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tenth  作者: 大友 鎬
第6章 失せし日々
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惜別

 48


「もうやり残しはない?」

「うん。ないよ。ちょうど終わったところ」

「にしても今日は大変だったわよ。声かけられまくりで、ろくに買い物もできやしない」

「ごめん」

「何謝ってるのよ。別にそれが悪いとは言ってないわ」

「なんとなくだよ。なんとなく」

「なにそれ……」

 アリーが呆れる。思えば常に呆れられているなあ。でも見限られてないのはありがたい。

「ところでシュキア殿には会ったでござるか?」

「うん。今日の用事はちょっとだけシュキアに手伝ってもらったんだ」

「どういうことよ、それ?」

「一応、顛末だけ話しておくよ」

 僕はかいつまんでアリーとコジロウに説明をする。

「ま、良かったんじゃないの」

「そうでござるな。拙者らと違って魔物(モンスター)退治でお金が稼げない分、仕事がないのは辛いでござる」

「ま、僕が管理人にならない代わりっていうのが嫌かもだけど」

「あんたの代理とオジャマーロの観賞用、比べてみても前者のほうが数段マシよ。マシどころか仕事をくれるなんてありがたいことじゃない。辞めたかったら辞めれるんでしょ?」

「まあ一応はそうだね」

「だったらいいんじゃないの」

 アリーがそう言ってくれるとなんだか安心した。

 それからは長い橋を渡りきるまで他愛もない話をした。それだけだけどなんだか妙に嬉しい。

 ずっとこのまま楽しく旅をしたい。

 そんな僕の想いを打ち砕くようにアメリアに到着した途端、アリーが言った。

「じゃ、ここでお別れね」

「……」

 言葉の意味が分からなかった。

「聞こえなかった? ここでお別れって言ったの」

「嘘だ」

 嘘だと思いたい。理由が分からない。

「これは拙者たちが戦闘の技場(バトルコロシアム)を受ける前に決めていたことでござるよ。黙っていたのは悪かったでござるが……」

 コジロウが言う。

「ずっと会えないわけじゃないわ。でも分かるでしょ? ここからが厳しいの」

 ランク6になるためには相当な経験を積む必要がある。半端な努力じゃ辿り着けない。

 エリマさんだって相当な経験を積んでいる。若いように見えたがあれでいてディオレスよりも三、四歳も年上なのだ。それだけ経験を積んでやっと到達したのだ。

「それは分かるよ。分かるけど、でも一緒にだってやれるはずだ」

「それはそうよ。でもあんたがいると私はきっと甘える。それじゃ駄目なのよ」

 それは僕だって同じだった。アリーがいればきっと僕は甘える。援護ありきになってしまうだろう。

 だからこそ分かる。アリーは僕がいれば自分勝手な戦い方をしてしまう。なぜなら僕が後ろで援護しているという安心感があるから。

 コジロウが加われば尚更だ。長所を活かし短所を補える。けれどそれが甘えに繋がる。理解はできる。

「それでも僕は、一緒に居たい」

 言葉が唇から零れる。本心だった。

「だって僕はアリーが好きだから。だから一緒に居たい」

 初めて面と向かって真剣にアリーを好きだと言った気がした。でもいつものように恥ずかしさなんてなかった。

「……それでも私たちは別れるの。これからもずっと一緒に頂点を目指すためにこの時だけ、この時だけは別れましょ?」

 何を言っても、僕のわがままでしかないのだろう。でもだからって納得はできない。

「いつまで?」

 未練がましい僕はいつまで別れたままになるのか聞いていた。

鮮血の三角陣(レッドトライアングル)は、ランク3の弟子が三人いるでしょ? 弟子を見つけるには原点回帰の島が一番よね?」

 その言葉だけで分かった。だから僕は頷いた。

「来年のその日、絶対会えるよね?」

「絶対に会えるわ」

 絶対という言葉が嘘ではないと分かった。妙な確信があった。だからだろう、僕は納得してしまっていた。随分と早い心変わりだ。

「分かったよ。その日までさよならだ」

 ということで半年以上もひとりで頑張らないといけない。とはいえ何かに関わればその時々で仲間はいるんだろうけど。

「そうね」

 アリーは手を振りながら歩いていく。

「拙者も行くでござるよ」

 コジロウも歩き出した。

 僕だけが立ち止まっていた。ふたりを見送ろうと決めたのだ。

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