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tenth  作者: 大友 鎬
第2章 交わらぬ嘘
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衝撃

 6.


 飛空艇が僕たちが乗ったフレージュの船着場に到着すると、アネクにアル、リアンも降りたことに気づく。ヴィヴィだけ別行動だと気づく暇はこの時にはなかった。

「今日はここで泊まって、明日の朝にブラジルさんのところに戻りましょう」

 ネイレスに引っ張られ、僕は宿場へと入っていく。

 疲れていたのかすぐに僕は寝てしまい、しかし習慣のように朝は早く起きた。

 いつものように朝食をひとりで摂ろうとするとすでにネイレスがいた。

「早いですね」

「ヒーローが早く起きるだろうと思ったからね」

 ネイレスのもとへと料理が運ばれ、僕も昨日と変わらない朝食を注文する。アビルアさんのココアには劣るがここのココアも絶品だった。

 やがて僕にも朝食が運ばれ、ネイレスもようやく朝食に手をつける。とっくに冷えた朝食だったけれどネイレスは文句も言わず、僕たちは一緒に朝食を摂った。量がネイレスよりも少ない僕は先に食べ終わり、温かいココアを一気に飲み干すと、宿屋の主人にネイレス分の朝食も払っておいた。

「いくらだった?」

 席に戻った僕にネイレスが言う。気づかれていたらしい。

「別にいいですよ」

「よくないでしょ。アタシはあの草原から出ることはおそらくもうないだろうから、このぐらいは払わせてほしいんだけど」

「……でもそういうなら昨日、僕の分も払いましたよね?」

「あれ、ばれてた?」

「ならこれでおあいこです」

「意外と勘が鋭いんだね」

 ネイレスが微笑みをくれる。

「それはさておき、アタシが食べ終わったらブラジルさんのところに戻るわよ。フレージュの観光はまた今度。それが目的じゃないしね」

 ネイレスが肉叉(フォーク)でソーセージを突き刺しながらそう言った。ネイレスが朝食を食べ終え、席を立つ。

 僕もあとに続き、宿屋を出る。


 ***


「γに告ぐ。永遠の新人に、謎の仮面男。宿から出られたし。どうぞ」

『こちらγ、了解。σに告ぐ。そのまま見張られたし』

「了解した。そのまま尾行し、謎の仮面男の正体を探る。どうぞ」

『こちらも遠方から正体を探る。どうぞ』

「了解した。それでは任務を続行する。“救済同盟”の名をもとに情報を明るみに」

『“救済同盟”の名をもとに情報を明るみに』

 誰かが暗躍していることなど、ふたりは知る由もない。


 ***


「やっぱり、アレでした。セレッツォとハイレムはセフィロトに名前が刻まれていました」

 ヴェーグル・レジデトは眼前の男へと報告する。

 生命を司るセフィロトの樹に名前が刻まれること、それは死を意味していた。

「やはりそうでしたか。ご苦労様です。ヴェーグル」

「それにしてもアレですね。あいつらはなぜ死んだんです?」

「分かりません。ですがあなたは別任務がありますのでそちらの調査はレクシー姉妹に任せます。あなたは引き続き、レシュリー・ライヴの捜索を」

「それはアレです。分かってる。そういやセレッツォの【情報庫(ライブラリー)】にネイレスの記録が残っていたらしいです。おれも詳しくは知らないですが、ネイレスもようやくランク2になろうと決めたんですかね?」

「……ふむ。パートナーは誰なんでしょうか」

「残っている情報には仮面を被った投球士系の男と書いてあります。まさか、レシュリー・ライヴ?」

「可能性はあります。彼は大草原に行ってしまった。その後の消息は不明ですが、大草原にはブラッジーニとネイレスがいます。そのネイレスがランク2の試練に現れたということは、そうかもしれません」

「だとしたらおれは、ネイレスたちを観察しその男の情報を集めるアレってやつですか」

「そうですね。お願いできますか?」

「そりゃもう。任せてください。けど“救済同盟”の奴らも仮面の男の正体を探ろうとしているらしいです」

「ふむ。では競争となりますね。どちらかが巧みに情報を得ることができるかの」

「こっちに決まってます」

「そうなるとありがたいですね」

「任せてくださいよ、ブラギオさん」

 ヴェーグルは自信ありげに答えた。


 ***


「ただいま、ブラジルさん」

 出迎えてくれたブラジルさんにネイレスは満面の笑みで答える。

「どうしてここに?」

 疑問に思った僕は尋ねる。

「バカだな。私がいないとここの魔物(モンスター)が寄ってくるだろ。どうやって私のもとに帰ってくるつもりだった? まあ迎えに来たのはついでと偶然が重なり合った結果だがな。あそこにいるやつ、分かるか?」

