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tenth  作者: 大友 鎬
第7章 放浪の旅
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大草原編-3 分析

 3


「ここにいるのね」

 日も暮れるという頃、大草原へと入り込む人影があった。


 ***


「ムジカはランク2の賢士だったのか」

「そうなんです」

 遊牧民の村へついた僕はムジカと他愛のない会話をしながらいろいろと情報を聞き出していた。

 ムジカがもっと高ランクの魔法士系複合職(スタンダード)だと思い込み、勝手にかなりの数が魔法が使えると思い込んでいた。その危うさは反省しなければならない。風属性魔法が使えなければ僕の策略は一気に破綻していた。

 遊牧民たちが僕をもの珍しげに見ていたが、職屋(ジョブセレクト)のおじさんだけは僕を覚えていたらしく、ムジカと話をする前に屠殺鳥の羽飾りトルキーダートル・クレストを渡してきた。

 遊牧民の伝統工芸のひとつで、よく見れば全員がつけていた。

 僕は視線を感じつつも、気にせずに会話を続ける。

「にしてもランク2で【無炎壁(アンチファイア)】が使えるとはすごいね」

「でもネイレスさんから言わせれば危険だそうです。そんなことをしたのが信じられない、と怒られました。あのときはまだランク1でしたし」

「確かに、ランク1だと高位の魔法、癒術を覚えるのに相当経験が必要だし、使うのだって相当な磨耗になるからね」

 僕が初めて【蘇生球(リヴァイヴァラー)】を使ったときと同じぐらいの負荷がかかるはずだ。となれば精神崩壊を引き起こし、死ぬ可能性だってあり得る。

「言われなきゃわたし気づかなかったんです。役に立つことに必死で、覚えた魔法だったから」

「ひどい言い方かもしれないけれど、彼らはあくまで竜討伐の愛好家で冒険者の手本とは呼べないと思うよ。竜討伐に役立つものだけ覚えたって試練はクリアできない」

 僕は毒素にやられていった竜討伐愛好家達の顔を思い出しながら、まるでムジカを慰めるように呟いた。

「たぶん、その通りなんだと思います。だからわたしも色んな魔法を覚えて、強くなりたいんです」

「なりたい、じゃなくて、なるんだよ。願望を持つのは悪くないけど願望じゃ駄目なんだ。僕はそれをディオレスに言われたよ」

「ディオレス、さん……って言うと一本指(ファーストサム)のですか!?」

「そっ、元というか亡きだけどさ。僕の師匠……って言っていいのかな? 僕はディオレスに言われてから、救いたいじゃなくて救うって思うことにしたんだ」

「素敵な言葉ですね。わたしも強くなるって思うことにします」

 とムジカは笑った。仲間を失った辛さを乗り越えて、頑張ろうとしているその姿に僕は思わず見とれる。

「まあ、ままならないこともあるけどね」

 ムジカの決意に水を差すように、僕は思わず呟いてしまっていた。

 救えなかった人々のことを僕は思いだしてしまったのだ。

 頭によぎるのはリゾネやハンソンの顔。

 振り払うように頭を振るうと、次に思い出したのはアネクとリレリネさんだった。

 僕にもっと力があれば、生き返らせれる可能性だって、あったはずだ。

 後悔を思い出すなか、唯一救えたであろうヴィヴィのことを思いだす。

 元気にしているだろうか。そういえば、あれからもうすぐ三ヶ月半が経つ。

 僕が感傷に浸りすぎたせいで、妙に気まずくなる。

 何か話題を、と模索するなか、ムジカが話し出す。

「あの……ところでレシュリーさん……お願いがあるんですが……」

「お願い?」

「はい……あの、レシュリーさんの能力値(パラメータ)を見せていただけませんか?」

「僕の能力値(パラメータ)を? いったい、どうして?」

 イヤというわけではないけれど、本来、能力値は保護封によって、見えなくしているものだ。

「レシュリーさんが強いのは分かってるんです。でも、どれぐらい強いのか、実際にわたしの能力値と比較してみたいんです」

 そうは言うけれどムジカは純粋に僕の能力値(パラメータ)に興味もあるのだろう。

「それは、まあいいけどさ……」

 ただ、僕にはそれを確認する手段がなかった。

「何の話してるのかな?」

 焚き火の前で座る僕とムジカの横にネイレスさんが顔をのぞかせる。メレイナは食事当番らしく今はここにいない。

「ムジカが僕の能力値(パラメータ)を見たいらしいんだ」

「それ、アタシも気になるわ。初めてキミに【分析(ステータス)】を使ったのもアタシだし。あの時からどれくらい、成長したのか気になるわね」

「だったら見てみようよ。けど、他の人に見られたりしないものなの?」

「保護封は持っているんでしょ?」

「それはそうだけどさ」

「保護封は【分析(ステータス)】を使ってもいい相手とダメな相手を選別できるから、アタシだけ許可すれば、他の相手には見られることもないわ」

 【分析(ステータス)】も然り、とネイレスは付け加える。

 【分析(ステータス)】で手に入れた情報も見れる人を選別できるのだろう。

「なら、お願いしようかな」

 メレイナの懇願するような瞳に根負けしたというのもあるけれど、僕は僕がどれほどまでの能力を持っているのか見てみたくなったのだ。

 ネイレスさんが静かに頷き、そして【分析(ステータス)】を発動させる。

 ネイレスさんの前に出現する半透明の板。そこに僕の能力値(パラメータ)が載っているのだろう。

 ムジカと僕はその板を覗き込む。

「余分な情報は省いて、基本的な能力値(パラメータ)のみを表示させているわ。それだけでもすごさが分かるはずよ」


レベル 374 ランク5

ATK 5984

INT 9350

DEF 2618

RGS 7293

SPD 5049

DEX 12529

EVA 5797


「やっぱり、というか当然成長してるわね……」

 生唾を飲むようにネイレスさんは言うけれど、それはかつて僕の能力値(パラメータ)を見たことがあるからで、どのぐらいすごいのか、僕にはピンと来ない。

 ムジカも同様だった。

「あの……試しにわたしの能力値(パラメータ)も見せてもらえますか?」

「比較したいってこと? レベル差とか職業補正があるから比較にならないと思うわよ」

「それでも見たいんです」

 力強く言うメレイナに苦笑して、ネイレスは【分析(ステータス)】を使う。

 僕と同じように、基本的な能力値(パラメータ)が表示される。


レベル 115 ランク2

ATK 280

INT 1736

DEF 448

RGS 3640

SPD 224

DEX 392

EVA 840


「すごい差です……」

 驚くように、戸惑うようにムジカは言った。

「確かにこうして見てみるとケタが違うね……」

 僕も感想をつぶやく。

「けど、これはあくまでも基本的な強さを数値化しただけ。武器の性能や防具の強化具合、戦闘時の応用力で差は埋まるし逆転だってできることを忘れちゃダメ」

 忠告するようにネイレスさんが言う。永遠の新人と呼ばれランク1ながらも大草原で生き延びてきたネイレスさんだけに言葉には真実味があった。

 【分析(ステータス)】によって自分と相手の能力値(パラメータ)を確認し、ある程度の戦闘力を算出して「戦闘力……たったのそれだけか」と相手を過信していたら、負けるということだろう。

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