新世代編-1 改変
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世界改変は些細なことでも起こる。
例えば、誰かが迷宮の奥底で転んで死んだだとか。
例えば、閉ざされた城の門にぶつかって死んだだとか。
例えば、複合職の青年が、太刀打ちできない魔物に傷をつけただとか。
その前兆は唸るような声をともに訪れる余震だ。
悪魔のような低い呻きと、連続的に続く地鳴り。
それが収まると、世界改変が終わり、世界が変わる。
例えば、基本職の冒険者が突然、特別職になったり。
例えば、複合職に新しい技能が増えたり。
例えば、大草原にある大氷穴に新しい道ができたり。
例えば、入ったきりクリアするまで出られない試練から脱出できるようになったり。
レシュリー・ライヴが黒騎士に傷をつけたその夜遅く、人知れず世界改変は起こった。
ランク7の試練封印の肉林は一度入ったら、出ることはできない。
つまりクリアできなければ、永遠に世界から隔絶されてしまう。今もなお、多くの冒険者がそこに閉じ込められ、そして封印の肉林のボスでもある捕食者に肉片にされないように、生き延びていた。
「出れる、出れるぞ!!」
そんななか、ひとりの冒険者が出入り口に光が差し込んでいるのを見て、歓喜に叫ぶ。
「本当だ!」
「急げ! 何年ぶりの外だ?」
脱出できることを知ったランク6冒険者が次々と外へと飛び出していく。
行方不明とされていた冒険者が外の世界へと飛び出し、世界はさらに動乱に満ちていく。
集配社“ウィッカ”が定めた[十本指]など、彼らを除いた評価でしかないのだから。
***
「こんなことが……」
半年後の新人の宴に向けて修業に明け暮れていた投球士デデビビ・バウリスは自分の体の変化に気づく。
師匠代理であるリンゼット・カールビーズに教わっていた投球が突然使えなくなった。
デデビビは新人の宴に落ちる恐怖よりも先に、レシュリーのような投球士になれないことにショックを受けていた。
レシュリーが[十本指]になったことで投球士を選ぶランク0冒険者も増えたのは事実で、デデビビもそのなかのひとりだった。
デデビビは虚弱体質ゆえにいじめられていた。
それでも諦めなかったのは落第者だったレシュリーが諦めることなく、今は汚名返上するように活躍しているからだ。
だからデデビビは投球士になった。
なのに、投球が突然使えなくなった。投球がうまかったわけではない。それでも投球士として生きていく覚悟はできていた。
その出鼻を挫かれた。
デデビビはそれがショックでならない。
不安から、朝一でデデビビはリンゼットのもとを訪れていた。
リンゼットはレシュリーが師匠になることを断ってから以後、自分が代理になると申し出た。
実はリンゼットはすべての職業に転職した経験をもついわくつきの冒険者だった。ゆえに技能の知識が多く、だからこそ、初心者協会に携わりながらも技能協会会長でもあった。
「どうして投球が使えなくなったんですか……リンゼットさん」
「ふむ。これはもしかしたら……特別職かもしれません」
ある種の確信を持ってリンゼットは言った。
「先ほど、ルーンの樹に見知らぬ技能が定着しました。そのうちのいくつかがすでにある複合職の新技能だと判明しましたが、それでも不明の技能があるのです」
「また……レシュリーさんが……新技能を作り出した……とかでは……?」
レシュリーが近年たくさんの技能を生み出したことも原点回帰の島界隈では有名な話だ。自慢げに言い触らしたのはリンゼットだった。
「いえ、新技能を作り出した場合の定着の仕方ではないのですよ」
「じゃあ……結局どういうことなんですか……?」
意味も分からずデデビビは訊ねる。
「ですから特別職が誕生したのでしょう。文献にβ時代、『侍師』と呼ばれた特別職が誕生した際に似たようなことがあったと書かれていました」
さらに、とリンゼットは続ける。
「そしてその侍師になった魔法剣士は魔法剣が使えなくなったそうです」
「じゃあ……僕が投球を使えないのは……!?」
「ええ、あなたはおそらく特別職になったのでしょう。そうと決まれば来てください」
「どこに行くんですか……?」
「申請をしなければなりません。それに修業日程も組み直さなけれは……今日から忙しくなりますよ」
嬉々とするリンゼットとは裏腹に、デデビビはもう一度ショックを受ける。
「僕は……もう投球士にはなれない……」
特別職に就いた人間が転職できないことをデデビビは知識として知っていた。
それでもデデビビはすぐに立ち直る。
自分の知っているレシュリー・ライヴはどんな逆境だって乗り越える。
だからデデビビは諦めない。
『冒険者情報』―――――――――――――――――――――――――――
デデビビ・バウリス
LV28 札術士 〈???〉 ランク0
【取得技能】
不明
【装備】
雀の外套、雀の羽飾り、雀の防護腕具、雀の長靴
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