大草原編-2 余裕
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全てのマンティコアが僕のほうへと駆け出していく。
僕は両手に【毒霧球】を作り出す。シャアナと戦ったとき【断熱球】で炎を防いだが、あの要領で球を連投するつもりだった。
連投した【毒霧球】はマンティコアのかなり手前で、幕というよりも壁となって行く手を遮る。毒の層が厚くなっていく間にも時間が経過する。
「【追風】!」
声とともにムジカが持つ石榴石の蛇黒樹杖〔這い蹲るナガラジャ〕から攻撃魔法階級2【追風】が発動。僕たちを風上、マンティコアを風下とする風が、マンティコアを阻んでいた毒霧ごとマンティコアを襲う。
毒霧に包まれたマンティコアたちは軽微が重なり重度となった毒素に蝕まれ、喘いでいた。後方のマンティコアはそれを見て身を翻し、逃げていった。
「やりました、やりましたよ。レシュリーさん!!」
マンティコアの逃げる様を見てメレイナが後ろから抱きついてきた。
「正直助かったわ」
メレイナに抱きつかれたままの状態の僕はそのままネイレスとハイタッチする。
ムジカは追い払えたことに安心したのか腰を抜かしてそのまま座り込んでいた。
「ムジカさん、ありがとう」
きちんと魔法を発動してくれたムジカに僕はお礼を述べると、ムジカは照れくさそうに笑顔を返してくれた。
「でも、まだ終わってないよね?」
不安を煽るようで非常に気まずかったのだけれど、それでも僕はネイレスに言った。
「そうね。今日は逃げ帰ってくれたけど、日にちを置けばまた奴らはやってくると思う」
「何か対策を練らないとね。もう草原には来たくないって思わせるような」
「そうだけど……レシュ、手伝ってくれるの?」
「うん。修行で一時的にアリーと別れたけどさ、修行って何をすればよく分からないから少しだけネイレスにヒントでももらおうかなって思っていたんだよ」
「ヒントって……アタシのほうがランクは下よ」
「人生経験は上でしょ?」
「あれ、それアタシが年増って言いたい?」
「違うって! そういう意味じゃなくて……」
「もちろん冗談だけどね。ま、何にせよレシュがここにしばらく居るって言うなら心強いわ。もう記事になっているよ、南の島のこと」
「ランク5になったこと?」
「いや、オジャマーロを倒して、悪しき習慣を破壊したことよ」
「そっちか……。出回るの早いね」
「おそらく“ウィッカ”ね。あそこは情報収集が異常なのよ。でもそう考えるとここに来たのは賢明ね。そこらへんの街なら取材攻めにあっていたわ」
「どのくらい攻められるのか体験してみたい気もするけど……」
なんだかんだで取材を回避している僕は、思わずそう言ってしまう。
「……冗談よね?」
「え、ああはい。冗談ですよ」
「ま、何にせよ、とりあえず今日は遊牧民の村に戻りましょう。ムジカ、いつまで座っているの?」
「え……ああはい。すいません。なんだかすっごく力が抜けちゃって」
ネイレスが手を差し伸べるとムジカはその手を使って立ち上がる。その光景がなんだかほほえましい。
「メリー……」
次いでネイレスが呆れたようにメレイナを呼ぶ。
「さすがに抱きつき過ぎじゃない?」
メレイナは離れるタイミングを見失っていたのか、ずっと僕に抱きついたままだった。
指摘されてメレイナは急速に頬を赤くする。
「はぅう……これは失礼しました」
僕から離れたメレイナは何度も何度も頭を下げた。
「いや、謝りすぎだよ。可愛い子に抱きつかれて悪い気はしないから」
それを聞いたメレイナが硬直し顔を赤く染める。
「あー、今のアリーが聞いたら殺されるね」
ネイレスが笑いながら言った。確かにそうだった。
「あーじゃあ今のなしで」
アリーに告白してから、僕に余裕が生まれたのか、そんな軽口も叩けた。
「そ、それはそれでひどいです!」
メイレナが頬を膨らませて怒った。




