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夜。
足音で僕は目を覚ます。窓を見れば月明かりが雲に隠れて暗い。
「……誰?」
僕は呟く。
一瞬アリーじゃないかと思った。まあ深夜に来る用事なんてないのだけど。なんか期待したのだ。
「私でございます」
その声の主はゴーザック・アシモフェだった。
「闘技場から出られないんじゃなかったっけ?」
「今回は特別です。ご伝言があります」
「誰からの?」
「それは言えません。というよりも私には分かりませんと言ったほうが潔いですね。あなたに伝えるようにと頭に響いてきたのです」
ゴーザックは嘆息すると、潜めた声のまま言った。
「さて内容をお伝えしても?」
「どうぞ……」
眠気を抑えてゴーザックに続きを促す。
「太陽の闘技場の管理者になりませんか?」
「……ならないよ」
思わず苦笑する。
どうしてこういう勧誘が多いのだろうか。
「はは、予想通りの答えです。ま、私は催促されただけですのでこれで引き下がります。ですが、このままだと戦闘の技場は一切行なわれず以後ランク5は誕生しないことになってしまいます」
「どうして?」
「管理人ありきの試練だからです。全十六組しか参加できない以上、きちんと管理できるものがいなければ無駄な争いが起きますからね」
「だから管理人が見つかるまで何もできない。今回その仕組みを僕が破綻させたから責任取れってそういうことなのか……?」
「その通りです。一番手っ取り早いのがあなたが犠牲になること。でもそれをあなたは望まない。でもそれは無責任すぎる」
「確かに。確かにそうだ」
今回仕組みを瓦解させ、主にシュキアを救うために動いた冒険者は誰しもがランク5を目指している。僕が瓦解させたせいでその夢が潰えるというのはあってはならない。
「……僕の代わりがいれば大丈夫?」
「ええ。私と違って、誰かが運営すればいいだけです。普通の仕事と何ら変わりません」
「なるほど……。それなら代わりなんていっぱいいる」
あることに気づいて僕は自信ありげにゴーザックへと宣言していた。
「……どういう意味ですか?」
「とりあえず明日、太陽の闘技場に運営者を連れてくるよ」
「かしこまりました」
僕の言葉にゴーザックはすんなりと引き下がり、僕は再び眠りについた。
***
深夜にゴーザックに宣言したものの、よくよく考えると今から彼らを集めるにも居場所の把握なんてできてなかった。
僕は朝から捜索を始めてすでに昼になっている。
目的とは関係ないがどうやら昨日の件で有名になったらしい僕はものすごく声をかけられた。
「元気か?」という軽い挨拶から「安いから寄ってかないかい?」と食堂の客寄せまで。
有名な僕が立ち寄れば、有名人が立ち寄った店という売り込みができるからだろう。
とりあえずアリーたちにはやることがもう少しあると言って、一発逆転の島から出るのを夕方まで待ってもらっていた。
それもまた延長してもらわないとダメかもしれない。
打つ手なしのまま、誰かひとりでも見つけようと躍起になっていると、
「こんなところに居たっ!」
声が聞こえた。同時に僕は驚く。探していた人物がやってくれた。
「宿屋にいると思って尋ねてみれば、やることがあるとか言って外に出てるとか言われたのさっ」
シュキアだった。
「きみに声をかけたって人が大勢いたから探すのは簡単だったけどっ……」
「ちょうど良かった。僕も探していたんだ。昨日、オジャマーロから救出した人たちをもう一度集められる?」
「ああ、それは大丈夫だと思うけど……それよりも先に言わせておくれっ」
シュキアの表情が真剣になる。
「ありがとうっ!」
人前で頭を下げられ少しだけ困惑する僕だったが、返す言葉はこれだろう。
「どういたしまして」
僕も頭を下げた。
「「ははっ……」」
それがとてつもなく照れくさくて、どちらの口からも笑いが零れた。
「それじゃきみに言われたことをやってこようかなっ。さすがのあちきでも少し時間がかかるけど、いいかいっ?」
「夕方までには集めれるかな?」
返した質問の答えでシュキアは察する。
「もしかして、今日旅立つつもりかいっ?」
「うん。ランク5になるために来たようなものだからね」
「そっかっ。寂しくなるねっ……」
「元に戻るだけだよ。もちろんいい意味で元には戻らないものもあるけど」
後者はオジャマーロの悪習についてだ。あれはもう元に戻してはならなかった。不幸になる人が多すぎる。




