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tenth  作者: 大友 鎬
第7章 放浪の旅
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聖女編-6 司祭


 6


「司祭。儀式の準備ができましたよ、司祭」

「あー、ヘレリエット。今更かもしれないけれど司祭という言葉は禁止だよ。あー、いやここまで来てそれは野暮というものかもしれないね」

「司祭、その通りですよ、司祭」

「あー、ヘレリエット。一応、そこは否定しておきたまえ。あー、私はこれでもキミの上司なんだよ」

「司祭、そんなことより、儀式を始めましょう」

「あー、ヘレリエット。キミはいつからそんな……、あー、まあいいでしょう。ともかく儀式を始めましよう」

 あきれ返って司祭と呼ばれた男はヘレリエットに合図を送る。

 ヘレリエットは気絶している女を白い長方形の台座に乗せる。

 寝台のようなそこに乗せられた少女は――リアンだった。

 リアンの衣服は破かれ、白い柔肌が露出していた。気絶はしているが起きたら面倒とでも考えたのか、四肢には手錠を、首には首輪を嵌められ、口は布製のテープで止められていた。

「あー、それでもヘレリエット。姫様の血肉を捧げ。ついに、復活させますよ」

 ヘレリエットは無言で頷く。

「主、フェンリル(魔飢餓狼)よ。我、パンパレコップコプキーナ・パレンコフスキーは誓いを立てる」

「ブフッ……」

 途端、笑い声。

 司祭ことパンパレコップコプキーナの流暢な言葉がそこで止まる。

「司祭、司祭の名前ってそんなへんてこなんですね、司祭」

「あー、黙りたまえ。名前を侮辱したことは大目に見てあげます。あーともかく笑い声をやめなさい。ヘレリエット。儀式が進みません」

 パンパレコップコプキーナとヘレリオットはユグドラ・シィルにそびえる世界樹。その地中に拘束されていると云われるフェンリルを復活させようとしていた。

 パンパレコップコプキーナとヘレリオットを中心とした血盟会はフェンリルを崇拝する邪教だった。

 現在の血盟会の信徒はパンパレコップコプキーナとヘレリオットだけになっていた。

 なぜならアルを倒したときにいた血盟会の信徒はすでに死んでいた。

 リアンを寝かせた台座を中心として円が描かれ、その円を囲うように等間隔に串刺しにされていた。

 いや、訂正すべきだろう。自ら串刺しになっていた。それこそが信徒の望みだった。そそり立つ鋭く尖った棒に、心臓を突き刺し、まるで生贄のように、己が命を捧げていた。

 全員の表情が喜びに満ち満ちていた。

 悲観などしてはいない。フェンリルの血肉となるのだから。

「あーでは気を取り直して、もう一度、初めから」

 ヘレリオットの笑いが収まるのを待ってから、パンパレコップコプキーナは儀式を再開させる。

 しかしそれが仇となった。

「リアンを返してもらう」

 声が響き、古びた扉が勢いよく開く。

 パンパレコップコプキーナが見やる視線の先、そこにはアルフォードがいた。

「あー、諦めの悪い方ですねえ。あーあなたもゴブリンの犠牲になってもらおうと生かしておいたのに、こんなところまで来るとは……まあ、想定内でしたよ? あー、忘れていませんか、こちらには人質がいるのですよ」

 その言葉を無視し、アルフォードは叫ぶ。

「リアンに何をした!」

 アルフォード――アルはパンパレコップコプキーナの後ろにいる拘束されたリアンを見て激怒していた。

「あー、まだ何もしてませんよ。あー、まあ、これから彼女の血肉はフェンリルに捧げられるのですが」

「させない! そんなことは絶対にさせないっ!」

「あー、だから忘れていませんか。こちらには人質が……」


 ***


「いないよ」

 僕は、司祭の言葉に合わせてそう呟いた。

「あー、だれですか、あなたがたは?」

「彼の助っ人かな」

 アルを指して言う。

「あー、しかしです。どうやって、人質を?」

「司祭、もしかして教会の裏手に作っておいた逃走用の隠し階段。あれが見つかったとかじゃないですか。司祭」

「そいつの言う通りだ。もうちょっとうまく隠さなきゃ簡単に見つかるよ」

 僕たちは裏から侵入しようとして、地下階段を見つけた。

 罠かと思ったけれど、階段を降りたさきにあったレバーが「開」のほうへ傾いていて少し呆れてしまったのはつい先ほどの話だ。

「あー、人質を捕らえるときに使った傭兵はどうしたのですか?」

「そんなのいなかったけど?」

 僕は正直にそう答える。

 階段を降りた先には人質が捕まっていて、他には誰もいなかった。だから僕たちは何の脅威もなく解放できたのだ。

 理解ができない目の前の司祭は僕が嘘を吐いているのか疑っているのか怪訝な目をしていた。

「司祭、傭兵なら人質捕まえた後賃金渋ったら帰りましたけど、司祭」

 途端、司祭の隣の男のつぶやきで司祭の疑問は氷解するが、男の行動が理解できず唖然としてしまう。

「あー、ヘレリエット。あー、なぜ渋ったのですか」

「司祭、考えてもみてください。傭兵に真っ当に賃金払っていたら儀式が成功したあとの祝賀パーティーで、お肉を食べれないじゃないですか、司祭」

「あー、ヘレリエット。なんということを……」

 なんだろう、このふたり。もしかしてバカなのか?

「アル。とっととやってしまいなよ」

 僕はアルに攻撃を促す。アルは同意して、司祭へと走っていく。

「司祭、とっとと儀式進めちゃってください。ここは足止めしときますんで、司祭」

 そう叫んで、自らの容貌を変化させる。龍にも似た鱗で覆われていくヘレリエット。口から出した舌は長くなり、二つに割れる。

「キィシャアアアアアアア!!」

 リザードマン(蜥蜴男)へと変化した獣化士ヘレリエットがアルへと向かっていく。

「レシュ」

 言ってヴィヴィが走り出す。

「分かってるよ」

 僕も援護しようと動き出した。

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