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tenth  作者: 大友 鎬
第7章 放浪の旅
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大草原編-1 草原

 1


「らあああああああああああ!」

 茶髪が特徴の冒険者が、自身に似合わぬ声を出し、目の前のマンティコアへと強烈な飛び蹴りを放つ。

「大丈夫?」

 その冒険者はマンティコアの前で尻餅をついてしまった冒険者を心配し手を差し伸べる。

「はい……なんとか助かりました。ネイレスさん」

 薄紫色ショートヘアの冒険者ムジカは自分を労わってくれたネイレスの手を握り立ち上がりながら素直にお礼を述べた。

「マンティコアなんてそうそうお目にかかれるものじゃないし、びっくりして当然よね。でもムジカはちょっと驚きすぎかな」

「はは……わたしもわたしにびっくりです。まだ立ち直れてないのかもしれないです……」

 思った以上に大勢の仲間を毒素に殺されたムジカの恐怖や悔恨は根が深いのかもしれなかった。それでも頑張ろうと草原で魔物(モンスター)退治に励んでいた。

 そんなふたりの下に駆けてきたのは、大きな布髪留(リボン)で髪を括った薄茶髪の女性。まだどこか幼げな顔が残る彼女は大陸で唯一の封獣士メレイナ・ジャッセルセンだ。

「やっぱりワタシの【封獣結晶(キューブ)】じゃマンティコアは無理でした。封獣できません……」

 【封獣結晶(キューブ)】は使用者の経験量や投げる速度などの要因が対象となる魔物(モンスター)の強さよりも上回ってなければその球に封じ込めることはできない。

「となると日数稼ぎも無理ね。ブラジルさんがいなくなったって分かった途端、押し寄せてくるなんて。予想してたけど時期が早すぎるし数も多すぎる」

「どうするんですか? ここを越されたら遊牧民の村なんてすぐですよ」

 遊牧民をお世話しお世話されの関係である三人は、なんとしてでもこの先を突破されるわけにはいかなかった。

「落ち込まなくていいわ、メリー。それでもやりようはあるもの」

 ネイレスはそう励まして、指示を飛ばす。

「メリーはまたマンティコアを封獣して。【封獣結晶(キューブ)】は封印できなくても、一瞬だけ魔物(モンスター)を閉じ込めれる。それだけで時間稼ぎになるわ。ムジカは今度は落ち着いて覚えたての魔法で攻撃。アタシが霍乱するわ。何度でも言うけど尻尾の毒は気をつけてね」

 そう言うとネイレスは駆け出していく。ネイレスが三人のなかで実力が抜きん出ているのと、他のふたりが近距離攻撃向きではないため、率先して戦う必要があった。とはいえ、マンティコアの数が多すぎる。その数はゆうに十を超えていた。

 メレイナは言われた通りに【封獣結晶(キューブ)】を作る。まだ弱いメレイナには愚直に指示を守るしかない。

 どことなくそれに悔しさを覚えながら【封獣結晶(キューブ)】を投げようとした瞬間、

「ちょっとそれ、貸して」

 声が聞こえ、何者かが【封獣結晶(キューブ)】を奪った。


 ***


 僕はメレイナから【封獣結晶(キューブ)】を奪い取るとさっさとマンティコアにめがけて放り投げる。当てられたマンティコアはあっさりと封獣され、球が地面に転がる。

「レシュリーさん、どうしてここへ!?」

「いやちょっと暇になったから遊びに来たんだけど、なんかやばい状態だね」

「レシュ……キミはいいタイミングで現れるね」

「そりゃ良かった。とりあえず……こいつら、倒せばいいよね」

「お願いするわ」

 僕が【速球(ブレイカー)】を繰り出すと命中したマンティコアの顔の一部がいとも容易く吹き飛ぶ。

 その威力にメレイナが驚き、ネイレスが感心していた。

 投げるのに合わせ、僕は疾走。身近にいたマンティコアへと鷹嘴鎚〔白熱せしヴァーレンタイト〕を振りかぶる。マンティコアはそんな僕へと尻尾の毒針を放つ。

「レシュリーさん!」

 それに気づいたメレイナの叫びもむなしく僕の体へと毒針が突き刺さる。

「ぐっ」

 多少痛いが、それがどうした! そのまま鷹嘴鎚〔白熱せしヴァーレンタイト〕の嘴をマンティコアの頭へと突き刺し、力任せに破砕する。

 慌てて近寄ってくるメレイナに

「大丈夫だよ」

 僕は傷口を見せる。毒が体内に侵入すると傷口は紫に変色するのだが、僕が見せた傷口にはそんな痕跡などなかった。

「もしかして……」

 毒素に対抗した僕の力を知っているメレイナが気づく。

 その通りだ。かつてブラジルさんがマンティコアと戦ったとき、その場に付き合わされた僕は尻尾に毒があることを知っていた。

 だからあらかじめ、【滅毒球(ポイズンフォーラー)】を放っておいたのだ。これなら尻尾を気にせずに、無茶な攻撃も可能となる。

「思ったより数が多いね。樹の陰とかに隠れているのも合わせたら大層な数だよ」

「でも、ここを突破されるわけにはいかないです」

「分かってる。来る途中に遊牧民の村があったから」

「でもそうなるとやっぱり人数的な問題があるんです」

「ムジカさんだっけ? きみは風属性は使える?」

「だ……大丈夫です。この間覚えました……」

 ムジカが自信なさげに僕にボソッと答えた。

「なら、一気に殲滅できそうだね」

 僕はにんまりと笑顔を見せる。不安げな彼女に自信をつける意味でも、彼女には活躍してもらわなければならないだろう。

「何をする気ですか?」

「まあ、見ててよ。メレイナ」

 僕は呼吸を整える。

「ムジカさん、十秒後に風の魔法いけますか? 階級2以上で」

「え……ああ、はい。いけます!」

 慌てながらも力強い返事。そしてすぐに詠唱に入る。

「あぎょうさん、さぎょうご、たぎょうさん、かぎょうに――」

 ムジカの祝詞を尻目に僕はネイレスさんに指示を出す。

「ネイレスさん、あと三秒霍乱したら、僕の後ろまで下がってください」

「分かったわ」

 ネイレスが頷き、そのままマンティコアとの戦闘を継続。

 同時に僕は【三秒球(スリータイマー)】を足元に置く。

 カウントが三、ニ、一と減っていきゼロと同時にハズレという紙が球の中から現れ、ネイレスが指示通り後退する。

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