破滅
43
「なんということでおじゃるっ……。そ、そうでおじゃ。まろはお前たちの仲間になるでおじゃ。そうすれば戦闘の技場で巻き上げたお金はお前たちのものでおじゃろ? これでまろを許しておじゃ~!」
「話にならないよ、オジャマーロ。そもそも僕は、その戦闘の技場の体質を変えようとここに来たんだ」
「意味が分からぬでおじゃる。体質を変える?」
目を点にしてオジャマーロが驚く。
「誰もが幸せになれるこの体質を変える必要がどこにあるでおじゃ。冒険者たちは簡単にランクが上がり、なおかつお金だって儲けれる。そうしてまろのお金は増え、体重も増えるのでおじゃ」
オジャマーロはよほほほほほ、と笑い
「不幸になる人間は誰もいないでおじゃるよ」
堂々と言った。
「それ正気かよ。ふざけるな!」
僕は気づけばオジャマーロを殴っていた。グーパンチだ。
「何するでおじゃ……」
「だったらなんでシュキアはあんなに苦しんでいる? 作り笑いばっかりしているんだ?」
胸倉を掴んで叫ぶ。
「知らぬ。まろには大層幸せな顔に見えるでおじゃ。働きもしないぐーたらな弟を誰が雇ってやったと思っているでおじゃる。シュキアにもいろいろ配慮しているでおじゃ。それのどこが不幸なのでおじゃるか」
「何もかもだ。シュキアが好きで不自由な思いをして苦しんでいるなら僕は何も言わない。でもそうは見えない」
かつて束縛されても文句を言わない女性にあったことがある。そう隷姫ヴィクアだ。彼女はキムナルから頑なに離れようとしなかった。自分の意志で束縛されていた。されることを選んだ。
ヴィクアはキムナルの行動に愛を感じていた。
でもシュキアは違う。自分で束縛を選択したのなら、僕の救いを頼りにしない。
オジャマーロに出会う前、対峙したとき、僕の言葉なんて信じてくれない。
それを信じてくれたのが、何よりの証拠だ。
「よほほ。それは自分勝手でおじゃるな」
「関係ない」
「確かにレシュリーには他人の都合など関係ないでござるな」
「そうね。こいつ自分で決めて、勝手に救うからね」
僕の言葉にコジロウとアリーが同意する。
「よほほほほ。でもでおじゃ、具体的にはどう救おうと思っているでおじゃるか?」
「こうしてあなたの時間稼ぎをしている間に既に準備は整っている」
「どういうことでおじゃるか?」
「ジネーゼがシュキアの弟さんたちを、あんたが雇った社員たちを救っている」
「よほほほほ。それで勝ったつもりでおじゃるか? まろの社員でおじゃるからな、脅しせばよい話でおじゃ」
「それともうひとつ。もう彼らはあんたの社員じゃない。僕はお前の会社を買い取った」
賭け金はまだもらってないから、お金はアビルアさんから借りていたが大した痛手ではなかった。
「おじゃ……?」
呆然とするオジャマーロが呻く。
「だから彼らは僕の会社の社員だ。あんたが手出しすることはできない」
「おじゃああああああああ!!」
「追い討ちのようで悪いけど、あんたは僕への配当を払わなかったことで違約金も発生している。会社を買い取られたことで入るはずのあんたへのお金は全部僕のもとへ入るように手続きされているよ」
当然それは利子をつけてアビルアさんに返却する。僕がお金を借りたのはその見込みがあったからだ。
「だからオジャマーロ、あんたはもう無一文だ」
全てを言い終えると、オジャマーロは観念したように、倒れ込んだ。
「まろはどうなるでおじゃ?」
「殺さないよ。とりあえず裁判だね。もっとも誰もお金払ってくれないだろうから数十年は出てこれないと思うよ」
「よほほほほ……」
項垂れるオジャマーロを縄で縛り、連れていこうと思ったときだった。
「こちらに渡してもらおうか。レシュリー・ライヴ」
誰もいなかったはずの場所から声がした。




