聖女編-7 教徒
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瞬間、廃教会の屋根が崩れ落ちる。
そこから落ちてきたのはふたりの男。
「ひひっ、プキーナちん、お久しぶりぃ!」
「あー、あなたたちはまさかっ! 出てこれたのですかっ!?」
「おうさ、出てこれないと諦めちまってた。でもさ、世界改変が出口を作ってくれたんさ」
「あー、これはこれは感動ですね。神は私たちに味方しているようです。ガイラスにアベンタ、よろしく頼みますよ。ついでにヘレリエットも」
「司祭、ついでとかやめてくださいよ、司祭!」
「ひひっ、ヘレリエットはザコだからついででいーんだよ」
「とりあえず司祭はさ、儀式をよろしく頼むさ。おれたちはさっさとこいつらを倒すぞ」
そう言ってガイラスとアベンタはアルへと向かっていく。
「お前らは何者なんだ!?」
「何者? 邪教徒に決まってるさ。最近まで脱出できなかったがな。知ってるか、世界改変のおかげで、良くも悪くもランク6が大勢世界へと解き放たれたことをさ」
「何を言っている!?」
そう言いながら、ジョバンニさんのことを思いだす。彼も何か言っていたはずだ。
「ひひっ、封印の肉林は入ったらクリアするまで出られない試練だったんだけどねぇ、それが今回の世界改変で出れるようになったんだよ」
「そういうことさ。つまりそこに入って出れなかったやつらが、久々の外を満喫している。おれたちも理由あって封印の肉林に挑んだのが運のつき。クリアできず出れずにいたのさ」
「ひひっ、でも出れたからプキーナちんの気配を探ってここに来たんだよ」
「儀式の真っ最中だとは思わなかったけどさ、まあ悲願達成のためなら、邪魔者は消すしかないだろうさ」
交互に言いながら、ふたりはアルへと攻撃を繰り出していた。
一撃目、二撃目を避けたアルだが、その回避を読んでいたガイラスが首筋へと噛みつこうとしていた。予想外の攻撃だが、
「助かりました」
僕の投げた【転移球】で回避させる。
「どうする?」
「ヴィヴィはヘレリエット、僕がガイラスをやる。アルはちょっときついかもけどアベンタを頼む」
ふたりは無言で頷き、それぞれの相手に向かっていく。
ヘレリエットのランクは不明だが、僕たちよりも格下だろう。問題はガイラスとアベンタだ。
ランク6に太刀打ちできなければ僕たちの負けだ。
しかも儀式が終わるまでというタイムリミットつき。おそらく彼らの攻撃の隙をついて司祭を攻撃するのは難しいだろう。
***
「ははっ、てめぇがちらっと噂に聞く投球士か。チョーシに乗ってるらしいな」
「勝手に周りがそう思ってるだけじゃない?」
「それがチョーシに乗ってるっていうのさ。儀式を邪魔してなくてもてめぇはブッコロシ確定だな」
僕は距離を取るように【毒霧球】を放る。
「あまっちょろいさ」
ガイラスはそのまま突っ込んできた。口に加えているのは解毒薬。
毒霧を吸い込んだ瞬間に噛み砕き、一瞬にして解毒。
怯みもしない。
「はっはー」
ガイラスは笑い、虎爪を嵌めた両手を突き出してきた。
右手に嵌めた虎爪〔背くレジデガ〕が頬を掠る。追撃の左手、虎爪〔逆らいザンギャ〕が顎を狙ってきた。
なんとか避けたと思ったのも束の間、近すぎるほどに密着していくるガイラス。これでは攻撃できないんじゃないかと疑問に感じた瞬間、先ほど、アルに使った攻撃を思い出す。
噛みつき。
ガイラスが頭を突き出し、口を開いたのと僕が蹴飛ばしたのはほぼ同時だった。
ガヂィン!
口が閉じられた瞬間に金属がかち合ったときのような音が響く。
「一度見てなかったら避けれなかった……と思っただろう。お見通しさ」
その通りだった。
ガイラスは笑って、入れ歯のように取ってそれを見せ付ける。
よだれまみれのそれはふたつの虎爪を上下に合わせ、口にはまるサイズに調整した歯用虎爪。
ガイラスは歯用虎爪〔歯向かいギヂン〕を入れた口を何度も動かし、僕に見せつける。ひやりとした恐怖を増幅させるように。
並の冒険者ならそれだけで逃げ出すかもしれない。
でも僕はもう違う……はずだ。
それに僕はランク5になった。アルやヴィヴィたちの支えにならなければならない。
僕が弱気になることも弱音を吐くことも許されなかった。
僕は【火炎球】を放ち、走り出す。【収納】で鷹嘴鎚〔白熱せしヴァーレンタイト〕を取り出す。
避けることもせず、ガイラスは【火炎球】にぶつかる。
「スゥー、スイゥウー」
火傷を負ったガイラスは呼吸を変える。変な呼吸だった。
でもそれだけで火傷による負傷が治療されていく。




