大草原編-7 犯人
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隠れた直後、白衣を纏った女冒険者が改造者のもとへとやってきた。
「ヒッヒッヒ。経過ーは順調ーのようですねぇ!」
不気味に笑う女冒険者が土に彩る足跡は、奥へと続く足跡と合致していた。こいつが異常な異形を作り出した改造屋でおそらく間違いない。
改造屋の様子を見ようとしていた僕を尻目にセリージュが独断で駆け出していた。
指示に従ってくれると思っていたけど、それは見当違いというか勘違いだったらしい。どうして駆け出したのか僕には知る由もない。
でももしかしたら凄惨な目に遭い、殺された仲間のことを思い出したセリージュは改造者に凄惨な目を合わせている改造屋が許せないのかもしれない。
セリージュは魔充剣ビフォと魔充剣アフタに【強炎】の魔法を宿すとそのまま改造屋へと疾走。
「やあああああああっ!」
気合を入れるために雄叫びをあげると改造屋が奇襲にも多少驚くが、それだけ不意打ちにもならない。
「おやおやこんなに朝ー早く人がいるとは思ーいもしませんでしたねぇ」
セリージュの姿を確認し、太刀筋にあわせてゆっくりと体を反らす。それだけでセリージュのビフォを回避し、さらに半歩、体をずらすことで続くアフタも回避する。
「ヒッヒッヒ。何ーを怒ーっているのですかぁ?」
「なんでこんなことをしてるのね!」
セリージュが改造屋に向かって声を張り上げる。
やっぱり改造者の悲惨な姿を見て怒っていたらしい。そして改造屋を見て、いてもたってもいられなくなって駆け出していたのだ。
「いや実験ーだしぃい」
その怒りに反して、改造屋は気味悪く笑う。
「何の実験なのね?」
「何ーの実験ーかは答ーえる意味ーは全ーくないよねぇ」
ヒッヒッヒと笑い続ける改造屋にセリージュはその当然さが悔しかったのかアフタを強く握り、悔しさを噛み締める。
「だったらせめてお前が実験に使ったこの男を元に戻すのね」
「なーんでぇ? バンゾーモは自ーら私ーの実験ーに協力ーしたんだよぉ?」
改造屋が疑問の声を漏らし、自分の行いを正当化する言い訳を続ける。
「だからさ、戻ーす必要は、ないよねぇえ。だってバンゾーモが望ーんだよぉ。だから私ーは改造してあげたんだぁ。それはもちろん私ーのためにだけどねぇええ。でもそれが結局ー、バンゾーモのためになるのだよねぇ。バンゾーモの復讐ーに繋ーがるんだよねぇえ」
そうは言うものの、僕は改造屋がこの目の前の異形――バンゾーモの復讐心を煽ったのではないか、と推測していた。
そうして問う。どうせ、何も答えないだろうと期待もせずに。
「……バンゾーモは誰に対して復讐したかったんだ?」
けれど、改造屋は期待に反して、僕の問いかけに、
「バンゾーモはランテプリゾナを愛してーいたぁ。でもー引き裂かれたぁ。裏切られたぁ。よくあるー話だよねぇえ」
面白そうに答えて、笑う。
バンゾーモの復讐の理由は、安易で、そして愚かで、怒りに任せた選択なのだろう。
だから改造屋はその理由を面白く語る。そんな理由で改造屋に身を任せたバンゾーモが面白くて、滑稽で笑うのだ。
「だから、マンティコアは大草原に現れたのか」
「どういうことなのね?」
「バンゾーモはランテプリゾナに復讐がしたかった。だから遊牧民の村にマンティコアを向かわせていたんだ」
「ちょっと待つのね。どうして、ランテプリゾナって人が遊牧民の村にいるって分かるのね?」
「キミは知らないだろうけどバンゾーモの頭についてる、羽飾り。あれって遊牧民の伝統工芸品なんだ。僕も持っている」
【収納】から取り出した屠殺鳥の羽飾りをセリージュに見せる。
「ヒッヒッヒ、ご名答ぅ! よーく分かったねぇえ」
「けど、それだけじゃない、お前の実験内容も分かったよ」
そう言うと改造屋はわずかに頬を強張らせる。
もちろん推測でしかない。けれどはったりを効かせるために僕ははっきりと断言していた。
改造屋も僕の言葉に動揺を見せている。分かりやすい。
それに改造屋の改造は素直すぎる。色々と弄ってはいるが、結局のところ、改造の意味を為しているのは右腕だけで、他の部分はカモフラージュというより悪趣味な装飾でしかないのだ。
いや、もしかしたら改造者なんて作る必要すらなかったのかもしれない。復讐に漬け込んで、その装置の試運転をしたかっただけで、復讐の手伝いを見立てるためだけに改造したのかもしれない。
「お前……魔物使士じゃなくても魔物を操る実験をしているんだろ」
その実験を何のためにしているのか、は見当がつかなかったけれど、揺さぶりには十分だ。
「な、何を言ってる……?」
「動揺しすぎだよ。せっかくのキャラが崩壊している」
「だ、黙れぇえ!」
「分かった。黙るよ。でも、この実験は止めさせてもらう」
「そんな横暴ーが許ーされるとでもぉお?」
「許されるとか、許されないとか、関係ないのね!」
僕の代わりにセリージュが答え、改造屋に向かって疾走。
僕も右手に【戻自在球】を【造型】する。
「一撃で終わらせるっ!」
「ヒッヒッヒ。そりゃ無理ーだよぉおお」
改造屋は自分の目の前に【闘牛士人形】を出現させる。改造屋は物操士だった。
僕と同じぐらいの背丈の【闘牛士人形】は突剣を左手に持ち、右手で赤鬼外套をひらひらと仰ぎ挑発してきた。
「これでも一撃で倒せるーかなぁあ?」
「それも含めたうえで一撃だっ!」
右手から放った【戻自在球】が【闘牛士人形】を蹴散らし、
左手から放った【戻自在球】が改造屋を狙う。
「どうしてっ!?」
あり得ない光景に改造屋が戸惑う。
本来なら投球士が作れる球の数は、利き腕でひとつだけだからだ。
なのに、僕はふたつの球を作り出していた。
ここで実験に没頭していたせいなのかで改造屋は僕の情報を知らなかった。




