惜別
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「もうやり残しはない?」
「うん。ないよ。ちょうど終わったところ」
「にしても今日は大変だったわよ。声かけられまくりで、ろくに買い物もできやしない」
「ごめん」
「何謝ってるのよ。別にそれが悪いとは言ってないわ」
「なんとなくだよ。なんとなく」
「なにそれ……」
アリーが呆れる。思えば常に呆れられているなあ。でも見限られてないのはありがたい。
「ところでシュキア殿には会ったでござるか?」
「うん。今日の用事はちょっとだけシュキアに手伝ってもらったんだ」
「どういうことよ、それ?」
「一応、顛末だけ話しておくよ」
僕はかいつまんでアリーとコジロウに説明をする。
「ま、良かったんじゃないの」
「そうでござるな。拙者らと違って魔物退治でお金が稼げない分、仕事がないのは辛いでござる」
「ま、僕が管理人にならない代わりっていうのが嫌かもだけど」
「あんたの代理とオジャマーロの観賞用、比べてみても前者のほうが数段マシよ。マシどころか仕事をくれるなんてありがたいことじゃない。辞めたかったら辞めれるんでしょ?」
「まあ一応はそうだね」
「だったらいいんじゃないの」
アリーがそう言ってくれるとなんだか安心した。
それからは長い橋を渡りきるまで他愛もない話をした。それだけだけどなんだか妙に嬉しい。
ずっとこのまま楽しく旅をしたい。
そんな僕の想いを打ち砕くようにアメリアに到着した途端、アリーが言った。
「じゃ、ここでお別れね」
「……」
言葉の意味が分からなかった。
「聞こえなかった? ここでお別れって言ったの」
「嘘だ」
嘘だと思いたい。理由が分からない。
「これは拙者たちが戦闘の技場を受ける前に決めていたことでござるよ。黙っていたのは悪かったでござるが……」
コジロウが言う。
「ずっと会えないわけじゃないわ。でも分かるでしょ? ここからが厳しいの」
ランク6になるためには相当な経験を積む必要がある。半端な努力じゃ辿り着けない。
エリマさんだって相当な経験を積んでいる。若いように見えたがあれでいてディオレスよりも三、四歳も年上なのだ。それだけ経験を積んでやっと到達したのだ。
「それは分かるよ。分かるけど、でも一緒にだってやれるはずだ」
「それはそうよ。でもあんたがいると私はきっと甘える。それじゃ駄目なのよ」
それは僕だって同じだった。アリーがいればきっと僕は甘える。援護ありきになってしまうだろう。
だからこそ分かる。アリーは僕がいれば自分勝手な戦い方をしてしまう。なぜなら僕が後ろで援護しているという安心感があるから。
コジロウが加われば尚更だ。長所を活かし短所を補える。けれどそれが甘えに繋がる。理解はできる。
「それでも僕は、一緒に居たい」
言葉が唇から零れる。本心だった。
「だって僕はアリーが好きだから。だから一緒に居たい」
初めて面と向かって真剣にアリーを好きだと言った気がした。でもいつものように恥ずかしさなんてなかった。
「……それでも私たちは別れるの。これからもずっと一緒に頂点を目指すためにこの時だけ、この時だけは別れましょ?」
何を言っても、僕のわがままでしかないのだろう。でもだからって納得はできない。
「いつまで?」
未練がましい僕はいつまで別れたままになるのか聞いていた。
「鮮血の三角陣は、ランク3の弟子が三人いるでしょ? 弟子を見つけるには原点回帰の島が一番よね?」
その言葉だけで分かった。だから僕は頷いた。
「来年のその日、絶対会えるよね?」
「絶対に会えるわ」
絶対という言葉が嘘ではないと分かった。妙な確信があった。だからだろう、僕は納得してしまっていた。随分と早い心変わりだ。
「分かったよ。その日までさよならだ」
ということで半年以上もひとりで頑張らないといけない。とはいえ何かに関わればその時々で仲間はいるんだろうけど。
「そうね」
アリーは手を振りながら歩いていく。
「拙者も行くでござるよ」
コジロウも歩き出した。
僕だけが立ち止まっていた。ふたりを見送ろうと決めたのだ。