「誰ですか?」

 ブラジルさんの指す方向には無精ひげを生やした男がいた。生きるのが面倒臭い、まるでそう訴えるかのような気だるげな瞳をしていた。けれどその奥には強い意志を持っているようにも感じられた。僕やブラジルさんが比較にならないほどがっちりとした体格は、歴戦の戦士を思わせる。

「あいつはディオレス・クライコス・アコンハイム。ディオレス・クライコス・アコンハイムだ」

「なんで名前を二回言ったんですか?」

「バカめ。大事なことは二回言ってみるのが常識らしいぞ」

「それ、本当ですか?」

「嘘だ。まあそれはともかく、ディオレスという名前を聞いたことはないのか?」

「聞いた覚えはあるんですが……」

「それを世間では忘れたというんだ。まあいい、グズのために教えてやるよ。あいつが[十本指ザ・ゴールデンフィンガー]の一本指(ファーストサム)。一番強いと認定を受けているやつだ」

「アタシはブラジルさんのほうが強いと思うな」

 ネイレスが補足的に蛇足として付け加える。

「そりゃ当然だ。まあこの草原限定だがな」

 僕は呆れ顔をしていた。

「お前、なんてアホ面だ。言っとくが私たちはな、誰もが最強だと自負しているんだ。じゃなきゃ全てを手に入れるために冒険者なんてやってないね」

 ネイレスが力強く頷くも僕にはよく分からない。

「ともかく、ディオレスのもとに行くぞ。もしかしたらお前が知りたい情報が手に入ったかもしれない」

「本当ですか?」

 僕は自然と笑みを零す。

 僕たちはディオレスへと駆けていく。

「ブラジル! 遅いぞ、遅すぎる! ちょっと遅い朝メシにするぞ!!」

 僕たちに気づかないかのようにディオレスは後ろ姿のままブラジルに叫ぶ。

「ちょっとはこっち見て、状況確認しろよ、バカ」

「気配がふたつ増えたことは知ってる。そいつらが腹を空かしてないってこともな」

 ディオレスが焚き火の近くに座り、僕たちの見えないところで何かの作業をはじまる。手に持っていたのは、何かの肉が刺さった鉄の棒。

 それを見て僕はぎょっとする。

「なんだよ。ゴブリンの肉なんて今更、珍しくないだろ」

 安心させるかのように、ディオレスが答える。

「でお前がアリーの情報を知りたいやつか」

 肉をかじりながらディオレスは言う。

「ええ」

「確認するが、アリーってのは、放剣士アリテイシア・マーティンでいいのか?」

「そうです」

「じゃ俺は知ってるぜ」

「教えてください」

「小僧、礼儀ってものを知ってるか。教えて欲しいなら、その仮面を外して素顔晒して、名を名乗れ。その情報と俺の情報を交換だ」

「分かりました」

 僕は保護封〔マスク・ザ・ヒーロー〕に手を当て……

「ちょっと待て」

「どうしたんですか?」

 動きを止め、僕は問いかける。

「ネイレスとブラッジーニはもうお前という情報を知っているだろうからいいとして……知る権利を得た俺以外の誰かに情報を与える意味はないだろう」

 ディオレスは立ち上がる。

「この距離だと、俺の銃じゃ届かないだろうな」

 そう呟き、近くに置いてあった短弓〔とっておきのパン〕を構える。

「俺に狙われたが最後。ジエンドってやつだ」

 弓を引き、狙いをつけ、放つ。矢が飛び、そして視界から消える。

「うしっ!」

 当たったのか、喜びの声をあげる。

集配員(レポーター)がいたのか?」

 ブラジルさんが尋ねる。

「ああ、【超遠視(テラスコープ)】で観察してやがった。手段からしておそらく“救済同盟”のやつらだろうな。手加減はしておいたが、頭に直撃させたから即死だろう」

「それ手加減じゃないですよね?」

「運が良ければ蘇生できるから手加減だ」

 言い張るディオレスは途端、真面目な顔をして説教をはじめた。

「第一、お前がマヌケなんだ。あいつらはおそらく試練終了後からずっとお前をつけていた。正体を探るためにな。正体を見られたくないのなら、気をつけるべきだ」

「すいません」

「まっ、ランク2程度には集配員(レポーター)の収集能力に抵抗できないだろうな。だからこそ、ランク5以上の冒険者に弟子入りし、守ってもらう。まあ弟子入りの理由はそれだけじゃないが……。それよりもツラ見せろ」

