進撃
38
「残念でござったな。晴れてお主もランク5でござる。これで、もうお主は戦闘の技場に参加できないでござる」
シュキアを押さえつけながらコジロウは言った。
「なんて……なんてことをしてくれたのさっ!」
シュキアの目に浮かぶのは涙。悔し涙だった。計画の破綻、それはすなわち弟は救われることはなく、あのままだということだった。
「まあ。落ち着くでござるよ」
暴れるシュキアを押さえつけようとしたコジロウだったが、観客席から罵詈雑言とともに飛んできたゴミを避けた隙を狙ってシュキアはコジロウを払いのける。
観客もレシュリーたちのことは快く思ってないようだった。
当然だ、八百長試合を滅茶苦茶にされ、リスクなく儲かるはずだったお金を一瞬に失ったのだ。
一イェンしか賭けていない男も便乗して怒っている。
そんななか、コジロウとシュキア、アリテイシアとレシュリー四人の手元に宝石〔失せし日々〕が現れる。
シュキアはそれを払いのけるように地面に放り投げると、どこかへと去っていく。
「大変な事態になったでござる」
予想していたことではあるが、荒れる現状を見てコジロウは思わずぼやいてしまう。
***
「このままオジャマーロの屋敷に乗り込もうと思うんだけどどうかな?」
備えつけの酒場で僕はアリーとコジロウに提案する。
嵐の前の静けさのように太陽の闘技場は静けさに包まれていた。もっとも、ジネーゼが言うには、賭けに負けた観客が雇った冒険者や賭けに負けた冒険者が闘技場の前に待ち構えているらしい。数は膨大だった。
「乗り込んでどうするのよ?」
「そりゃ、救うに決まってるよ。シュキアを僕たちに紹介したことから、首謀者はオジャマーロで間違いないでしょ」
「それはそうね。で、一応聞くけど、誰を救うつもりよ?」
言わなくても分かるけどね、とアリーは呆れながら言う。
「もちろん。シュキアに、その弟や他に捕まっている人々を、だよ」
「意識が奪われているとなると治療はどうするの?」
「神経毒や|眠り薬のような類だったらなんとかなるよ」
一瞬、リゾネのことを思い出してしまったが、あんな不幸なことにはならないはずだ。
そういえばジネーゼやリーネはリゾネとハンソンが死んだことを知っているのだろうか。
そんなことを考えたが、今は忘れるべきだろう。
「なるほど。だったらあんたになら治せるわね」
「それにオジャマーロは噂によると元冒険者らしいけど大した敵ではないと思うんだ」
「そうね。それは同感。あんな肥えた体で戦えるとは思えないわ」
「油断は禁物ではござるがな」
「言われなくても分かってるわよ。というかそれよりも問題は、ここからどう脱出するか、よ」
「確かにね」
この太陽の闘技場の周りには、腹いせに僕たちを倒そうとする冒険者や一般人がいる。
「【転移球】で転移できたとしても、屋敷にまでついて来れられたら邪魔になるよ」
「数を減らすにしても拙者たちだけでは到底無理でござろう」
八つ当たりする人間に説得なんてものも無意味だろう。
「もしかして三人でなんとかしようと思っているじゃん?」
扉が開き、話をこっそり聞いていたらしいジネーゼが現れる。
「だとしたら、ひどいじゃん」
「わたしらも巻き込まれていると思ってたんだけど?」
その後ろにはリーネの姿。シッタとフィスレもいた。
「第一、種を明かした本人が参加しないってのはおかしいと思わないのかい?」
次に現れたのはエリマさんだった。
「ガハハハハ! そして俺さまも参加しないのはおかしいだろ」
その後ろに呼んでもいないアエイウが登場し、申し訳なさそうにミキヨシやエミリー、アリーンが現れる。
「話は聞いたの。手伝うの!」
さらにルルルカさん、だったっけ? アエイウと戦った女冒険者が現れる。後ろにいるのは仲間だろうか。
「出来レースと知りながらも壊そうとしなかった、罪滅ぼしをさせてくれよ」
そう呟くのはパレコ。セレオーナの姿も後ろにいる。
それだけじゃない。シャアナにシメウォン、ヒルデにラインバルト、グラウスやマリアンたちもいる。アロンドだったか、盾をやたらに装備する冒険者やセリージュの姿も見えた。彼女は立ち直れたのだろうか。
「アタシがみんなに事情を話したのさ」
「ジブンも手伝ったじゃん」
「そっか。ありがと。エリマさん、ジネーゼ」
僕が笑顔を見せると、
「その笑顔はちょっと反則だね」
「……じゃん」
とふたりがなにやら呟き、
「ぐおー、オレ様の女たちに手を出してんじゃねぇーぞ!」
となぜかアエイウが憤慨しキミヨシが困り顔で制止していた。
「ジブンはお前の女じゃないじゃん!」
アエイウの言葉にジネーゼが激昂し、アリーを見ればなぜだかちょっと不機嫌だった。
「やれやれ、でござるな」
コジロウも呆れていた。
「なあ、っていうかとっと行こうぜ、ぶち壊しによ」
痺れを切らしたのか、シッタが舌なめずりしながら、叫ぶ。
「シッタ、キミが仕切る資格はないはずです」
フィスレの手厳しいツッコミが聞こえ、少しだけ笑みがこぼれる。
「よし、それじゃあ行こう」
力強く呟いた僕に、仲間は呟く。
大きな絆を持って僕たちは、昔からの悪習をぶち壊そうとしていた。




