも知らなかったのか。ま、それでもノロマは追いつけねぇけどさ」

 ガイラスはノロマじゃない、ということか。

 僕は舌を打つ。

 おそらく【獣呼吸ビースト・ブリージング】で素早い獣の呼吸をすることで、超速を手に入れているのだろう。

 【転移球】も通用しないとなると、もう僕がガイラスを倒すしかない。

 アルが頑張って、アベンタを倒すことを期待しているけれど、今のアルはリアンを守れなかったことが負い目になって、実力が出せずにいる。

 僕がアベンタをアルに頼んだのは、自信を取り戻してほしかったからだけれど、荷が重かったのだろうか。

 これでアルがやられてしまったら、僕はまた後悔する。

 そうしないためにも、僕はすぐにでもガイラスを倒す必要があった。

 ヴィヴィを横目に見るとヴィヴィもまた苦戦しているようだった。

 「そのまま死ねよぉ」

 声に反応すればアルの背中に魔充剣が突き刺さっていた。


 ***


 間際――声が聞こえた。

 諦めてんじゃねぇぞ、と。それは懐かしい声だった。

 瞬間、アルは動いた。

 突き刺さるはずだった魔充剣フレデリカはアルの身体に突き刺さることはなかった。

【新月流・満月の(まもり)

 それはアルの精神力を大幅に削る代わりに、たった一度だけ攻撃を防ぐ、新月流の奥の手。伝授される弟子さえ少ないその技をアルはバルバトスから教えられていた。

 リアンを守るというその意志に、バルバトスが根負けした形で。

 その奥の手を知らないアベンタに戸惑いが浮かぶ。

 アルはその隙をついて、脱出する。

 体勢を整えたアルは刀剣〔優雅なるレベリアス〕を【収納】し、屠殺刀〔果敢なる親友アーネック〕を取り出した。

(すまないな、アネク。俺は諦めかけた)

 アルは胸中で目の前の親友に謝る。

(俺は弱い。だから、力を貸せよ、親友っ!!)

 屠殺刀〔果敢なる親友アーネック〕を力強く握る。

 ――当たり前なこと、言ってんじゃねぇーよ。

 アネクがそう言っているような気がした。

 アルは走り出す。アネクのお陰でアルは冷静になっていた。

 今なら、ぶつかった何かが何であるかよく分かる。

 それは攻撃性の強い癒術士がよくやる手段だった。

 ようするに【防御壁】系統の癒術で透明の壁を作ったのだろう。

 さらに、魔法剣を使えることから、アルは相手が聖法剣士だと見抜く。

 聖法剣士は、低位の癒術が使用でき、さらに低位の癒術と魔法を魔法剣に宿すことができた。

 【新月流・有明の撃】を受け止めたのは【硬化】か【防御壁】を宿したのだろう。

「ひっひ、なんだぁ? 途端にやる気かよぉ!」

 そう言ってアベンタもアルへと襲いかかる。

 魔充剣フレデリカに宿されたのは攻撃魔法ランク1【宵闇(ソワール・ソンブル)】。黒い靄のようなものに覆われたその剣はいわば暗黒剣。

 聖法剣士の名に反するような黒色の剣は、アベンタのお気に入りだった。

「死ねよっ!」

 太刀筋と一緒にたなびく闇のオーラが、まがまがしさを増幅していた。当然、威力もだ。

 【宵闇】の魔法剣はアベンタの得意技。この魔法剣で幾度となく修羅場をかいくぐってきた。

 高位の冒険者であればこそ、長年使うことで熟練した域まで到達した技がある。アベンタにとっては【宵闇】だ。

 たかだか、ランク1の魔法剣だと侮ってはいけない。その魔法剣はアベンタの冒険者人生の全てが詰まっていた。

 当然、アルも油断はしていない。

 けれど、恐怖もなかった。格上の相手であることも忘れて、師匠の仇であることも忘れて、ただ思うことはひとつ。

 親友とともに、リアンを守る。

 それだけだ。

 アルがアベンタの目前で跳ぶ。

 それはかつてアネクが得意としていた技。

 【重剣】。

 落下の勢いすらも力に変え、アルはアネクのように屠殺刀を振り下ろす。


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