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tenth  作者: 大友 鎬
第7章 放浪の旅
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聖女編-4 加勢


 高台に登り、僕はゴブリンの群れを確認する。確かに大群が押し寄せていた。

「予想以上に多いね」

「どうすればいいんでしょうか?」

「とりあえず滞在している冒険者を集めて対応してもらうしかない。僕もやる」

「リアンはどうするつもりだ?」

「アルに、任せるしかない」

「だがやはり人質はこちらで救出したほうが……」

「それは……分かっている。分かっているけど……!」

 くそ、僕はまた救えないのか。

 拳を握り締め、唇を噛み締め、考える。

 リアンを見捨てるのか、それとも一度は猛威から救ったこの街の人々を見捨てるのか。

 僕にはそんな二者択一はできない。

 どちらも救える選択肢を探せ、脳内に訴えかける。

 そんなときだ、

「よう、困ってるみたいだな」

 そんな言葉とともに舌なめずりが聞こえた。

 僕は声の主を見て、驚いた。シッタ・ナメズリーだった。後ろにはフィスレの姿もあった。

「どうしてここに?」

「ランク5になったんでね。ここを拠点に修行をしようとしていたんだぜ。そしたらさっき妖怪キャラかぶりが助けてくれって言ってきてな」

「誰が妖怪キャラかぶりだ。お前がオレと被っているんだよ」

 置いてきたはずのアクジロウがシッタの後ろで叫ぶ。

 ふたりの顔は確かに似ていた。アンドレとカンドレみたいなものだろうか、確かあのふたりも姓が違うのに、双子のように顔がそっくりだった。

「あとでおしおきが必要なんじゃないかな?」

 僕の後ろからジョバンニの冷徹な声が聞こえてきた。ジョバンニの思いやりをアクジロウは理解していない。3秒前に言われたことを忘れてシッタについてきた、そんな感じだろう。

「舌をなめずるという個性がある俺のほうが本家に決まってるだろうが!」

 どっちが本家だろうが、元祖だろうが真打だろうがどうだっていい。

「どっちもどっちだね」

 同意見なのか、呆れながらフィスレが言った。

 ふたりがいるということはジネーゼとリーネも無事にランク5になったということだ。それを嬉しく思うもののこの場をなんとかするには、助っ人がふたりじゃ足りない。当然アクジロウは戦力外だ。

「そういや、レシュ」

 アクジロウが気安く僕の名前を呼んでくる。なんかアクジロウだけには呼ばれたくない。

「お前の名前を出したらなんかおめかししてから来るって言ってたやつも居たぞ。多少は仲間を連れてくるとも言ってたな。結構な数いるんじゃねぇーの」

 それを聞いてアクジロウの人望に驚いた。

「ってか、お前の話、最初は誰も見抜きもしなかったよな。レシュリーの仲間だとか大仰に言って誰も反応してくれなかったしよ」

 シッタの言葉で訂正せざるを得ない。アクジロウの人望のなさに改めて呆れる。それでも子どもに大人気なのは妖怪キャラかぶりだからだろうか。

「お待たせなの! 私たちもランク5になったの!」

 しばらくして駆け足で走ってきたのはルルルカ・アウレカだった。後ろにはアルルカ・アウレカとモココル・ファンデ、モッコス・モッコスが続く。彼女らもランク5になっていたらしい。

 その後ろにはさらに冒険者が3人。知らない顔だった。誰かの弟子なのかもしれないし、ルルルカが声をかけたのかもしれない。

「戦闘の技場、そんなに頻繁に行われるようになったの?」

 久しぶりとかなしに思わず呟く。

「そうなの。健全な経営は、迅速なスピードを生み出すの!」

 運営がうまくやっていることに安堵する。僕がきっちり管理する必要もなさそうだった。

「ま、とりあえず来てくれて嬉しいよ。手伝ってくれるってことでいいよね?」

「当たり前なの!」

 ルルルカは少しだけ頬を赤らめる。

「随分とキミの周りには女の子が増えたのだな」

 ヴィヴィが少しだけ気に食わなさそうに呟いた。

「とりあえず全員総出で倒そう」

「っとちょっと待て。お前らふたりは教会のほうを当たれ。ここはオレが指揮を執る」

「それはダメじゃないかな、アクジロウ」

 ジョバンニの氷の笑みにクジロウが黙る。

 アクジロウの抑止剤としてジョバンニは最適だった。

「その人の言うとおりだ、オレも異議ありだ」

「その意見に俺は異議ありだよ」

 アクジロウの異議にシッタが異議を出す。噛み合わないな、このふたり。そのせいでジョバンニの抑止が台無しになった。

「ってかお前は鍛冶屋だろ。元・冒険者だろ。なのに指揮とるとか調子に乗るな」

「それでもゴブリンぐらいなら倒せる」

「でも本業じゃない。どっかで震えてろ」

「なんだよ、それ」

「いやいや、キミ、そう言いつつシッタはキミを守りたいんだよ。一応、キミは一般人だからね」

 フィスレが、アクジロウをなだめるように言った。シッタの扱いに長ける彼女は、似たようなアクジロウの扱いも卓越している。

「そうだね。それに一般人なのにとてつもなく強いキミが爺さんや他の人を守らないと。万が一があるかもしれない」

「おお、そうだな。ならオレは万が一を想定して、街のやつらを避難させるぜ」

「そうしてくれ。すごく助かるよ」

 フィスレとジョバンニの尽力でアクジロウはテンションをあげながら消えていった。

「ごめんね。フィスレ」

 アクジロウの対応をしてくれたフィスレに謝っておく。

「気にするな。ああいう知り合いが私にもいるからな」

 当然シッタのことだ。

「それよりも指揮は結局どうするんだい、レシュリークン?」

「指揮はルルルカかフィスレに執ってほしい」

「いや私は不向きだろう。それに私はシッタがしゃしゃり出ないように見張る必要もある」

「なら、ルルルカ。お願いできるかな?」

「任せてなの! あなたの期待に添ってみせるの!」

「あんまり気張りすぎないようにね?」

「分かってるの!」

「それよりも、キミたちは急いでその教会とやらに行くんだ。ここは任せておけ」

「そうなの! 任せるの」

「ありがとう、助かるよ。行こう、ヴィヴィ」

「ああ」

 僕とヴィヴィは教会へと向かうこととした。

 みんなが来てくれたおかげで、リアンも街の人々も両方救える。

 今まで救おうと努力してきたことがここに来て実を結んだのか、それは分からない。

 それでも僕は手伝ってくれる仲間がいることに感謝した。

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