「分かってますよ」

 僕は仮面を脱ぐ。

「……なるほど。お前、もしかしてレシュリーか。〈双腕(デュアルグローブ)〉の」

「なんで知ってるんですか?」

「アリーが自慢してやがった。アタシに会いに来るから弟子にして、とも言ってたな」

「というかネイレスさんたちは僕が〈双腕(デュアルグローブ)〉だったのに驚かないんですね?」

「初めて会った時【分析(ステータス)】したから知ってたよ。それに〈双腕(デュアルグローブ)〉は珍しいけど、特別扱いするのたぶんキミ嫌いでしょ。そのうち言うかもって思ってたけど言わないし、まあこういうのもアリなんじゃない」

「仮面はつけていいぞ。〈双腕(デュアルグローブ)〉は珍しいからな。俺たちは気にしないが集配社(ライブラリアン)にばれ、情報が流出すると奴隷商も動き出す場合もある」

 僕は言われたとおりに仮面をつけると、ディオレスは話を続ける。

「それじゃあ本題に入るか。結論から言えばな、アリーは死んだ」

 ディオレスが真剣な眼差しで言った。

 こいつ今、なんて言った。

 唖然とする僕にもう一度ディオレスは言った。

「アリーは死んだ」

 僕は自分の耳を疑った。だがその真剣な眼差しはとても嘘をついているようには見えない。

 それでも信じたくない僕は叫んでいた。

「嘘だっ!」

 一度叫びだした拒否は止まらない。

「嘘をつくなっ! 嘘をつくなよっ!!!」

 何度も何度も、その言葉が信じれず、僕は叫んだ。

 僕はそんなの信じない。


『冒険者情報』――――――――――――――――――――――――――

マスク・ザ・ヒーロー(レシュリー・ライヴ)

 LV131 薬剤士 〈双腕〉 ランク2

【取得技能】

 造型、速球、煙球、転移球、断熱球、火炎球、着火補助球、毒霧球、蜘蛛巣球、破裂球、治療球

【装備】

 練習用棒(プラクティスバット)阿呆鳥の外套(アルバトロス・コート)阿呆鳥の羽飾りアルバトロス・クレスト阿呆鳥の防護腕具アルバトロス・プロテクション阿呆鳥の長靴アルバトロス・ロングブーツ、保護封〔マスク・ザ・ヒーロー〕


ネイレス・ルクドー

 LV195 忍士 ランク2

【取得技能】

 分析、抜目、峰打、空蝉、煙分身、影分身、潜土竜、伝雷、爆剣、苦無

【装備】

 上下刀〔どちらの道へアトス兄妹〕((短刀〔正直者アリサージュ〕、短刀〔嘘吐きテアラーゼ〕)、隼の外套(ファルコン・コート)(ととのえ)〉、隼の羽飾り(ファルコン・クレスト)改変(あらためてかわる)〉、隼の防護腕具ファルコン・プロテクション(ととのえ)〉、隼の長靴ファルコン・ロングブーツ(かわる)〉、保護封


アルフォード・ジネン

 LV55 聖剣士 ランク1

【取得技能】

 裂波、瞬閃、新月流・上弦の弐

【装備】

 刀剣〔優雅なるレベリアス〕、貝殻の鎧(シェルアーマー)更進(さらにすすむ)〉、貝殻の兜(シェルメット)更進(さらにすすむ)〉、貝殻の小手(シェルガード)更進(さらにすすむ)〉、貝殻の靴(シェルブーツ)更進(さらにすすむ)〉、保護封


リアネット・フォクシーネ

 LV49 賢士 〈???〉 ランク1

【取得技能】

 微風、追風、竜風、炎帝、雷疾

【装備】

 白銀石の樹杖〔高らかに掲げしアイトムハーレ〕、紫陽花の外衣ハイドランジア・ローブ改進(あらためてすすむ)〉、紫陽花の頭巾ハイドランジア・ボンネット紫陽花の手袋ハイドランジア・グローブ紫陽花の靴ハイドランジア・ブーツ、保護封


ディオレス・クライコス・アコンハイム

 LV822 狩士 ランク5

【取得技能】

 不明

【装備】

 短弓〔とっておきのパン〕、龍皮の服ドラゴンファー・クロス稀望(まれにのぞむ)〉、龍皮帽ドラゴンファー・キャップ稀望(まれにのぞむ)〉、龍皮手袋ドラゴンファー・グローブ稀望(まれにのぞむ)〉、龍皮靴ドラゴンファー・シューズ稀望(まれにのぞむ)〉、保護封


ブラッジーニ・ガルベー

 LV782 召喚士 ランク5

【取得技能】セレン、オゲン、カドミウム、ホスゲン、クラーレ、ボツリヌストキシン

【装備】不明

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