騙手
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悔しがるアエイウに再び【三秒球】を投げ、同時に僕もそちらへ疾走。
「同じ手が二度通用するか!」
それを見てアエイウも【三秒球】に近づく。
「アエイウ、そいつが同じ手で二度も来るはずないっ!」
アリーンが叫ぶがカウントは既に「1」。
「ぬぅ、それもそうか」
翻し防御の姿勢を取った瞬間、「ジリリリリ……」という音。結果何も起こってない。
「残念、同じ手だよっ!」
悔しがるアエイウだったが悔しがる暇などなかった。
両手で作り出した【戻自在球】が左と右から強襲!
跳躍し避けたアエイウだったが、【戻自在球】同士がぶつかった瞬間、僕は【毒霧球】へと変換させる。毒の霧が立ち篭もり、そのままの着地を躊躇わせる。
「貫け、レヴェンティ」
着地点を探すアエイウへと一直線に放たれたのは【突神雷】。それがアエイウの体に当たる間際、アエイウの体が高速で一瞬だけ動く。胴体貫通は回避するものの右脇が抉られていた。アエイウは咄嗟の判断で【瞬間移動】を繰り出していたが、空中での操作が難しいのか大幅な移動はできないようだった。
【突神雷】を解放したアリーへとアリーンの鉄錘〔修復のタン〕が強襲。
ふたりがかりでアエイウを狙ったのでアリーンは自由に行動できる。僕を狙わなかったのは前方に漂う毒霧で攻撃しにくいと判断したからだろう。
大きく振りかぶった鉄錘はアリーには当たらず空を切る。振りかぶりすぎたために軌道が読まれていたのだ。だがそれこそがアリーンの仕組んだ罠だった。しゃがみこんだアリーに放たれたのは全身に仕込んだ仕込針〔針千本のマス〕。幾本もの繊細な針がアリーへと襲う。さすがにアリーも避けれないと判断したのか咄嗟に狩猟用刀剣で防ぐ。
それを好機と判断したのか短突剣〔破壊のバリン〕で超近距離からの突きを繰り出した。しかしこれが油断。
アエイウがアリーンに迫る僕に気づいたが、既に遅い。アリーンの横へと転移した僕はアリーンの顎に右手から放った【回転戻球】を激突させる。
さらにアリーンの背中へと左手から放った【回転戻球】を殴打させる。前のめりになるように倒れるアリーンの眼前には防御を解いたアリーの姿があった。
「吹き荒べ。レヴェンティ!」
顎と背中を強打したアリーンが防御できるはずもなく、アリーの解放した【風膨】に吹き飛ばされ場外に落ちる。
場外に落ちたアリーンの元へと【回復球】を投げ、若干ながら傷を手当てしておく。
「ぬぐー! なんなんだ貴様ら! 圧倒的ではないかっ!」
アエイウが実力差を感じるように呟いた。
「だがオレ様は一筋縄ではいかんぞ!」
そう言ってアエイウは長大剣を振り回す。大振りのそれは隙がありすぎたけれど、アエイウは力尽くで勢いを止め、方向を変えてくる。
それには注意が必要だけれどそれだけしか攻撃がないと言っているようなものだ。
おそらく圧倒的な射程と筋力による破壊力、それに狂戦士ならではの再生力、それがアエイウの武器なのだろう。
僕はしゃがみ、アリーは跳躍し長大剣を避ける。
僕が再び【三秒球】を投げ、【転移球】を握り締めたまま、それに近づく。
「ガハハハハハッ! 三度目も同じなのだろうがっ!」
アエイウは僕に倣って【三秒球】に近づく。カウントが「1」になった瞬間、僕は【転移球】で後方に転移。
「考えが浅いよ!」
カウントが「0」になった瞬間、その【三秒球】に近づいていたアエイウは爆発に巻き込まれる。
今度の【三秒球】は見た目は【三秒球】、けれど中身は別物。今度は本当に爆発する。
「特許取ったのは四つじゃなくて実は五つなんだ」
それが先程投げた【三秒爆球】だった。
今更の事実をアエイウに告げるも、アエイウは爆発により胴体が破壊されていた。
それでも
「痛ってぇぞ!」
【仮死脱皮】を使用してアエイウは再生する。
「あんまり使えないんだ。使わすなよ」
僕に厭味を零すアエイウの後方にはアリーがいた。レヴェンティと狩猟用刀剣のふたつの刃がアエイウを突き刺そうとしたその時、
「気づいとるわ!」
翻ったアエイウがアリーの腹を殴った。途端、一瞬にしてかき消える。
そう、かき消えた。それは解放された【同身】による作り物。本物のアリーは上空にいる。
「堕ちろ、レヴェンティ」
落雷のように解放された光速の槍、攻撃魔法階級5【突神雷】の切先がアエイウに直撃。感電し、焼き焦げる。
灰となって朽ちるアエイウだが、やはり【仮死脱皮】で再生する。
「ちょ、ちょっと待て。なんでオレ様だけ手加減ないんだよ……」
そりゃもちろん、油断ならない相手だからに決まっているが、そんなこと答えてやる必要も義理もない。
「くそったれ。ああもう分かった分かった。リタイアだよ、チクショー!!」
【仮死脱皮】を使いすぎたことや、ひとりで突破できそうもないことを理解したアエイウがリタイアを宣言。
よって決勝は僕たちの勝利だった。




