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tenth  作者: 大友 鎬
第7章 放浪の旅
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聖女編-8 呼吸



「お前っ……」

「気づいたか? 俺は吸体士さ」

 吸体士はメインが癒術士、サブが盗士の複合職だ。

 その技能、吸体は呼吸によって効果を発生させる。

 今使ったのは【命吸法(ライフ・ブリージング)】だろう。

 独特な呼吸法により、体内の魔力を消費して自身の傷を癒し続ける。

 呼吸を続けている間、その治癒力は続く。

「さて、一気に畳みかけてやる。お前がこのなかで一番強ぇみたいだからな」

 ガイラスが走って跳躍。

 両手と頭を突き出し、僕に飛び乗る。 

 僕を突き倒すと、虎爪を腕に食い込ませ、そのまま僕の首筋へと噛みつ……かせない。

 強烈な頭突きを食らわせる。

「ぐほっ!」

 腹を蹴飛ばして虎爪ごと、吹き飛ばす。

「てめぇ」

 ガイラスが笑う。それは嬉しくてか、それとも楽しくてか。

 ガイラスは戦闘狂なのかもしれない。

 ガイラスは再び突っ込んでくる。呼吸を繰り返している限り、傷は癒え続ける。

 僕はガイラスに向けて【速球】を放る。

 鈍い音。ガイラスは直撃を食らって骨が折れても、呼吸を整え前進してくる。

 ガイラスはその圧倒的な持久力で僕と勝負するつもりだった。

「根競べだ」

 【肉体再生】が一気に回復するのと比べて、【命吸法】は呼吸に合わせて傷を回復する。そのぶん、【肉体再生】よりも精神力の消費が少なく、それを加味した回復力は【肉体再生】よりも長い。

 僕は再び【速球】を投げる。

「大したことねぇ、大したことねぇよ。お前はさ」

 ガイラスが加速する。同時に僕も【速球】を放る速さを、そして数を増やしていく。

 ガゴ、バギ、ガゴ、バキと鈍い音がまるで何かの曲のように音を紡いでいく。

 けれどガイラスはそのまま猛進していく。

 僕へと突撃する寸前、僕が放った球でガイラスの身体が溶け出す。

「なんなんだ、これはさ……」

「お前もユーゴックと同じだ」

「なんだと!?」

「回復力任せ、回復いらずで戦いたいがために回復細胞を増やした結果だよ、それは。回復細胞が叛乱したんだ」

 考えれば単純なことだった。ガイラスの回復力は吸体士としても異常すぎたのだ。

 ガイラスの身体が溶けていく。

 そこでガイラスは呼吸を変えた。というか元に戻した。僕たちがしているような普通の呼吸に。同時に溶けるのが止まる。

 ガイラスは【命吸法】をやめることで無理やりに回復細胞の増殖を止めた。

 けれど代償は大きい。ガイラスの溶けた部分は修復することなく、ゾンビのようになっていた。

 それでもガイラスは僕へと虎爪を突き刺し、引っ掻いた。

 溶かした時点で、ほとんど勝てた気になり油断していた。三本の引っ掻き傷が僕の身体へと刻まれていく。

 適温維持魔法付与外套が裂けていく感触に僕は憎しみにも近い怒りを感じていた。

 この外套は僕と、アリーが一発逆転の島で一緒に包まった思い出の外套だった。

 絶対に許さない。

「てめぇはやっぱり強ぇよ。こんなザマじゃ俺はてめぇに勝てねぇだろうさ、だからさ、方針を変える。俺はてめぇに負けないようにするさ」 

 その意味はすぐに分かった。ガイラスが横目で、周囲の状況を窺っていたからだ。

 そして言葉も意味も理解した。時間稼ぎをするつもりだろう。僕の仲間が苦戦しているから。

 そこには――顔を踏まれたアルの姿があった。

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