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tenth  作者: 大友 鎬
第7章 放浪の旅
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聖女編-5 奮戦


 5


「さーてそれじゃあ行くの!」

 ルルルカの呼応に全員が頷く。

「まさか、兄貴の墓参りに来てこんな目に遭うとはね★」

 ★をつけずにはいられないアンナポッカ・キラリはぼそりと呟いた。アンナポッカは兄貴テテポーラの墓参りをしにユグドラ・シィルに来ていた。そうして、帰ろうと思った矢先にゴブリンの群れが押し寄せていることを知ったのだった。

 こういうときこそ殲滅士である自分の出番★と意気込み、手伝うことにしたのだが、大量のゴブリンを見て少し怖気づいた。ランクは3。ゴブリンは原点回帰の島や新人の宴といった場所にも出現し、冒険者が割と早めに戦う魔物だが、原点回帰の島の魔物は大陸と比べると若干弱い。だからいくら戦いなれているとはいえ油断はできない。それに数が違う。百や二百なんて数じゃない。大丈夫なのかと少し不安になるも無理はなかった。

「ケケケ、自殺したくなるような状況ですね。むしろ死のう。今すぐ死のう」

 アンナポッカと行動をともにする自称死にたがりやのガリー・ガリィは悲観的に呟いた。

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ! 燃えてきたあああああああああああああああああああ!!」

 その一方で、ゴブリンの大群が押し寄せるという、なかなか遭遇しえない状況に歓喜して、闘魂と書かれた鉢巻を巻いたレッドガン・バーニングスは大声で叫ぶ。

「うるせぇ――って、うおおおおおおぉおおぉぉ! いきなり飛び降りるんじゃねぇよ、フィスレえええ」

「いいから行くぞ」

 レッドガンを非難しようとしたシッタはフィスレに引っ張られて、高台から落ちていく。

「私たちも行くの!」

 ルルルカ、アルルカ、モココル、モッコスが一斉に飛び出し、アンナポッカ、ガリー、レッドガンと続く。

「うげ」

 着地に失敗したシッタを尻目に、きちんと着地したフィスレは刀剣〔超合金の魔人ガゼット〕を抜き、ゴブリンへと切りかかる。

 フィスレに遅れて立ち上がったシッタは舌なめずりをして、短剣〔蠅取りショーイチ〕を引き抜く。

 準備運動のように回し蹴りをゴブリンに放ち、フィスレの横に並び立つ。

「畳みかけるぜ」

 シッタが呟くとフィスレは頷き、シッタが動くと、それに合わせてフィスレが動き、襲いかかってくるゴブリンを蹴散らしていく。見事な連携だった。

「行っくよ~★」

 目の中に★を煌かせアンナポッカは隕石の魔樹杖〔星好きテテポーラ〕を振りかざす。放たれたのは殲滅技能【火の小玉(ボールズファイア)】。

 アンナポッカの職業は殲滅士。その特徴を簡潔に言えば、莫大な精神力と引き換えに詠唱なしでランク7以上の攻撃魔法に即死効果を追加して放てる、とでもいうべきだろう。強力すぎるように思えるが並の殲滅士は一日に2回程度しか殲滅技能を使うことができない。

 さらに他にもデメリットはある。杖は魔法詠唱時に使う杖と同じものだが、杖を媒体にして魔力を使って放つのが魔法だとすれば、杖を磨耗させ、魔力をも使って放つのが殲滅だ。使えば使うほど剣が刃こぼれするように杖も朽化していく。そのため、使用後のメンテナンスは欠かせない。

 しかしそんなデメリットを上回るほど、メリットというか威力は大きい。

 【火の小玉】は名前から見れば、頼りなさげに見えるが、それは人間の顔ほどの火球を空から数千個降り注がせる、凶悪極まりない技能だ。しかも当たって死ななかったとしても、即死の追加効果で死ぬ可能性があるという二段構え。

 使われた側から、つまりゴブリンから見れば地獄でしかない。

 そんなアンナポッカを守るのが剣盗士ガリー。

 剣盗士は武器(主に剣)を盗む職業と言えば分かりやすいだろう。その恐ろしさは格下であれば問答無用で武器を奪えることにある。冒険者の多くを占める剣士系職業には天敵の相手だ。モンスター相手ではなんともいいがたいため、今回の戦いではその恐ろしさが感じられないのが残念ではあった。

 それでもガリーは俊足を活かしてゴブリンに長さ20cmの超短槍〔短足オヂサン〕を突き刺していく。

 アンナポッカは殲滅をあと一回使おうと思えば使えるが、今回の戦いではもう無理だろう。精神力を根こそぎ奪われ、精神的疲労で身体が鈍っているのが分かった。だから死にたがりのガリーは守るのだ。ここでアンナポッカを守って死ねれば最高だと、常にそう思って。

 一方、アルルカは魔充剣タンタタンに【冷風】と【熱風】を宿して一気にゴブリンへと突っ込んでいく。【火の小玉】で敵の数は半数に減ったとはいえ、まだまだ数は多い。そんなアルルカをフォローするようにルルルカが十本の匕首を巧みに動かし、確実にゴブリンを屠る。

 モココルもふたりを支えるように、大鋏〔切り裂くジャック兄弟〕を用いて2、3匹のゴブリンの身体を切断する。

「フン、フゥン!」

 モッコスは二、三回攻撃したあとに自分でポージングを決める。その間、敵を引き寄せ傷を負うが、ゴブリンに引っかかれた程度の傷は一瞬にして回復する。狂戦士の為せる業だった。

 そうやって近づいてきたゴブリンたちの頭を大金鎚〔杭打つドンピシャリ〕で粉砕していく。そのあとはもちろん、忘れずにポージング。

 それは油断ではない。ポリシーだ。

「グゥレエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエイト!」

 ゴブリンを己の拳で打ち砕いたレッドガンは思いッきり叫ぶ。

 まるで自分の強さに酔いしれているようだった。

 そんなレッドガンの姿はライカンスロープ(狼人間)と化している。彼は獣化士だった。それもランク1の。

 レベルはとっくに上限を迎えているが彼には関係ない。第二の永遠の新人と呼ぶ人もいるが、彼にはそんな名称は似つかわしくない。そもそもかつて永遠の新人だったネイレスとは戦闘スタイルからして違う。

「試練なんて関係ねぇ、オレの拳を知れぇえええええええええ」

 レッドガンは常に叫ぶ。彼が魔物退治を行なうときはいつもそうだ。

 試練なんて受けている暇があったら彼は魔物を倒す。どこまでも魔物を倒す。

 彼には素質がある。その名も【熱血(バーニングブラッド)】。彼の力を倍以上に高める素質だった。

 ライカンスロープの強靭な前歯がガチガチと合わさる。変身前にはなかった犬歯が鈍く光った。

 全身を覆う毛皮はふわっふわの赤い体毛。本来のライカンスロープの毛色は茶色だが、これも素質の恩恵か、まるで熱せられたように赤く染まり、湯気立つ。

「グレイト、グレイト、グゥレイ、トォォォォォォオオオオオオオ!!」

 しかしうるさい。やたらとうるさい。

 昂ると彼はいつもこうである。

「一気に畳み掛けるの!」

 その傍ら、レッドガンに負けじと声を張り上げ、ルルルカは皆を奮起させる。とはいえ、ゴブリンは減りそうもない。何か他に原因があるのではないかとルルルカは感じていた。

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